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アデルにはなんて話そうか。そればっかりを考えながら待ち合わせ場所で待つ。30分早くに来たせいか、はたまた平日の早朝のせいか。人通りは疎だ。
やがて、待ち合わせ場所にアデルが来た。魔法使いスタイルとは違い、現代のファッションスタイルは彼女に合っていた。ジーパン女子である。
「お待たせしました!!」
「ううん、待ってないよー」
様式美のやり取りを終えた後で、リアとアデルは歩き出す。
本来なら、ここでデパートに行く等、時間を挟むのだろうが。リアの心はそこまで持たない。長く生きていて、心が弱い存在なのだ。
なので、行き先はリアが決めていた。小洒落たカフェ。人通りの少なく、しかし隠れた珈琲の名店として知られるそこは、心地の良い静寂に包まれている。
カフェの扉を開けて中に入る。人が居ない適当な席に座り、店員さんに「珈琲2つ」と注文した。と、隣にいたアデルが「砂糖とミルクもくださいっすー!!」と告げる。(ふっ、珈琲をブラックで飲めぬとはまだまだ子供よのぉ)なんて思ったリアだが、彼女はまだ子供なのかもしれない。
会話。続かない。そんな時にアデルがニンマリとした顔でこちらを覗き込んでくる。
「で、先輩は大切な話がしたいんすよね?」
「な、なんで……?」
「分かるっすよ、付き合い長いんすから。そして多分、私が傷つく事でもある」
「察しが良すぎるよ……」
「そうっすねぇ……。だから、先輩の口から告げてください。私はどんな答えでも受け入れるっすよ」
「うん。俺は……アデルの気持ちには応えられない。アデルが嫌いって話じゃなくて、俺の覚悟の問題で。とてもじゃないけど、添い遂げたアデルとの別れに耐えられるとは思えないんだ。すまない、こんな情けない女で……」
「そうっ……すか」
アデルが窓に目を向け、遠くを眺める。今彼女が何を考えているか、なんてリアには分からない。
「それで、ルナさんに答えを出すつもりっすよね?」
「そこまで分かるの怖いよ」
「いや、私以外だとあの女しかいないじゃないっすかー」
アデルはケラケラと笑うが、目が笑っていない。また重い沈黙が流れそうな時に、差し時を察していたのか店員さんが珈琲を運んできてくれた。
砂糖とミルクを入れカフェラテにしながら、アデルは「んー」と悩むような唸り声を出した。
「正直、悔しいっすね。振られるのはいつでも覚悟は出来ていたんすよ」
独り言を転がすように彼女は静かに口を開く。
「でもですよ。先輩の断り方から考えるに、脈が無い訳じゃないんすよね」
「そ、そうなるのかな?」
「そうなるっすねー」
言質をとったぞ、とでも言いたげにアデルは笑う。だから、リアも彼女を。
「確かにね。アデルに告白されて嫌な人はいないと思う。君はそれだけ魅力的だからさ」
「おっと、さっきお断りした女の子を口説くのは良くないっすよ?」
「くどっ、違うよ? だからこそ、君に相応しい人が」
「まって」
真剣さを帯びた目でアデルがリアの言葉を遮る。
「私の運命の相手は先輩だけっす。この胸に燻る感情には水をかけたくない」
それから、アデルは少し溜息を吐いてから今度はこっちから告白するような面持ちで口を開いた。
「先輩、時に身体の相性についてどうお考えっすか?」
「え、なにいきなり」
「いえですね、いきなりこんな話をされても先輩は困ると思うんですけど……うーん」
腕を組み、何かに葛藤するアデル。
「よし、言おう。私ドSなんす」
「……え?」
「性癖の話っすよ」
突然のカミングアウトに、これ俺も返事したほうがいいのかと迷うリア。優しい顔をしたアデルがドS……? 何かの冗談かな?
「冗談ではないっすよ。今だから告白できますけど、先輩の事を抱きたいとずっと考えていました」
「……」
「驚かないって事は察してましたね?」
「まぁ……」
お泊まり会の時の事を思い出して、言葉を濁す。あの時に睡眠薬をアイスティーに入れなければ性的な意味で襲われていたであろう。そして拒否ができない、相手を傷つけたくない、そんな思いから受け入れてしまう自分も。
「なんで……先輩!!」
「は、はい!!」
「あと2年待ってください!! それまでに先輩を完璧に落とせれば私の勝ち。はい式場で結婚っす!!」
「はいぃ!?」
「落とせなければクサレ金髪女に負けたって事で。だから、時間をください」
時間をください。そう言ったアデルの声は必死さと艶があった。そしてなにより、誠意と共に心の焦りが感じ取れた。
本当なら、彼女のことを思うのなら。ここで断るべきなのだろう。リアだって最初は断ろうと口を開きかけた。しかし。
「分かったよアデル。君に靡いた時は、今生の別れまで添い遂げる」
「よっし!!」
アデルは勝利の祝杯とばかりに、甘ったるい珈琲に口をつけた。
………………
アデルとのショッピングも終わり、リアは子供達を迎えに、それから晩御飯の食材を買いに向かう。
……アデルが別れ際に、頬にキスしてきたのは誰にも内緒だ。彼女の本気が分かった気がする。
クロエとアルエを迎えに行くと、喜ぶ側で「で、どうだったのリアお姉ちゃん?」「どうだったのリア?」と問い詰められた。なんで子供達が今日の事を知っているのか分からないが必死に誤魔化して。晩御飯とお風呂を終える。
そして今日1日の疲れを取るようにベッドに倒れ込んだ。まだまだ前途多難で、ルナの告白に応えるのが2年後になりそうなのが、少し申し訳ない。




