33
3人同じベッドで寝て、いつものルーティンで朝早くに起きたリアは、目を擦り欠伸をする。2人を起こさないようにするりとベッドを抜け出す。あれだけギクシャクしそうだったのに、数日とは言え2人きりにしたのは正解だったようだ。仲良く眠っているように見える。
2人の頭を撫でてから、顔を洗って、朝食の準備を始めた。
ピンポーン。
そんな時、朝早くだというのに玄関のチャイムが鳴る。こんな時間に誰だと悪態を吐きつつも応対の為に玄関へと向かう。
扉を開けた瞬間、スッと足が差し込まれた。
「おはようございます!!」
「うぉ、え、誰?」
「SNS新聞社の者です!!」
「新聞は間に合ってます」
「違いますよ!! 取材ですっ!!」
朝早くからこれで、しかも自宅を早速特定された事にげんなりする。それにこんな早朝に取材とか常識知らずかと説教しそうな時である。記者の背後からルナの声がする。「このひと、止まりませんよ」。
「SNSは新鮮な情報こそ命っ!! 本当は昨日取材したかったのですが、王国騎士団から禁止命令が出てましたし……。他の人にこっそり取材しようとしても断られたので……」
「そりゃ、みんな疲れてるからね。あと話したら報酬は無しって話だったし」
「だからこそ!! 美麗エルフのお2人には出来るだけ早く取材したいと思っていたのです」
裏からルナが「面倒ですよね、ぶっ飛ばします?」と物騒な事を呟いた。朝から叩き起こされたルナはキレていた。何気に朝が弱いのだ。
仕方なくため息を吐いた。
「はぁ……入ってください」
「ありがとうございます!!」
その時、階段を駆け降りる音がした。背後から「おはようリアー」「おはよー」とクロエとアルエの声が聞こえてくる。リアはせっかくの休みなのだからしっかりと寝かしてあげたかったと思い。
「取材の前に1発ビンタしていいですか」
「嫌ですけど!? あと名刺どうぞ」
名刺にはサクヤと書かれていた。可愛らしく花の絵柄が散らされた名刺は、まるで彼女の内面を写しているかのようだ。
…………………
ルナも交えて、朝ごはんの支度をする。リア的には取材をまともに受けずとも世間的イメージは揺るがないし、迷宮探索もなんか微妙だったので、適当にあしらう事にした。
「リア、サラダが出来ました」
「ありがと、クロエーアルエー、テーブルに運んでくれー」
「「はーい」」
そんな状況で所在無さげなサクヤが「あのあの」と困惑……ではないか、困った様子で手持ち無沙汰になっていた。
「記事にするなら俺達の風景を写真にするだけでも、そこそこ売れると思いますよ?」
「私はあまり有名になりたい欲はないんですが」
「ルナが駄目だってさ、クロエとアルエを写すのもやめてくれよ? 学校で変な噂とか立つと困るからな」
「分かりました……」
とりあえず朝食のベーコンと卵を焼くシーンの一枚を撮影した記者は満足げに頷いてから……ぐぅぅうと腹を鳴らした。それでも早速ノートパソコンでささっと記事を作りSNSに載せるあたりはプロだった。リアは「へぇ?」と思いほんの少し好感度が上がった。そんなサクヤはリアとルナを交互に見て微笑む。
「それにしても、お2人が並んでいると夫婦みたいですね!!」
「!?」
「あと、リアさんはいつお子さんを出産したのですか……?」
「俺が産んだんじゃないからね!?」
ルナがほんのり頬を朱に染めて「リアが夫……」と呟く。そこへ話を聞いていたクロエが「違うもん、私がリアのお嫁さんだよ!!」、アルエが「私のリアだから」とサクヤを威嚇する。ついでにルナを牽制しているようだ。威嚇には威嚇で返すように、ルナは満面の笑みを浮かべている。
「3人とも喧嘩しないの。ほらベーコンも卵も焼けたから持っていく。ルナも席についてくれ」
3人はそれぞれ軽く返事をすると席に向かった。何気に、これが彼女達のコミュニケーションなのだと後から気がつく。少しだけ照れ臭く感じた。
「サクヤさんも。どうせなら朝食、食べていってください」
「え? でも……」
「今更、遠慮はいらないですよ。むしろ遠慮する性格なら朝早くから突撃なんてしないでしょ?」
「うぅ、意地悪ですねリアさん。ありがたくいただきます」
