28
ルナをお姫様抱っこしつつ、アデルの補助魔法もあってか少し火力の上がった風で防御を施す。アデルのおかげで身体的強化も伴っているので、ルナを少し強引に動かしても大丈夫そうだ。
そして、どうにもルナに最も焦点を当てて捕えようとしているようだ。鎖が猛スピードでこちらに迫る。
空に飛び、逃げる。
鎖は濁流のような数。数えるのは無理だな……と思える程に無数だ。
アイゼン隊長が闇で巨大なドラゴンを作り上げて深淵を殴りつける姿が見えたが、どうやら《闇魔法》ではこの奇妙な鎖を根本から千切る事は出来ないらしい。エストとアデルは支援に徹していて、他の冒険者たちと鎖の断ち切りや残って暴れる両腕の処理に追われている。
当然、リアも無数の鎌鼬を放っては見たが、千切れた鎖は「なにかしましたか?」とでも言いたげに空中で再び繋がる。
(たぶん、こいつは迷宮という存在を認知してんな。詰め方が壁に追いやってきてやがる。でなきゃ、あの図体で3階層に現れねぇだろう)
そもそも、アレは何が這い出ようとしていたのか。だが、少なくともこの森林エリアでないと出現できないはず。腕だけであの大きさなのだ、本体の図体は途轍もない……と予想。
となると、引き摺り出して叩くか。
効いているのか分からないが、あの深淵に攻撃をぶち込むか。
しかしルナの《神の炎剣》を飲み込んだ以上……許容量えぐいな。下手に魔法を撃っても、空撃ちになりそうだ。
(参った、厄介だ)
「【隠せ】」
あまり長続きしない、特殊な光の撹乱効果を持つ風を纏うと木々に突っ込む。鎖は見失った場所を彷徨うように拡散していく。熱や魔力で識別している……あ、今適応したようだ。数本の鎖がこちらに向かってくる。
風の感知で器用に木々を避けながら、アイゼンに無線を入れた。
「アイゼン隊長!!」
『リア!! 大丈夫なのか!?』
「俺はどうとでも出来るんですが、主戦力のルナを回収してくれませんか?」
ルナが小声で「やはり、足手纏いでしたか?」と心細そうに言ったので、力強く「それだけは違う」と宣言しつつ。
『秘策でもあるのか?』
「まぁ、少し試してみたい事がありまして」
『わかった、私達が戦っているエリアの上空を通ってくれ。闇の池を作ろう。そこに落としてくれたら回収できる』
「ありがとうございます!!」
無線を切ると、上空に舞い上がり腰からナイフを引き抜く。
「ルナ、俺のナイフに炎をエンチャントしてくれないか?」
「……分かりました。信じてますからね?」
「おう」
「【炎よ、力よ】」
元々、ドラゴンの素材ゆえか。ナイフは魔法を吸収するように一瞬で赤熱する。軽く振れば、炎が迸った。
「サンキュー、んじゃ飛ばすぜ!!」
高くに飛び出ると、高速度でかっ飛ばす。そして、風で優しく保護しながらもアイゼンの闇にルナを回収してもらい。
「リア・リスティリア!! いっきまーす!!」
炎がエンチャントされたナイフを乱舞しながら、深淵へと突っ込んだ。その時に、一本の細い鎖が腕に巻き付いたのが見え、やっぱエストは凄いなと思った。
そして、深淵は先程の粘度が嘘のように水面を波立たせて、リアを迎え入れた。
………………
不思議な感覚だ。まるで、柔らかな日差しの中、子供達と共に縁側で眠るような。安心と心地よさを感じる闇。しかし長くは続かず、放り出されるように下に落ちる。くるっと体勢を整えて着地すると、果てしなく広い空間に出た。見上げると、星空のような光景が広がっていて、あの淀んだ入り口の深淵が嘘のような爽やかさだ。空気も普通にうまい。
しかし目の前に、いた。(BGM:旧支配者のキャ○ル)。
赤熱したフード付きのコートを着た人影。フードのせいではなく、顔には深淵が嵌め込まれている。手足の隙間からはドロリとした黒い触手が無数に伸びている。
ただ、漠然とした強敵の気配……。何か違う。こう、本当に言葉にし難い存在である。
そう思っていると、人影がもそりと動く。咄嗟にナイフを構え……。
「あの、勘弁してください」
人影が土下座した。因みに土下座という文化はアルテイラには存在しておらず。前世の記憶ゆえに知っているからこそ、不可解さが……いややっぱ無理おもしれーわこの状況。
「もしかして、炎の剣どうにかしようとして?」
「頑張って吸収したんですよ!? あっちっちーですよ身体!! 下手したら死んでますよ、自我が芽生えた瞬間にこれって酷くないですか?」
「襲ってきたお前が悪くね?」
「そうなんですが!! だって仕方ないじゃないですか!! それが『迷宮』なんですもん!!」




