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 翌朝、アルエと共に養子縁組の申請をしに行った。アルエには本当に俺で良いのか? と再三リアは問い、アルエはお姉さんが良いと返した。たった1日かもしれないが、多少の遠慮はあれど信頼は築けたらしい。


 それからは、縁と仲を深める為に共に帝国観光をしたり、アルエの唯一の友達であるミカちゃんを紹介してもらったりと有意義に過ごした。ミカちゃんからは「アルエちゃんをよろしくお願いします」と深く頭を下げられ目を合わせて「任せてくれ」と言ったが、そこでこっそり耳打ちで「泣かしたら許しませんからね」と言われてゾクりとした場面もあった。幼女が出していい声色ではなく、しかしそれだけアルエの事が大切なんだなと思うとほっこり。それからは、出来るだけ帝国に観光として来るよと約束するも「アルエちゃんのことを優先してあげてください」と言われ、よくできた性格の良い娘さんだと感嘆した。今度、クロエも紹介したいなと思う。きっと仲良くなれるだろう。


 そうしてなんやかんやあって、迎えた最終日なのだが……。


「ダメですわ!! まだ帰らせません!!」


「マリア……」


 腕に組み付き、港から出さないようにするマリアにリアは困った顔を浮かべる。無理矢理引き剥がす事も出来るが、心にもやが残るのでやりたくはない。言葉で説得しなくてはならない。


「よく考えるんだ、一目惚れなんて理由で結婚をしてしまえばお互いに後悔する日が来る」


「それは……」


 マリアも我儘な子供ではない。まだ成人はしていないが立派な経営者である。だからこそ、リアの言いたい事も理解できた。けれど、やはり感情は抑えられない。


 助けてもらったあの時、本当に格好いいと思った。自分よりひ弱そうなエルフの娘が放つ、まるで魔王然とした雰囲気に惚れ込んでしまったのだ。


 だか、それでも縋ってしまうのは……何故だろうかと考える。親が早くに逝ってしまい、孤独に喘いでいるからだろうか? しかし、それらはファータ達使用人やメイド達のお陰で薄れている。なら……やはり、雌としての本能だろう。


「強い貴方に惚れたんですの……」


 リアはそう言われてもなぁと目を閉じて更に困る。けれど、その事はマリアとて分かっている。


「けど、貴方のことを考えて……」


 だから、彼女はリアの手を取ると跪きキスをした。


「私の愛だけ、一方的に受け取ってください……」


 リアにその気が無い事は理解している。だから、これは一方的な誓い。貴方以外に目を向けない、貴方に愛を捧ぐ。そんな若干重い感情をぶつけられたリアは、こんな自分でいいのだろうかと不安に駆られながらも受け取った。


「うん……次会うその時まで、忘れない」


「はい……」


 見つめ合い、ふっと笑みをこぼす。


「まぁ、今生の別れじゃない。マリアからもいつでも会いに来てくれていいし、俺も観光でまた訪れるよ。あ、あとメールアドレスの交換とかSNSのアカウントとか教えておくよ」


「……!! 使用人以外のメールアドレスが私のアドレス帳に」


 交換を終えると、感動したように胸に携帯端末を抱きしめた。それを側で見ていたエストとアデルも名乗り出る。


「私とも交換しておきましょうお嬢様!! 付与術師として、力になれそうな時や暇な時にでも連絡して欲しいっす!! 先輩の秘密とかも教えちゃいますよ〜!!」


「私も、一国の騎士団の1人として役に立てるかもしれない。皆からは少々お堅いと言われるが……そんな私でも良ければ交換しないか?」


「……いいんですの?」


「あぁ、友達として」


「はいっす!! もうマリアお嬢様はお友達っすよ!!」


 2人ともメールアドレスを交換して、感極まったマリアは少しだけ瞳を潤わせて大切そうに携帯端末を仕舞うと、こほんと咳払いをして……若干赤い顔を隠す事なく笑顔を浮かべた。


