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 その後すぐにやってきたエストは、ルナとアデルを正座させて説教をかました。ついでに《鎖魔法》でぐるぐる巻きである。痛そう。


「2人とも!! ここは王国騎士団の移動要塞の中だ!! ラブホテルではないのだぞ!!」


「「はい、すいません……」」


「それに気が緩みすぎだ!! 常に緊張感を保てとは言わないが、明日には命懸けの迷宮攻略だぞ!? なんたる体たらく、少しは魔法の調整でもしたらどうだ!?」


「「ごもっともです」」


 怒るエストは可愛いなぁと思っていると、エストはあからさまにため息を吐き鎖を解いた。


「しかし、チャンスがあれば即座にチャレンジする精神には敬意を表しよう」


 うんうんと2人に対して少し尊敬すら感じているエストにリアはツッコむ。


「ちょっとエストさん? 俺が襲われる事を公認するのはやめて?」


 あなた国の護衛部隊の方ですよ?

 そう言うとあからさまにため息を吐かれた。


「リアはさっさと身を固めろ。ふらふらしてるからこうなるんだ。いつか背中を刺されるぞ」


 ダルクが脇腹を突きながら「言われてんぞー」と煽ってくる。


 正論ではあるが……ふむ、言われっぱなしも癪だな。この状況をより楽しむにはどうすればいいか。もちろん、もうお分かりですね?


「じゃ、エスト。この迷宮攻略が終わったら早速ふたりっきりで旅行に行こうな。この前『約束』したもんな」


「!?」


 ルナとアデルが即座に起き上がるとエストに詰め寄る。


「どういうことっすか? 《弱体化》」


「エストさん、説明してくださる?」


「リアァア!! 貴様ァ!!」


 俺の部屋だが。奥に連れ込まれるエストを横目に。リアとダルクはそっと外に出て扉を閉めた。


……………


 再び戻ってきたカフェテラスエリアで、そろそろ真面目な話を始める。


「って言ってもな。役割の擦り合わせは、その場のフォーメーションで逐一変わるもんだろ?」


「まぁ、一理ある」


 戦闘、というのは常に場面が回転していく。その都度、どうやって立ち回るかが重要だ。アタッカーのリアは間違いなく前衛だが、やろうと思えば後衛も出来る。なんだかんだ《黒風魔法》は万能だ。一方アタッカーだが後衛のルナは、近接に持ち込まれると危うい。この場合リアかエスト、遊撃のエストかダルクが守るか……ルナ自身が自分の可能性の殻を破り近接に適応するしか無いのだ。アデルもルナとは変わらないが、彼女はあくまでも付与術師。攻撃魔法はあまり無く、故に護衛が必要なタイプ。

 ……のはずなのだが、なんだかんだでアデルも攻撃系魔法は使えるのと、何かと器用なのであまり心配はしていない。それに遺跡アタックの際には防御魔法も使えていたので、自分の身は自分で守れるタイプだ。


「私の役割は割と重要かね?」


「瞬間移動は戦いにおいては最高の手札だからなぁ」


「まぁ、《鍵箱》に最新作の軍備用大盾を数枚入れてきたから、構わんけども。臨機応変に、だな」


「ぶっちゃけ、未踏領域になにがあって、どんな魔物がいるか分からない以上は、対策しまくるに越した事はないんだけども。逆に対策が仇となるのは避けたいしな」


「だな。さて、話の擦り合わせはこんなもんでいいだろ」


 ダルクは紅茶で舌を濡らすと、お行儀悪く肘をついて子供のような笑みを浮かべた。


「さてさて、肝心なのはお宝だよなぁ? 何が手に入るか、ワクワクするねぇ」


「でも、今回は複数人でのアタックだし、余程の宝だったら王国騎士団に回収されるかもしれないのがね」


 あくまでも公平に。それが今回の迷宮探索だ。競争のように迷宮攻略をしてしまえば、何処かで必ず死者が出る。故に、まずは手に入った宝は王国騎士団が回収して、精査した上で引き渡しになる。そして、過去にダルクが回収した『賢者の石』のような場合は、王国騎士団というよりは、国が買い取る可能性があるのだ。


 だが、あくまでも王国騎士団に回収された場合の話である!!


