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名付けるならば『降臨、風の巨椀』とでも言えば的当だろうか?
周囲の壁に亀裂が入り、風が吹き込んでいく。ちょうどアイゼン隊長達が来たあたりで風は意志を持ったかの様に収縮していき、軈てハスターちゃん様が閉じ込められていた空間、そこから出てきた腕に近いモノが形成された。
アイゼン隊長と刹那のアイコンタクトを取ると、リアも対抗して風を纏う。アイゼン隊長が全員に号令をかけ、リア達を残し撤退を指示する。
「《黒風魔法》」
駆ける、するとリアに向かって鋭い風が貫く様に放たれる。紙一重で回避して、リアは炎を纏った短剣を振り下ろす。
炎が弧を描き、一撃が放たれるが同時に『横』へと風の刃が放たれた。
「《風歩》」
リアが瞬間移動したのと同時に炎と風がぶつかり爆炎を吹き上げる。
リアはパーティーメンバーの元に着地した。
「あいつかなり頭が良いぞ!?」
「ハスターちゃん様のアホっぽさからは想像できない魔物だな」
エストが何気に酷い事を言っているが、本当にその通りだと思う。
「さて……我らがリーダーの攻略方法を聞こうか?」
ダルクが《鍵箱》から取り出したロケットランチャーを担ぎながら問いかけてくる。
「ルナは炎系の魔法で援護射撃を。アデルは不本意かもしれないけどルナの護衛と俺達のバックアップを頼む。エストは鎖魔法を展開しつつ、ダルクの2人で『核』を探す」
作戦を伝えていると、風の方向が変わった。魔物の手のひらに風の弾が作られていて、あれを放たれれば普通にパーティーが壊滅するだろうと寒気がする。
「【集え】」
リアも対抗して風を集める。魔力を捻り出し、特大の風弾を作る。そして、魔物とリアの両方から攻撃が放たれた。
「アデル!! 頼む!!」
「了解っす!! 《結界》!!」
アデルが短く唱えると同時に風弾は着弾し爆風が荒れる。風の暴力が、迷宮を破壊しながら爪痕を刻んでいった。しかし研磨を積んできたアデルの結界が崩れる事はなかった。
そしてパーティーは動く。エストが大量の鎖を召喚すると、風相手に巻き付きながら核を探す。その間にダルクがサーモグラフィーや本人しか使い方が分からないであろう謎の機械を使いつつ、何か検証する様にロケランを放ちながら駆ける。
リアとアデルは風やバフで援護をする。一方でルナは魔力を練りまくり《神の炎剣》の発動チャージに入った。
そんな折、全員に通信が入る。エストとダルクからだ。
「右斜め前。座標送るからエスト頼む」
「了解した。【鎖よ】」
暴風の中であっても、鎖で巻き付くくらいならすり抜けられる。エストはダルクの送信した座標を一瞥すると鎖を一斉に動かした。すると、硬い何かを鎖が捉えた。
「あった!! 皆、引き抜くぞ!!」
ルナが「私もチャージが完了しました!! リア、一緒にお願いします!!」と伝える。当然リアも頷き、ルナの手に合わせて《黒風魔法》を発動させた。黒い風が魔物の風とバチバチ音を立てて拮抗する中、エストが3、2、1と数を数えて「今!!」と核を引き抜いた。
「《神の炎剣》!!」
「《黒風魔法》!!」
引き抜かれた黄色い核らしき宝石に向けて、ルナの巨大な炎の剣が振り翳される。それをリアの風がバックアップして、超加速と炎を吹き荒らしながら振り下ろされた。
だが。
「拮抗している!?」
あの暴風の核なのだ。まさか、拮抗するなど誰も予想しておらず。しかしリアの行動は早かった。駆け出して炎剣の上まで飛ぶと、半回転しながら【風の槌】と唱え短剣を叩きつける。「バァン!!」と一際強い風が炎剣を押し込み、足らないならばとリアは何度も何度も【風の槌】と短剣を叩きつけた。
そして、パキッと小気味いい音が鳴り。
次いで、ガシャンとガラスが崩れる様な音が響いた。ただし、リアの第六感がまだだと告げる。
「全員集合!!」
急いで全員に号令をかけ、アデルの元に集める。ダルクは転移魔法でエストを回収しつつ、アデル達の元へと戻った。
「アデル、もう一回結界を頼む!!」
「はいっす!! 《結界》!!」
「《黒風魔法》!!」
壊れた核から息が詰まる……否、呼吸すら困難な風が放たれた。リアは全力全開の風で対抗する。それが15秒ほど続き。
「……終わった?」
風がピタリと止み、静寂だけが残った。
…………………
「思ってたよりもーって感じするなぁ」
リアが本音を漏らす。本来ならば苦戦する相手なのだが、パーティーメンバーが優秀すぎた。風の魔物をこうも早くに倒せるとは。ダルクも思わず呟く。
「これ小説にしたら1ページで終わるぞ」
「的確な例え」
「良いではないか。全員無事に、そして攻略できたのだから」
「そうですよリア。怪我なく勝てた、それが1番良い結果です」
「私は今度こそ先輩のお役に立てて良かったっす」
感想をそれぞれ口にしつつ、パーティーは前に進んだ。さて、この迷宮のお宝はなんだろうなと楽しそうに言葉を交わしながら。
………………
宝物庫、その言葉が相応しい光景が広がっていた。あたり一面に散らばる金銀宝石。この部屋ひとつで今回遠征に来た冒険者全員、人生を終えるまで堕落しても生きて行けるほどだ。
アデルは正直に金貨を何枚かポケットに突っ込んではエストにバレて叱られ、一方のダルクは《鍵箱》で密かに宝を削り取る。ルナも眩い光景に目を細めながらも手に取った金貨一枚を弄ぶ。
そんな部屋の最奥。中央には拓けた場所があり。小さな古めかしい箱が置かれていた。
「あれが今回の迷宮報酬か?」
全員、奥に向かう。リアは「開けるぞ?」と前置きしてから開いた。
箱に収められていたのは、大きなダイヤに似た宝石がつけられたペンダントだ。綺麗な装飾も美しく、宝石は光の加減で虹色に光る。
「最初に手に取ったやつに情報が渡るぜ。ほら、リーダー」
ダルクがリーダーであるリアの肩を叩く。背後を向くと、全員が生暖かい目でリアを見る。
「いいのか?」
「先輩が適任っすよ」
「ではでは、遠慮なく」
リアが宝石に手を触れると。脳内にペンダントの情報が流れ込んだ。
『星間移動の保護。
放射能、呼吸、適温体温、圧力、空間移動を保護する。
宇宙空間での生存を可能にする』
「おぉ?」
「どんな感じっすか?」
「なんというか……」
リアは全員にペンダントの効果を告げた。
「微妙」
「宇宙か、夢が広がるな」
「海底とかも調査できるんじゃないっすかね? まぁ装備が先に潰れそうっすけど」
「宇宙でもそれは変わらないですね。食料や水が尽きれば死にますし」
「宇宙って言ってもなぁ、移動手段が無いと終わるしな」
「大気圏に突入とか使えると思ったけど、着地の衝撃はそのままっぽいな。やっぱ微妙」
好意的に捉える事もできるのだが、やはりなんというか、あと一歩足りない性能である。結果的に、全員凄いけどなんか微妙という結論に落ち着いた。
それに結論がどうであれ、一旦は国の預かり物になるのだ。ならば、国のお偉いさん方が何かしら活用法を思いつくだろう。願わくば、国の未来に繋がることを願って。




