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 クロエとアルエの学校が休みの日。3人はお出かけしていた。カフェでご機嫌なモーニングをとり、「リアの朝ご飯の方が美味しい」と嬉しい言葉を貰いながら不動産屋に向かう。そう、本日のメインは物件選びである。

 クロエとアルエの2人は「狭い方がいい」「リアと近い方が嬉しいし、寝室は一緒がいい」と言うが、成長した時にやはり、親離れならぬ姉離れが起きるかもしれない。別に寝室で一緒に寝るのは構わないが、将来の事を考えるとそれぞれの部屋は必要だろう。そして幾ら家族となったとはいえプライベートの空間があるというのは大切な事だ。と、説得したところ2人は渋々といった様子でついて来てくれた。慕ってくれているのは素直に嬉しいと思いつつ。


「こんにちわー」


 不動産屋の扉を潜る。受付のお姉さんしかおらず、シンと静かな店内は好印象だ。そんな受付のお姉さんは「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」と椅子を引いて着席を促した。態々、クロエとアルエの為の椅子も用意してくれた所もグッドポイントだ。


「受付のリゼと申します。今日は物件探しですか?」


「はい、一軒家を購入しようかなと考えておりまして」


「なるほど、どの範囲が良いとかありますか?」


 そう聞かれて考える。2人のことを思うと小学校が近い方が良い気もするが。将来、中学〜大学まで通う事を視野に入れれば、今通っている小学校に通える範囲で、かつバスや駅が近い場所がいいと思う。だが、肝心なのは2人がどうしたいかだ。だから、リアは問いかける。


「2人はどう?」


 するとクロエが「私は、リアに負担をかけたくない」と袖をひき、アルエも「リアお姉ちゃんと一緒なら何処でもいい」と受け身の体勢である。


「……もう、可愛いなぁ2人とも」


 リアはクロエとアルエの頭にポンと手を置くと撫で回した。2人も満更でもない様子で、リアの腕に抱きつくと頬を緩ませる。

 リゼは和やかなものを見たなぁとポワポワしながら幾つかの物件を提示する。


「ここなんて、どうでしょう?」


 提示された物件の中にはは、学校からは少しだけ遠いが閑静な住宅街にある一軒家があった。二階建てで一階にはリビングに風呂とトイレが別々でついており、倉庫やコレクションルームにできる狭めのワンルームも完備。2階は3部屋に分かれていて、それぞれ10畳とめちゃくちゃ広い。木造でエルフが好みそうな自然を全面に押し出したスタイルで、外壁にはいい感じに蔓などが這っている。築は10年で少しお安めである。


 ……そして場所の地図を見た時である。ある事に気がついた。


(あれ、ルナの家の隣じゃね?)


 外装の写真をよく見ると、チラリと隣の家が入っており。間違いなくルナの家の隣であった。そうなると、彼女ともより深く交流出来ることになる。嫌われていなければ……!! 否、俺は絶対に嫌われることは無いと異世界に来てからの謎の自信で鼓舞する。


 そう考えたらかなりの好物件ではないだろうかと、ほぼ即決であった。立体映像システムで投影してもらい、細かな部分も見学してみたが、不可はない。


「じゃ、この家買取で。2人もここなら過ごしやすいしいいんじゃないかと思うんだけど」


「むぅ、リアと別の部屋……」


「寝室はリアと一緒がいい」


「うん、2人が嫌になるまでは一緒で構わないよ」


 リゼはにっこり笑顔で「では、一括で宜しいですか?」と携帯端末で電卓を叩き、数字を提示する。300万ドル……高い買い物だが必要なものだ。2人にもプライベートの空間は必須である。リアは冒険者カードを取り出して、一括で支払った。