「だからこそ私がいるじゃないか。《鍵箱》にしまっちゃえば問題なし!!」


「お、悪い顔してますな」


「人生、強かな方が楽しいからな」


 と、そこでふと何気に超特大な宝である『賢者の石』って結局なにが凄いんだろ、今更になって思った。万能物質とは聞いているが、その万能がよく分からない。パソコンの部品に使ったら永遠にグラボを変えずに済むとか? それを素直に聞いてみると。


「あーね、賢者の石なんて言われても、一般人はピンと来ないよな」


「王国でも人気の錬金術師をテーマにした漫画の石なら、たぶんみんな想像できるんじゃないかなーとは思うんですけど」


「ぶっちゃけ間違ってないよ? 全ての物質と等価交換できる、故に全ての物質になる事が出来る錬金素材。ファンタジーの物質、帝国コミックスのような最強の金属だって錬成できる」


「凄いってのは伝わってはくるんだが」


「よく分かんねーって顔してるぞー。錬金術の基本は『理解』『分解』『構築』なのは知ってるよな?」


「ルナが錬金術師でもあるしな。その程度なら」


 理解は当然、物質に関する知識の全て。水に例えるなら構成する元素、原子の結合による水という存在を『理解』する事で『分解』でき『構築』において、氷や気体に変換する。


 なお、ルナがポーションを作るような、単純な蒸留や焙煎を用いた調合も錬金術と呼ばれるので、この辺がかなり複雑でややこしい。


 ただ、ダルクが言いたいことはつまり。


「賢者の石は、その『理解』という過程をすっとばせるのよ。つまり、素人がとてつもないヤバい物質を簡単に作れるって訳だ。ただ夢を描くだけで、実物を作れてしまう。やべーだろ?」


「それは確かに。そう聞くと迷宮に相応しい宝だな」


「あんまり皆んなピンと来てないから、世間の評価は低いけどな」


 そう言ってケラケラと笑うが、本当にちょっと残念そうなのは年相応に見えた。


…………………


 翌朝。移動要塞はヘイロー大迷宮の入り口、大きな山と幾何学模様の岩が無数に露出する、自然とも不自然とも言える場所に到着する。


 リアはそっと、ドラゴン装備に手をつけると装着していった。この技術が発展した世界にも合わせた装備ながらも、やはりどこかファンタジーな雰囲気は拭えない。ただ、王国騎士団よりは普段着寄りの格好良いデザインにしたレイアはやはり天才だ。迷宮攻略が終わればお礼を言いに行かなければと思いながら、ドラゴンの皮で作られたTシャツに袖を通し、胸当てやスカートを装備していく。


「ふぅ……」


 この世界は本当に不思議だ。転生してから色々と学んできたつもりであるが、迷宮に関しては歴史学者が匙を投げる程に解き明かされていない。


 目標は最奥に眠る秘宝。


 そして、迷宮を攻略したという栄誉。称号。


 しかし、忘れてはならない、大切な事は。


「みんなで生きて帰る事だ。忘れるなよ俺」


 この世界で出会った絆。失うなんて事になれば、自分でもどうなるかわからない。


 とか考えたらフラグになりそうなので、頭をブンブンと振って楽しみにする方へシフト……あ、ダメだわ。なんかフラグ立った気がするわ。まーでも、へし折れるからこその転生者ですし? 大丈夫、俺最強だから(負けフラグ)


 シリアスはサクッと終わらせたい。せっかくの記憶を継承して2周目なのだ。この人生に悲劇など必要ない。


「いきますか」

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