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ベッドに入って1時間。3人は眠れずにいた。というよりも、リア以外は眠る気がなかった。
「早く寝なよー」
「さっきから、そう言って追及を躱して!!」
「リア、どっち? アデル? ルナ?」
「2人にはせめて『お姉ちゃん』をつけなさいねー」
「ほらまた躱す!!」
「逃げられないよリア」
ひぃんと言いたくなる程の小学生2人の追及に、そろそろ追い詰められた。さっきから頭を撫でたり、眠るように促したりして回避していたが、流石に1時間粘ってもダメなら無理だ。
そんな追及の中で1番困る言葉がこれだった。
「私じゃダメなの?」
「私もリアの事が好きなのに」
確かに2人は可愛い。道ゆく誰もが振り返るほど愛らしく、将来美人に育つであろう逸材でたる。だが、まだ子供だ。人生はこれからで幾らでも道はあるし、親離れのように離れていく事もあり得る。だからこその選択肢を残して欲しい。
……その時に残されるのは少し寂しいと思うのは、傲慢だろうか?
「2人には沢山の道を残して欲しいんだ。この先出会う人の中で、良い人が見つかるかもしれないからさ。俺が付き合ってしまったら、2人とも人を見る目にフィルターがかかってしまう気がして」
言い訳でもあり、本音でもある。自分というフィルターを通して人を見るようになってしまっては、人への感じ方が変わると思う。これでもエルフで前世を合わせるとXX歳なのだ。それにエルフの村の学校に通ってた時に、男子を勘違いさせて遊んだ経験から、人を好きになった人間は周囲と価値観のような感覚が狂うと思っている。
「リアの言ってる事は分かるよ。言葉を遠回しにしてるけど、まだ子供だって言いたいんだよね?」
「うぐっ」
クロエの鋭い察しに苦悶の声を漏らすリア。事実、その通りである。
「なら、もう少し待つ事はできないの?」
今度はアルエから。大人になるまで待って欲しいという提案だ。
「先延ばしにすると、アデルにいつまで経っても返事ができない。アデルは人間だ、エルフの俺と違って……時間には限界がある」
「それは……」
人間とエルフでは生きる時間が違う。アデルは若いが、伏せて表すなら大学2年生くらいの年齢だ。クロエとアルエが大人になるまで待つ事はできない。だから、少なくとも今月までには決着をつけたいと思っている。性急かもしれないが、迷宮探索を終え改めて仲間達と過ごしたからこそ……決めなくてはと決意が出来たのだ。
「わかった、私は諦めないけど……今はリアの気持ちを尊重するよ」
アルエがそう言うと、クロエが「いいの、本当に」と確認する。
「簡単な話だよ。大人になったら寝取ればいいんだよ」
クロエがハッとした顔で、頷いた。
「そうだね……身体の関係を持ったら、リアは無碍にできないだろうし」
納得してくれたなら有難いが、聞き逃せない言葉にリアは笑顔を浮かべた。
「君達、どこでそんな言葉を覚えたんだ?」
「あっ」
「やべっ」
軽く説教の開始だ。
ともあれ、子供達は妥協という要素を残しつつも納得はしてくれた。リア自身は少し卑怯だと、子供達の今の気持ちを蔑ろにした事は事実なので、それは受けとめて考えていかなければいけない。この先の未来、どこかで躓くだろう。
さて、これで問題はアデルとルナのどちらを選べば良いのかになる。贅沢な悩みだと自嘲しつつ、ベッドに身体を沈める。こればっかりは気持ちの問題だ。2人とも選べばいいじゃんと自分の中の悪魔が囁くが、そんな不義理はしたくない。
…………………
次の日。酒場で飲んだくれる美少女エルフがいた。
「エスト〜」
「リア、私は勤務中なのだが……」
見回り中のエストを捕まえ、泣きついている様は普段の彼女を知っている人から見れば、落ちぶれて見える。
「相談に乗ってくれよ〜」
「はぁ、30分だけだぞ」
エストはリアの前の席に座り、頰杖をついて話を促した。
「実はさ、ルナとアデルに返事をしようと思っていてな」
「ほう? 殊勝じゃないか……。あぁ、なるほど?」
「どっちに返事したらいいと思う?」
エストは暫し考え込むような仕草を見せたのち、突き放すように言った。
「私に相談されても困るな。これはリアが抱えていくべき問題だ」
「分かってるよぉ」
机に突っ伏すリアの頭をエストが優しく撫でる。
「しかしパーティーメンバーの悩みだ。私も真剣に考えてみよう。とはいえ、正直にどっちが良いと決めるだけなんじゃないか? 告白後の関係性をグダグダと考えているなら、その辺は全て忘れてみる事だ」
「それもしてる。困ってるのは……どっちも同じくらい大切で好きだって事」
その時にエストが確信的な一言を投げかける。この言葉は、リアの中で迷っていた道に光を差してくれた。
「好き、に区別は?」
「……あるかもしれない。アデルは後輩として好きだ。ルナは同族の同僚として好き。アデルにあって、ルナに無い。逆もまた然り」
「うむ、決めたみたいだな」
「決め切れてないよ。けど、俺は多分アデルを振る」
「何故か、は聞いて良いか?」
「アデルには、やっぱり同じ寿命の人と付き合って欲しい。これは俺の我儘だ。俺はとてもじゃないけど、添い遂げたアデルの別れに耐えられる気がしないんだ」
「逃げだな」
「あぁ、そしてルナを選ぶ事に不義理がある。だから告白は本気でやるよ。アデルの事も話した上で君を選びたいって」
「そうか」
エストは自分の周囲が少し変わる未来を想像して。時間が経ったのだなと思う。エルフですら停滞する事はない時間の流れに、言葉にはし難い思いを胸にしながら、最後に。
「私は力になれただろうか」
「うん、ありがとう」
「ならばよかった。この先、リアがどんな選択をしていこうと私は味方でいるからな」
「俺には勿体無いくらいの言葉だ」
………………
「ところでエスト、旅行はいつ行く?」
「リア……普通、女の話をした次に持ち出す話ではないだろ」
「でも、早めに決めておかないと。エストの休みに合わせないとじゃん。俺もまだまだグラビアやファッションショー、ブランド物の試着披露とか予定があるし」
「むぅ、私は基本的に土日は休みだが……。4日ほどは欲しい」
「お、2泊3日? いいね」
「のんびりするなら2泊くらいはしたいからな。よし、来月に休みの希望を出しておこう。決まったらリアに連絡するよ」
「おーけー、行き先は俺が決めていいよな?」
「あぁ、期待してる」
楽しみの予定を入れたエストの表情は、年相応にワクワクが見て取れた。
………………
翌日。リアはアデルに予定を尋ねると、今日は空いていると返事が来た。『会わないか?』と連絡を入れると『OKっす!!』と元気な返事が来た。これから、アデルを振る為に彼女の元に向かう。悲しませるのだろうか、それとも俺への未練を振り払って前を向いてくれるのだろうか。不安を胸に、子供達が学校に行くのを見届けてから、家を後にした。