「ありがとうございます。家具などはご自身で用意する事になりますが」


「引っ越し屋に頼むよ。手配とかこちらで出来ます?」


「出来ますよー、今日の午後から宅配依頼が可能ですが、ご予定などは?」


「大丈夫、お願いするよ」


「承りました」


 それから色々と処理をして、カードキーを受け取るとリアとクロエとアルエは3人揃って不動産屋の外に出る。


「高い買い物だった……その、本当に良かったのリア?」


 クロエはまだ心配している様子で、リアに問いかける。


「2人を育てるって約束、したからな。それにもっと成長したら、必ず部屋は必要になるさ」


「……分かった。ありがとうリア。お掃除とか、私も出来る事を頑張るね」


「あっ、私も私も!!」


 クロエの言葉にアルエも同意する。そんな子供達の好意を素直に受け取り「ありがとうな。じゃ、ちょっと頼っちゃうね」とお願いした。本当に良い娘達である。


…………………


 ルナ・レーヴァテインはソワソワしていた。この閑静な住宅街、お隣は空き家だった事もあり、匂いなど気にせず錬金術を行なっていたのだが……。そう、だったである。今日の午後、ご機嫌なティータイムにでも洒落込もうとお茶を入れていた時、けたたましいトラックの音が聞こえ、どうやらお隣に誰かが引っ越してくる事を知った。


「どんなお方が引っ越してくるのでしょう」


 少し不安に思いながら、引っ越しの業者が荷解きを始めるのを見ていると。フワリと風が吹き抜けた。頭上を見上げると、親友が空から2人の子供を連れて舞い降りてくる。


「おっす、ルナ!! 昨日ぶりだな!!」


「リア!! こんにちは、えへへ」


 今日も会えた事を嬉しく思いつつ、しかし何の用事だろう? と思う。リアの背後ではコソコソ会話をする子供達がいる。子供を自分に会わせたい話はこの間聞いたが、それが理由では無い気がする。


 子供達は「あれがリアのお嫁さん?」「あの人はルナって人でリアの親友だけど、それだけじゃなさそうなんだよ」と会話しているが聞こえてはいない。


 そんなルナに、リアは高級紅茶セットを差し出した。


「これ、お隣さんへの挨拶!!」


「お隣さんへの挨拶って……まさか!? 隣に引っ越して来たの、リアだったのですか?」


「大正解〜!!」


 ルナの顔がパァーと明るくなった。ほっと胸を撫で下ろし、紅茶セットを受け取る。不安要素が好機に転じ、いるか分からない神様に感謝を送る。

 リアと顔を合わせられなかった日は、彼女にメッセージを送りながら、1人慰める日々であったが、まさかお隣さんになるとは思ってもいなかった。そして、これなら毎日顔をあわせられると内心で大歓喜する。


「困った事があったら、是非頼ってくださいね?」


 しかし悟られまいと考えて、頼ってほしいとお願いする。リアは「いつも頼ってるよ?」と首傾げた。リアはルナの好意に気が付いてはいるが、それが恋愛感情とは考えていないので微妙に齟齬が生じている。


「まぁ、子供達のことで悩みとか出来たら、真っ先にルナを頼らせてもらうよ」


「はいっ、あ、紹介をまだしてもらってませんでしたね」


 話を切り替えて、ルナはリアの背後の子供、アルエに呼びかける。


「こんにちわ、私はルナ。リアとは……そうですねぇ、10年ほどお友達をさせてもらっています。……えっと、貴方の事、聞いても良いでしょうか?」


 アルエはむっと思う。敬語系エルフで金髪美人。しかも、10年の付き合いである。こいつは強敵だとアルエはリアの手を取り抱きしめるとルナの顔を見上げながら「私はアルエ……。帝国から来た孤児……。ぐるるっ」とバリバリの警戒心を隠す事なく威嚇する。リアはアルエの行動に困ったような笑みを浮かべる。一方でクロエは「お久しぶりですお姉さん」と余裕の表情である。この私が負ける訳にはいかないと思いながらも、クロエもリアとは長い付き合いなので、心に少し余裕があった。


「はい、クロエちゃんもお久しぶりですね。折角、お隣同士になったのですから、困った事があったら頼ってくださいね。あっ、魔法の講師とか錬金術の先生なんか出来ますよ!!」


 リアにキラキラとした目を向ける。ルナは頼られる事で、また別の繋がりを欲していた。だが、そんな事など分かんないリアは単純に受け取り「ありがとう、子供達が学びたいって思った時は頼らせてもらうぜ」と返した。


 そして、ルナは子供達が好意以上の感情をリアに抱いている事を見抜いている。だから、目線で少し威圧した。長年培ってきた流し目で……。


(リアは私の嫁ですよ……?)