ささっとサクヤの分の朝食も作り席に運ぶ。余分にベーコンを焼いていてよかった。
5人が席につき、それぞれが朝食を口に運ぶ中で。パンをもきゅもきゅしていたリアはお行儀が悪いと思いつつもサクヤに問いかける。
「それで迷宮探索についての記事でしたよね?」
「はい、リアさんのパーティーなら、第一線にいたのではと思いまして」
とりあえず、リアはあの時に起きた全てを包み隠さずに話した。ただし迷宮の真実である『神の墓』の事は伏せて。それでも迷宮の宝の話になるとサクヤは食いついてくる。リアも思い出しながら楽しく説明をし終えた。
「……ってな感じです」
「なるほど、早速記事にします!!」
隣で聞いていたクロエとアルエも、かなり興味が引かれた様子だ。これは2人のためにもここで話して正解だったなと思う。
………………
SNSではそれなりに迷宮探索の話題がトレンドに入っており、冒険者の誰かが撮影した宝物エリアの写真が公開された。
また、王国の判断でヘイロー大迷宮の宝。国が認定した名称『星間のペンダント』が公開されて、ニュース番組は宝の性能の話題で持ちきりである。
ある程度の情報を仕入れ終え、一息ついたリアは久方ぶりにゲーミングチェアに腰をかける。それからパソコンの電源を入れてFPS系のゲームを起動させた。
その時、部屋の扉がガチャリと音を立てて開く。
「リアー」
「リア……」
「およ、どうした2人とも。もう寝ないと明日がキツイぞ」
「うん、そうなんだけど。夢見が悪くて」
「ちょっとだけ、リアがゲームしてるところが見たい」
「俺がゲームしてるところを見ても面白く無いと思うが……」
どうしようかと逡巡する。別に見るのは構わないが、なにぶん部屋が狭い。所狭しとコレクションやらが突っ込まれた部屋は、あと椅子ひとつ入れるのがやっとだ。椅子ひとつはリビングのモノを使えばいいだろう。
「椅子3つは部屋に入らないから、2人のうちどっちかが俺と座ろうか」
「むむっ」
「仁義なき戦いの音」
クロエとアルエはぐいっと拳を構えると、両方素早く突き出した。
「じゃんけん!!」
「ぽん!!」
「やった!!」
「むぅー」
買ったのはクロエだった。リアはこうしてじゃんけんでも対立を解決できるようになった2人の成長を喜びながらも、今回ばかりは仕方ないなとアルエの頭を撫でてから、クロエを招き寄せる。
クロエは嬉しそうに駆け寄ると、リアの膝上にちょこんと座る。アルエも椅子に腰掛けたところで、起動しかけていたゲームを、さてどうしようかと悩む。人を撃つゲームをしたら教育に悪いか? しかし昨今の若者は幼稚園児からSNSやFPSなどのゲームを嗜んでいると聞く。(俺がやってるのを見てつまらないなら)。
「折角だし、今回はクロエとアルエがプレイしてみるか?」
「いいの?」
「やった!!」
「よーし」
コントローラーを握ると、2人に操作を教えながらNPCを撃つ。ある程度を教えると、クロエとアルエは交互にコントローラーを握りながらNPCを必死に撃ち操作を覚えていった。そうして30分ほど。マップを覚えるのは無理だが、操作はほぼ覚えてしまった。天才かな? (親バカ)。
そして試合を何度か経験して、もう寝るかという時間。少しだけ眠いと欠伸をしていたリアは、そういえば聞いておかないといけないなと、言葉を紡ぐ。
「2人はさ、今は本当に俺の事をラブの意味で好きなのかい?」
「うん、そうだけど」
「私も。結婚するならリアがいい」
「そっか」
その愛は『今は本当』かもしれない。
しかしいつかは変わり行くものだとも思っている。
「大人になるにつれて、考えていくようになると思う。だから、その先の途中……俺に他の恋人ができても……」
言葉が詰まる。
「いや、なんでもない」
「なんでもなくはないよ!?」
「結構大事な事言ってたよ!?」
「ささっ、今日はこのひと試合で終わり!!」
「「えぇー」」
2人は二重の不満を示した。というより、ゲームよりもリアの恋路が気になるらしい。
「というか説明してよ!! 誰が好きなの!?」
「リア、今日は寝かさないよ!!」
誤魔化して、2人の頭を撫でる事で忘れてくれないかなーと思うリア。眠かったとはいえ迂闊だった。




