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エストが綺麗な鎖捌きでリアを地上に引き上げる。
すると、どこか遠い目をしたリアと必死に腰にしがみつく謎の女。
闇の中できっと激闘をしていただろうと思っていたリアのパーティーメンバーは、困惑を浮かべる。まーたリアが女を連れてきたと。そんな中、冷静なエストはひとまず無事な事に胸を撫で下ろした。
「怪我が無くてよかったよリア。お疲れ様」
「ありがとう、まぁ戦いとかなかったんだけどね」
「だろうね。鎖の反応から戦闘の気配を感じなかったから。それで、その女性は誰だい?」
「ハスターちゃん様先生。説明」
リアの命令にハスターはさっきリアとしたものと同じ説明をして、4人から「ネタバレくらった」と返させれた。
「なんか、悔しいっす私」
「今回ばかりはアデルに同意ですね。迷宮は神秘性があるからこそ魅力的だったのに」
「あー、神秘性は分かるっす。はぁ、そのまま迷宮になってれば良かったのに」
「流石のダルクさんも、ちょーっと腹立つかな」
「リアぁ!! 貴方のパーティーメンバー冷たくないですか!?」
「ネタバレはそのくらい罪深いって事だよ、ハスターちゃん様先生」
再びリアの腰に抱きついて涙を流すハスターをアデルとルナが引き剥がす。しかし不満な彼女達とは逆に、エストはとても興味深そうな顔をしていた。
「だが面白い話でもあるな。いやはや、神々の墓だとは……」
その辺の話に面白さが無いとは言えないリアも同意する。
「なんだかんだ、興味深い事実なのは否定できないよなぁ。あと、3階以降はハスターちゃん様先生も分からないらしいよ」
「そうなのか? ワクワクを奪われなかったのは僥倖だ。さて、それで……リアはこのハスターをどう説明する?」
「それなんだよ、アイゼン隊長達になんて言えばいいか……」
ハスターの胸を揉み……揉めない事実に爆笑していたダルクが「封印されてた女の子でいいだろ」と意見を言った。リアとエストも「まぁ、変に誤魔化すよりいいか」と結論つけ。ハスターを虐めていた2人を止めながら、こちらに向かってくるアイゼン隊長への説明を考えた。
……………
「なるほど。迷宮に封印されていた者か。あの闇の中に囚われていたのだな。頑張ったなハスター」
母性全開で慰めるアイゼン。リア達とは違い善意100%のアイゼンにハスターは本気でキュンとした。
「リア、この方は結婚しています?」
「アイゼン隊長は独身だぞ?」
「よしっ」
グッと拳を握り喜びを表すハスターに、アイゼンは「早く結婚したいなぁ」と言いながらチラチラとリアを見る。リアは視線の意味が分からずに、こてんと可愛らしく首を傾げアイゼンは(だろうな)と内心で残念に思いつつ。
「本格的な検査などは王国に戻ってからにしよう。ハスター、君は外にある移動要塞で身体を休めるといい」
「だそうだぞ。邪魔だから引っ込んでな」
「なんでみんな私に厳しい……あぁ、アイゼンさんは優しいですね……」
それからはハスターを保護という名目で移動要塞に連れて行くことになり。何人かの騎士が護衛として付き出て行った。みんなあの戦闘の後だが、そもそも腕からの攻撃はあんまりなかったのもあり余裕そうだ。
彼女が二階層の洞窟を潜るのを見届けた所で、アイゼンはリア達に向き直った。
「リア、本当のところは何者なんだ?」
「ありゃ、やっぱり誤魔化せませんか……」
それから同じ説明をアイゼン隊長にもすると、興味深そうに考え込んだ。
「なるほど……神々の墓か。ならば帰国後に神話関連の書物を漁ってみるのも面白いかもしれないな」
「エストも同じ事を言ってましたね」
「うむ。ならば休みの日にでも城でお茶会でもしようか。君達を全員呼んで」
「いいんです?」
「勿論、提案しておいてなんだが親睦を深めるのは嬉しく楽しい事だからな。……リアだけでもいいのだが」
最後の言葉が小さくて聞こえずに、リアが首を傾げる。アイゼンは「なんでもないさ」と誤魔化して。
「それじゃ、次の階層への挑戦を開始しようか」
………………
人が切り出したかのような大小様々で真四角の石が、古代の文字を光らせながら浮遊している。神々の墓、ヘイロー大迷宮4階層。そこはどこかサイバーパンクを感じる場所だった。さっきの鬱蒼とした森林からこうも変化するものかと驚く。
中央には、聳り立ち浮遊する巨大な三角形の石が回転していて、誰がどう見ても「ここに来てください」と言っている事が分かった。
「いくかー」
肩を回しながらリーダーであるリアが言うと、パーティーメンバー全員が頷き先を歩く。一応ネタバレを食らったが迷宮だ。罠などは警戒しつつも、しかしこうも訳のわからないタイプの場所だと警戒するのも難しいなと思う。
軈て、中央の石にたどり着いた。
リア達に反応してか石は回転をやめる。そこに描かれた古い文字を脳内で翻訳しつつ読む。
「えぇっと、ハスターの試練、ヘイロー大迷宮を攻略せしもの。墓は暴かれた。宝物が欲しければ最後の戦いを潜り抜け進め」
「つまるところボス部屋って事だな?」
ダルクが面倒そうに言った。
「私が攻略した小迷宮も、最後はボス戦だったしなぁ。迷宮って好きだなボス戦」
「でもRPGゲームとかだとボス戦こそ本番って作品多いし。ハスターちゃん様の権能がどう作用してこの迷宮を作ったか分からないが、戦いなら全員備えよう」
そう会話をしている時。三角の石が文字をなぞる様に光り開口した。そこには小さな鍵があり、何処かに飛んでいくとガチャリと嫌な音が響いた。
アデルが素早く詠唱をする。
「《身体強化》《結界外装》《強靭》《五感強化》」
「せんきゅー!!」
湧き上がる力を感じながら、リアは短剣を抜くと構える。エストも剣と鎖を、ダルクは事前に魔法をストックしつつ、ルナはリアの短剣に炎をエンチャントしてから杖を抜いた。
「先輩、支援しながら私は回避に専念するっす。だから背後は気にせず戦ってくださいっす!!」
「大丈夫か?」
「なんか、そこまで怖くないんすよ」
ダルクが横から「フラグっぽいぞー」と茶化し、ルナは「フラグが当たればいいのに」と物騒な呟きをする。エストは腹の中を隠そうともしないルナに苦笑いを浮かべた。
その時、ゴゴゴゴゴと地面が揺れる。ボス戦が始まる予感に今度こそ全員は気を引き締めた。