「「!?」」


 子供達はルナの流し目に込められた感情を感じ取ると、そそくさとルナから距離を取り「ぐるるっ!!」と威嚇してから走って家に向かった。リアは首を傾げて「早く家を見たかったのかな。ふふっ、楽しんでくれてるのならなにより。じゃあ、俺も荷解きとかあるから一旦これで」と口にする。変な所で鈍い主人公みたいな思考回路をしていた。そんなリアに、ルナは最後に声をかけた。


「あの!!」


「ん? どうした?」


「リアも、いつでも家に来てくださいね?」


「うん、誘われたら全然行くよ」


「約束ですよ」


 そう言うと、離れようとしたリアに近づき、耳元に口を持っていくと囁いた。


「あと、媚薬……完成しました」


 リアの耳がピクリと動き顔が赤くなった。(お可愛いこと……)とルナは思いながら、クスリと妖艶な笑みを浮かべるのだった。


………………



 翌日、リアは迷宮探索に向けての準備をする事にした。まずは子供達のご飯……幾つか料理を作り冷凍保存しておく。将来的にはお弁当も作らなくてはいけないので、今から献立を考えないとなぁと思うリアであった。


 そして食料は王国騎士団より支給されるので、カロリーバーやエネルギーゼリーなどを準備しなくて良いのは楽だ。ただ、王国騎士団に預けて運んでもらえるとはいえ、下着や着替えは自分で用意しなくてはならない。ので、いつ使うのか分からないが一応持っている勝負下着を入れておいた。ファンタジーな世界において願掛けはわりとバカにできない。


 次に武器や防具についてだが、久しぶりに鍛冶屋へ訪れる。レイアに頼んでおいた、ドラゴン装備がそろそろ完成する頃合いかと思っての来訪である。


「おいすー!! レイアー、防具どう?」


「おー、リアか。うむ……出来たぞ、最高傑作だ」


 レイアはリアに抱きつき、頭を撫で撫でしながら案内する。リアは美人に撫でれるなら満更でもないのでされるがまま、保管場所に行く。


 すると、そこには漆黒に輝く軽装鎧が飾られていた。

 ドラゴンの柔軟でありつつも刃物を通さぬ強靭さを併せ持つ皮。ハンマーで何度叩いても砕けることのない殻が、オリハルコンを用いた技術により見事、加工がなされている。


 胸部は皮と鱗、それから薄めの殻を用いておりベルトで締め付け装着するタイプの胸当てであった。リアの胸の大きさに合わせた胸当てはかなりピッタリな大きさ。レイアの技術が光っていた。それに、これならば受け身を取りやすいし、弱点の心臓と動く際に大変大事となる肺を守るには充分だ。そして軽装と呼ぶに相応しい軽さである。ついでに、破れたドラゴンの翼膜を修復して作られたTシャツ付きだ。ただ、翼膜と侮る流れ。薄く柔らかく通気性もある事ながら、そこらの刃物など通さないくらいの堅牢さをもっている。


 上腕と腕部、手甲には皮で関節を保護しつつ、ドラゴンの堅殻が持ちいられており、守りだけでなく一定以上の打撃も繰り出せる堅牢さと柔軟性を併せ持っている。


 腰部は柔らかめの皮をスカートに加工して、鱗で防御力をフォロー。さらにポーションポーチや武器入れ等のサポート面を充実させている。ドラゴンの殻で守られたポーション入れならば、ある程度攻撃を受けても破壊されて漏れることは無いだろう。また、スカートに加工した事で、お洒落にも使える優れ物である。


 太腿部分は腕と同じような加工がなされており、ベルトで締め付けを調整できる嬉しい仕様だ。ついでに投げナイフ入れも付いている。


 そしてブーツであるが。手甲と同じようにドラゴンの最も硬い尻尾と背中の部位をふんだんにあしらい、堅い膝当てとドラゴンの爪を加工し爪先を強化、蹴りなどの攻撃もできるようになっていた。足裏には特殊な硬質ゴムとオリハルコンが用いられていて、魔法による無理なブレーキや跳躍にも対応。また、走る時に邪魔にならない程よい重量と関節の調整は素晴らしいの一言である。


