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 ルナと談笑しながらティータイムを嗜んでいると、再び自分を呼ぶ声が聞こえてくる。今度はお馴染みな後輩のアデルだ。ルナは目に見えて顔を顰める。そんなに嫌かなぁ、いい娘なんだけどな。なんでいがみ合うんだろう? それを言葉にしたら2人揃って「原因はお前だァァァァ!!」と言われる事は察している。のでリアは軽く手を振って応える。


「おはようございますっす!! いやぁ、初の迷宮攻略、ワクワクしますね先輩!!」


 ナチュラルにリアの隣に腰掛けて腕に抱きつくアデルに、ルナのこめかみがピキリと動く。


「クソガキ、引っ付き過ぎだ離れろ」


「あ、ルナ先輩ぃ? 居たんですか。乗り遅れなかったんですねぇ?」


「どういう意味かしら?」


「他意はないっす!!」


 このまま観察するのもおもしれーなとリアは思ったが、流石に命懸けの迷宮探索前にいざこざは不味いと考え直し「まぁまぁ」と場を鎮める。


「2人とも仲良くしないと怒るぞ」


「「うぅ……」」


「まったく……」


 シュンと項垂れる2人。揃って同じような表情をするので、逆に仲が良いのではと思ってしまう。

 しかしまぁ、ここでドンパチやられるのも困るので2人に提案する。


「ここで騒ぐのもよくないし、役割のすり合わせは俺の部屋でやるか?」


 各部屋はカラオケをしても大丈夫な程に防音である。ので、多少言い合いをしても他の冒険者の迷惑にはならない。


 ……自分の事を良く思ってくれている2人だからこそ、仲良くしてほしいとも願っている。純粋な火力系魔法使いと能力上昇系付与術師なのだ。ジョブとしては相性は最高なのだ。


 そんなリアの提案に、ルナとアデルの視線が一瞬交わった。リアすら気がつかない刹那の一瞬だ。リアは知らない。ただ、彼女達は『欲望』には従順であり敵同士……しかし『結託』は出来ることを。


 一瞬の視線の交差で『理解』した2人は、そっと立ち上がる。


「そうですね、少し騒ぎ過ぎました」


「私も、ちょっと当たりが強かったっす。すいません先輩」


「いえ、私こそ」


「??」


 怖っ、何が起こってんの?


 例えるなら、歪みあっていた猫がいきなりにゃんにゃんし出すようなもの。

 全く見当のつかないリアは、やはり変なところでポンコツである。


…………………


 リアの客室に着くと同時に、ルナが肩に手を置き、アデルは小さく詠唱すると2人は魔法をぶっ放した。


「《弱体化》」


「《微弱電撃》」


「え? ぐはっ」


 流石のリアも、こんな所でしかも仲間から攻撃されるなど思っておらず、完全に不意打ちな形であった。これで反応出来るなら、仲間を信じてない事になる。そして魔法はクリティカルヒットして、吹っ飛ばされベッドに転がる。


「ちょ、おま。ルナ、アデル……なにを」


 その時、起き上がろうとして身体に力が入らない事に気がつく。痺れる筋肉、弛緩する関節。単純に動けない。


 あ、これ貞操の危機ですか?


「リア……」


「先輩……」


 目のハイライトが仕事を放棄して、にじりにじりと2人が迫ってくる。軈てベッドに腰掛けると、2人揃って恍惚な微笑みを浮かべて服に手を差し込み脱がそうとしてくる。


 ぶっちゃけ美少女とアレやコレやできるのはやぶさかでない。しかし今は勘弁して欲しい。そして未成年のアデルに手を出すのは……この場合は出されるのだが、非常に不味い。彼女達の思いを汲みたい気持ちはあるのだが……でも今じゃないだろと叫びたいのに、呂律もまわらず魔法の詠唱ができない。


 だが!! そもそも魔法を詠唱するなんて手順は克服しているのだ!! 流石俺、崇め奉れ。報酬はグラビア写真でいいかな?


「にゃ、にゃめるなにょこむしゅめども」


 舐めるな小娘どもと言いながら、同時にベッドに誘い込んだのは作戦である。ここでなら、思いっきりぶん殴れるから。2人の後頭部に向けて圧縮した風を作ると、高速で殴るようにぶつけた。


「ぐべらっ!?」


「ぐはっ!?」


 そのまま柔らかいベッドに顔を突っ込む2人。小さなたんこぶは出来ているが、まぁ加減はしたので大事には至っていないだろう。そのまま、風圧で抑え込みリアは脱力する筋肉が戻るまでどうしたもんかと思いながら、結構高級なベッドに身を任せる。


「もがもが!!」


「ほがほが!!」


 にしても。

 いらない所で結託したとはいえ、この自分にすら分からないよう無言で作戦を立てる辺り、やはり相性最高なのでは? 本人達は絶対に認めないだろうなと思いつつも、まぁ寿命の長いエルフなので将来が少し楽しみだ。アデルは思春期真っ只中だからこそ、なのもあるだろう。未来では2人も仲良くなってくれればいいな。


 さて、しかしどうしようかなこの状況。そう思っていると。


「お困りのようだねぇ?」


「!!」


 ダルクの声だ。どうやって入って……あぁ、彼女4次元空間抜けれるんだったな。彼女は楽しげな声色で提案をしてくる。


「ダルクさんに貸しひとつ、でどう?」


 目でOKを伝えると、彼女はそっと肩に手を置いて唱える。パリンと何かが砕けるような音と、全身に帯びていた痺れが一瞬で取れた。


「うごぁぁあ!! あー!!」


 ガバァァァアと起き上がり、肩を回す。痺れていた筋肉に力を入れ再起動させる。筋肉ヨシ、魔力の巡りヨシ。


「ギルドマスターに貸し一つは怖いけど、まぁ助かった。ありがとう」


「構わんよー。エストからそろそろ作戦の擦り合わせをしないか? って誘われて、グッドタイミングだったみたいだな。にしても……慕われてんねぇ?」


「暴走しなかったら本当に良い友達なんだけどなぁ」


「友達としていられる時間も短いかもよ? そろそろ決断した方がいいかもしれないぜ?」


「いや、まだ熟した方が面白い」


「リアも大概な性格してんよ」


 ルナとはそうなってもいいってくらいには好いてるよとは口にはしない。彼女達にも聞こえるように話しているから。でも、アデルはやっぱり未成年だし、その想いが男性に向けられる可能性はゼロではない。しっかり成人して、悩んでから決めたなら受け入れたい。


 でも、可愛い女の子から求められるのは、やっぱり悪い気はしないな。

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