「此度はありがとうございました、御三方。リア様、クロエちゃんにはどうか、すまなかったとお伝えしておいてもらえますか?」


「心得た」


「それと、アルエちゃん」


 リアと手を繋ぎ、ずっと黙っていたアルエにもマリアは真剣な目で向き合う。アルエは何故見つめられているのか分からず首を傾げていた。


「貴方の人生を縛る事になってしまったことを、謝らせてください」


「いや……マリア様が謝るような事じゃ無いよ。それに、私頑張る。いつか貴方の会社の一員になれるように」


「そう言っていただけると、少しばかり心が軽くなりますわ。ありがとう」


 マリアはアルエの頭を撫でると、再びリアに向き直り……抱きついた。


「また、会える日を楽しみにしております」


「うん、マリアも元気でな」


 何度でも言うが今生の別れではない。いつの日か、道は交わり会える日が来る。それに、心やネットワークではいつでも繋がれるのだ。だから、マリアは今この気持ちを仕舞い込み自分も頑張ろう。そう思った。


 こうして、帝国観光は終わりを告げるのだった。


………………………


 アルテイラに帰ってきた日。朝、起きると丁度港に着いた所で、アルエと一緒に孤児院に向かった。2人を引き会わせる為だ。

 問題は解決したとはいえ、クロエを引き取る覚悟に偽りは無い。だから、リアは彼女を養うつもりである。だから、事は急げ……という訳で早朝から孤児院に訪れた。


 孤児院の扉を叩くと、子供達が顔を覗かせる。


「リアー!!」


「この娘だれー?」


「あぁ、近々、みんなと同じ学舎に通うアルエちゃんだ」


 アルエは人見知りしたのか、リアの影に隠れる。そんな彼女に興味津々な子供達は放ってはおかない。すぐにリアごと取り囲まれ質問攻めにされ始めた。まぁ、邪険にされる事はないと思っていたがこれならば直ぐに馴染めそうだなと安心していると、後から出てきたクロエがリアの服を摘みちょんちょんと引いた。


「リア、おかえり」


「ただいまクロエ。引っ越しの準備は出来てるか?」


「うん、できてる。にしても……新しい娘が来てるね」


「あぁ、帝国で出会ってな」


「……また新しい娘」


「気になるか?」


「うん、なんで連れてきたの?」


 リアはクロエの聡明さを考えて、掻い摘んで事情を説明してみる。すると、彼女は「同情はしないよ」と前置きした上で。


「……むぅ」


 クロエにしては珍しく悩んでいる様子である。しかし、それもそうかと思う。これから一緒に暮らす事になるのだ。仲良くなれるかどうか以前に、家族として過ごす事になる。その辺が心配なんだろうなぁと、優しい娘だと頭を撫でて「安心しな、大丈夫だ」と言う。


 だが、本音を言えばクロエの内心は少しだけがっかりしていた。別にアルエに対して悪感情は無いが、出来ればリアと2人で暮らしたかったからだ。それに、私のリアを取られる可能性を考えてしまい、どうしても少しだけ不機嫌になる。


 アルエと仲良くする気はあるけれどリアを取られるのは我慢ならない。


 だから、クロエはアルエに見せつけるように、リアに抱きついた。


「クロエ……?」


「……」


 リアはクロエの行動が分からず首を傾げるが、アルエは彼女の挑発に気がつく。「リアは私のもの」と言外に告げている光景に、子供達へ断りを入れるとアルエもリアの腕を両手で掴むとクロエに目線を送る。バチバチと火花が散りそうな視線の衝突にリアは困惑する。