 頭の部分。

 リアは視界を万全に確保したいタイプであり、ビジュアルにも命をかける異世界エルフである。故に頭部には少し浅めの、皮を用いたフードが備え付けられている。打撃には弱いが、斬撃には強い仕様だ。


 最後に長めのナイフ。ドラゴンの角を加工して、オリハルコンを溶かし流し込んだ一振りは漆黒に輝いていて、堅牢さと鋭利さを兼ね備えている。また、魔法を纏う際に補助できるように軽くルーン文字がオリハルコンと魔力合金の特殊合金を溶かし彫られた場所に流し込んで描かれており、風魔法使いとして実に振りやすいナイフへと昇格されている。良い意匠だ。


 おまけで、現代の装備である携帯端末等を入れる小型の腰バックがアクセントになっていた。


 そんな装備を作り上げたレイアは胸を張ると、歩み出る。


「着てみてリア。あっ、脱がすの手伝うね」


「うん……!!」


 あまりの綺麗さに感動で言葉を無くしているリアの服をレイアはするすると脱がすと、装備を手に取りリアに装着していく。

 姿見の前で、徐々に異世界風な装備を身につけていく自分を見ていると、あぁここは異世界なんだなぁと頰が緩んだ。現代文化が進んだが故に、皆は化学繊維などで作られたの現代風装備を身につけるから、武器などはまだしも装備はなんだか異世界風ではないのだ。しかし、此度のドラゴン装備がはまさに異世界といった様相を呈している。


「あとはここのベルトを締めれば……よし、装着完了!!」


 レイアはリアの事を事細かく理解しているのでベルトなどの締め付けの好みも把握していた。ので、初装着は完璧であった。


 リアは鏡の前でナイフを手に取ると、ポージングをする。戦闘態勢をとり、関節の動きを確認。動きの邪魔にならない事を調べて頷いた。


「凄くいいよレイア!!」


「ふふっ、気に入ってくれたかい?」


「うん、ありがとうー!!」


 褒められて嬉しいレイアだったが、ここは職人気質。微調整に力を入れる。そうして、リアは今日ドラゴン装備を受け取るのだった。


 そうしてコーヒーでも飲みながら、レイアから製作秘話のようなモノを聞く。リアは異世界に来てから、こういった自分が出来ない事を話として聞くのが好きであった。鍛治などは、エルフの村にいた時に包丁を研いだくらいしかした事はない。なので、此度のレイアから語られる話の数々は実に有意義である。


 それから暫くして。語り終えたレイアがモジモジしながらリアを上目遣いで見つめる。


「だからその……この装備には結婚指輪のような思いを込めていてね」


「レイアの俺を思う気持ちは沢山伝わったよ!!」


「そ、そうかい? ……リアは、僕から結婚指輪をもらったらどう思うの?」


「……え? 普通に嬉しいと思うけど」


 話の流れ的にそう答えると、レイアは目から光を消して「ふーん?」と笑みを深くした。

 そして、彼女は懐から一つの高級そうな箱を取り出した。箱を開くと、ルーン文字の刻まれた指輪が入っている。レイアの思い(重い想い)の篭った呪具であるのだが、そこは黙っておいて。


「リアへ僕から、迷宮探索への挑戦に対する応援として。オリハルコンの指輪だよ」


「おー、綺麗……。貰っちゃっていいの?」


「あぁ、受け取ってくれたまえ」


 ありがとうと礼を言うと、リアは手に取り薬指に嵌める。測ってもいないのにサイズはピッタリであった。しかし、リアは指輪を渡された意味を理解していない。


 レイアは内心でとてもほくそ笑んだ。これでリアは僕の嫁だと。そして、あの金髪エルフに牽制できたと。

 そしてクックックと妖しく笑うレイアであった。


 そしてフル装備したリアは、「鏡借りていい?」とレイアに断りを入れてから、姿見の前に立つとくるりと回る。


「にしても、こう装備つけると引き締まる思いだな。それに格好いいし、可愛い!!」


 自分の顔の良さを理解しているTSエルフは、暫くの間自画自賛しながらニコニコ笑顔であざといポーズをとる。そんなリアを温かい目で眺めるとレイアはコーヒーで喉を潤わせた。 

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