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ヘイロー大迷宮の入り口の遺跡っぽい場所はまさに荘厳。空気からして違う。そうだった、ここは異世界なんだと思わせる。そんな景色が広がっている。自然豊かな土壌から突然切り替わるかのように、火山地質なフィールド。灰色で六角形の石柱が点在しており、地面もタイルのように石が敷き詰められているように見え、どこか人為的だ。
そこに鎮座する、鉛色の要石のような自然とも人工とも感じ取れる不思議な正方形の石。これがヘイロー大迷宮の目標でもあり入り口だ。上下50メートルほどとあり得ない程にデカい入り口は、まるで巨大な生き物が口を開いているかのような不気味さがある。
王国騎士団は野営部隊やインターネット回線の設営などを行い、冒険者は別のパーティーとも連携が取れるように打ち合わせを行なっている。
さて。
……俺のパーティーは俺たちを遠巻きに見ないようにしている。当然声をかけてくる人などいない。
どうもドラゴンスレイヤーのリアです。
今、パーティーの仲間に集合をかけ、王国騎士団の貸し出している簡易テントにいるのですが。
「リア」
「はい、すいません」
エストの強烈な圧力に屈して正座していた。遠巻きにルナとアデルがこちらを見ているが、目線が合った途端にサッと逸らされる。君らエストに返り討ちにされたな? 恐らく、アデルは《鎖魔法》で関節をキめられ、ルナは火気厳禁の室内ゆえに何もできなかったのだろう。
それはさておき。エストはピキリと音が出るほどキレていらっしゃる。
「私が何を言いたいか、分かるか?」
まぁ……。
言われて、その通りだよなと思う。
ルナとアデルとの戯れから抜け出す為だけに、エストとの旅行を引き合いに出したのは良くなかった。
あの旅行は、秘密で大切なはずなのに。エストは蔑ろにされたと思ったのかもしれない。エストには正当にキレる権利がある。信用に傷をつけたのだから。
「エスト、ごめん」
前世より伝わる奥義、DO⭐︎GE⭐︎ZAにて誠心誠意謝罪すると、エストは聞こえるようにため息を吐いた。
「リア、君は……君が思っているよりも、みんなが慕っていることを自覚したまえ。私もお前の事はとても良く思っている。まだ年端もいかない小娘ゆえに、この感情の答えは出せないが。
それからアデルは人族だ。私と同じように、人生は短い。そして私のように足止めをせずに愛情を向けているのだ。未成年が〜というのは分かるが、少しは答えてやれ。
あとは、義理とはいえ母になったのだから、子供達を大切にしたまえよ」
かっ、かっけぇ!!
飛び級で王国騎士団の筆頭になれるだけありますわ。もう器から違いますわと、正直長く生きてきたのにこの程度な自分に悲しくなりながらも。
「分かった。でも!! エストが最優先!! これだけは譲らん!! 帰ったら楽しみにしててくれよな!!」
「まったく。……修行じゃないのだから、子供達も連れて行こうか」
「お、家族旅行みたいだな!! 帰ったら早速、クロエとアルエに紹介するよ!!」
腰に手を当てて笑うリアの笑みと言葉に、少し耳を朱に染めながらも「そうだな」と応じるエストであった。どこか、家族という言葉に暖かさを感じながら。
…………………
リア達パーティーも全員が合流する。流石に迷宮の入り口に立ってまでおふざけは無しだ。皆、瞳の先に真剣さを帯びさせて深呼吸をする。どこか古きを感じる空気が、浮世離れした感覚を誘う。この迷宮が出来てから、幾つの年月が流れたのかは分からない。ただ、今日から攻略されるのだ。全員がその心意気でここに立っている。
だいたい100名。パーティーにすると35程のグループは準備万端と、その時を待つ。王国騎士団の精鋭は中継機や冒険者の支援バッグを担ぎながら待機。アイゼンの号令まで待機する。
そして、アイゼンは心地よく透き通る声で。
「諸君、死ぬ事は絶対に許さない!! その上で、歴史に名を刻もうではないか!!」
こういう時に、冒険者の結束は大きい。全員が喝を入れるように声を上げている時に、1人の冒険者が拳を上げた。勝利を掴むように。その1人に続いて、冒険者達が続いて拳を上げた。
アイゼンはふっと笑うと、この光景に美しさを感じながら。
「行くぞ!!」
…………………
シャドゥ系の魔物とはいえ、防具や俊敏のある冒険者……というよりは、迷宮攻略に参加を志願する冒険者は己を賭けてでも栄誉を掴もうとする猛者だ。まるで散歩をするかのように歩き、倒す。リアも風を使うまでもなく斬って落としていった。
そして洞窟エリアを抜けると、広大な開けた森林エリアに出る。大凡半径で15キロの広さ。凄い広い(陳腐な感想)。そんな空間で、アデルは深呼吸すると笑顔を浮かべた。
「空気が美味しいっすね」
「だなぁ。それに始めて来たけど、凄いな此処は」
天井からは巨大な鉱石が爛々と光を放ち、森林を照らしている。そして、人が入らないが故のありのままな自然が詰まっている。ヘイロー大迷宮はアルテイラの国土故に厳重に封鎖されていたが……人の居ない森林というのは、ここまで心地良いものなのかと薄ら感動を覚えた。え? エルフの村? あそこも文明の波に飲まれたよ。
「のんびりするのもいいが、一応森林エリアも未知が多いんだから気をつけろよ?」
ダルクが注意喚起しつつ、前を歩く。全員も続いて歩みを進めた。
次のエリアに続くであろう洞窟に辿り着くまでには……。結構しんどいが、下手に風で飛んでもしもの場合があったら責任が取れないので黙る。
しかし……先行する別冒険者から悲鳴などは聞こえてこないので、魔物はまだ出て来ていないようだ。
「思ったよりも気が抜けないのは中々に辛いな」
「ですね、私もいつでも炎をブッパする準備をしていますが……」
この中で最も危機感の強いルナとエストがため息を吐く。リアも薄く風を流して探知を強化しているので気持ちは分かる。ただ、風はもう息を吸うように扱えるので、大して負担にはなっていないのだが……。
「ルナもエストも、俺たち以外に人は居るんだし。ちょっと肩の力抜いたらどうだ?」
「リア、未知にワクワクする気持ちは分かるが、その楽観は命取りだぞ?」
「そうですよ!! それにリアの事ですから、何かあったらまーたドラゴン退治の時みたいに1人で駆け出しそうで心配です」
「流石に今回は弁えるよ。単独での先行は他の冒険者にも迷惑だしな」
けど、みんなが危機になった時は。困ったな、子供を残して働けなくなるのは。護るべき絆が多いという事は、それだけこの世界に必要とされていると感じられるが……。故に、簡単に身を投げ出して『冒険』は出来ない。けれど、大丈夫。
俺、最強だから。(フラグ)
………………………
ヘイロー大迷宮。そこの最奥にある『宝』の入った小瓶は、既に割れていた。ごく僅かな地響きですら耐えられない程に劣化していたのだ。
ほんのりと光を放つ赤い液体は、しとしとと迷宮に吸い込まれていく。途端に、迷宮の壁や床がドクンと脈動した。
天使の円環を冠する迷宮は、赤い液体からエネルギーを得た事で、腹の中の汚物を排除しようと動き始める。人の身体の免疫が外敵を攻撃するのと同じだ。
ただ、得てはいけない力を持った暴力は、風が吹くように魔物を生み出した。ヘイロー大迷宮の本能的な防衛機構が、冒険者に牙を向く。
………………
「……ん?」
リアは微かな風の変化を感じて立ち止まった。パーティーリーダーが立ち止まったことで皆も立ち止まる。
「どうしたリア?」
「いやエスト、なんか……」
答えようとしてはて、この変化をどう説明しようかと悩んだその時。地面が小刻みに振動を始める。
「……リアさんや、フラグの回収がお早いですね?」
ダルクが煽ってくるが、彼女も少し顔色が悪い。
迷宮は未だに謎が多く、攻略されたモノは片手で数える程しかない。国の管理もそうだが、この便利な世の中で好き好んで死ぬような場所に飛び込む奴は少ないからだ。だが、過去からの呼び声のように各地に謎は散らばり、学者達の関心は常に高い。魔物の謎、生態すら解明されていないのだから。
故に、本当に何が起きるのか分からないのだ。
リアは剣を抜き。ルナは魔法陣を浮かべる。アデルが《結界外装》《強靭》《五感強化》を唱える。エストは鎖を腕に巻きつけ立体的に動けるよう準備して。ダルクはそっと大型リボルバーを引き抜く。
戦闘の気配を感じる。
アデルは1番若いのと、あまり戦闘向け魔法が使えないので緊張して冷や汗を流していた。いつもの飄々として、それでいてリアを好き好きと纏わりつく心を保つ事も出来ていない。思わず、手に持つ杖を強く握った、その時。リアがそっと、アデルの頭を撫でた。
「先輩?」
「大丈夫」
優しい瞳に吸い込まれるように、アデルは安心感を覚えて心を落ち着かせる。
ルナが2人を見て「はぁ……」と息を吐いた。
「リア、楽しむのはいいですが……『冒険するのは全員と共に』。忘れないでくださいね? あと、私の頭も撫でてください」
ルナの小言に苦情を浮かべながらも3人でイチャコラする傍ら。振動の強くなる地面を踏み締めて、エストとダルクは呆れ返っていた。
「貴様らァ!! 緊張感を持てと言ってるだろうが!!」
「エストさんや、口調というかキャラが壊れてますよ?」
「のほほんとしたストーリーを織りなしてきたが、これから人が死なない保証は無いのだぞ!?」
「なんかメタいな。いや同意はするけども」
地面の揺れがとてつもなく強くなってきたのと同時に、周囲からもどよめく声が聞こえてくる。
流石のリアも浮かれポンチは辞めにして。
「何が来ても、まずは命大事に」
「了解っす先輩!!」
「リアも私達を頼ってくださいね?」
「私は王国騎士団としての義務もあるのでな。誰1人として死なせる訳にはいかん」
「ま、りょーかいリーダー」