「あの、2人とも仲良く……」


「リアは黙ってて。アルエ、リアは私を愛してる。リアの愛は譲らない」


 重いクロエの感情の発露に、アルエは怯む事なく言い返す。


「リアは私を助けてくれた。だから、私の全てをリアの為に使う『覚悟』がある」


 アルエにとってリアは恩人である。だから、彼女の為ならばどんなことでもやる覚悟があった。しかし、リアはもっと軽く考えて欲しいと願う。


「あの、アルエ……そんな重たい覚悟持たなくていいよ?」


 健全に育ってくれればそれで充分だと思う。だが、アルエの覚悟に対抗するようにクロエも口を開いた。


「『覚悟』なら私にもある。それに、私はリアと長い付き合い。貴方はリアの事を何も知らない」


「クロエ?」


「だからなに? 私もこれからリアの事を知っていく。時間の長さより中身の濃さだよ」


「アルエも……」


 リアはなぜ、互いに喧嘩腰なのだろうかとオロオロとしていると、ポンと背後から頭を撫でれる。振り返ると、ティオがリアの頭を撫でていた。


「子供は嫉妬深いからな。頑張れよー、リア?」


 ニカっと悪戯な笑顔を浮かべるティオに早速、難に当たったリアは苦笑いを浮かべるのだった。


……………………


 翌朝。


 早起きしたリアは両隣で眠るアルエとクロエを起こさないように起き上がるのを躊躇う。両腕はそれぞれ抱き枕のようにしっかりホールドされており、いくら風魔法が得意でも起こさずに抜け出すのは中々に至難の業である。


 だから、昨日の事を振り返って時間を潰す。


 彼女達と過ごす初日は、割とあっさり過ぎていった。クロエとアルエは互いにリアを譲らない気持ちはあれど、別に敵対したい訳じゃなく、夕食の準備やお風呂などは一緒に入って交流を深めてくれて、リアは心底ホッとする。


 しかし、ここでリアに問題が発生していた。それは、彼女達の部屋が無い事だ。このマンションは3LDK。うち、一部屋をコレクションルームに、もう一部屋は寝室になっている。寝室のベッドが無駄に大きく3人川の字になって寝ても余りあるが、やはり彼女達の部屋は必要だろうと思う。勉強などは、リビングでやるには気が散ってしまうだろう。


「引っ越し、考えるか……」


 お金には余裕がある。これを機に、一軒家を買うのもいいかもしれないと思案する。そうして、朝食の時間になるまでリアも目を瞑る。今日からアルエは学校に登校する為の申請をした後、許可が出れば初登校だ。

 それに、今日はリアも冒険者ギルドで迷宮探索の作戦会議という仕事がある。


 忙しくなるなぁと思いながらも、なんとも充実した気分になる。良い事だ。


…………



 アルエとクロエを学校に届けた時である。リアはギルドまで歩く傍ら、言われた言葉を反復していた。


『任せてください、お母さん!!』


『お母さん!?』


 お母さんという言葉に驚き、書類を取り落とした。そして、聞いていた2人から「安心して、リアはお姉ちゃんだから」「リア姉さん」と優しく諭されるが……意外と悪くないなと思った。転生してTSして、幼子達からお母さんと呼ばれる。ちょっと興奮した。


 それに確かに自分はもうそこそこの歳。しかし腹を痛めて出産した事はない。いつの日か、自分の血が繋がった子供を産む日が来るのだろうか? この国は医療技術の進歩ゆえに、女の子同士でもDNAさえあれば、出産できる。(流石に男は無理)。


(いつか、そんな相手が出来たらいいな)


 軽くそんな事を考えながら手続きを終えて、クロエとアルエに「2人とも頑張れよ」と激励すると学校を離れた。


 そうして今、ギルドまでの道のりを歩いている訳だが。リアの気持ちは昂っていて……顔が少し気持ち悪いくらいニヤついていた。お母さん、良い響きじゃないかと。前世も含めるともうお婆ちゃんな歳なのだ。リアも色々と思うところがあるのである。それに、TSして母性が目覚めたのかもしれない。2人の娘に、愛しさを感じながらルンルン気分で歩くのだった。


…………………


 説明会と作戦会議!!


 という訳で、ギルドには既に結構な人数の冒険者が揃っていた。銃火器を扱う者、剣で成り上がった者、魔法使いや治癒術師など、皆それぞれのロールを理解しての参戦である。そんな中でも、ギルド長を含むリアの一党は強者の雰囲気を放っていて。若干、距離を置かれていた。しかし、そんな事は気にしない一党は、朝の挨拶を交わしてから会話を始める。ダルクが第一声を揶揄うように口にする。


「聞いたぜリア、子供を2人も養う事になったんだって?」


「情報が早いな」


「まぁな。しかし……とうとうリアがお母さんか」


 お母さんという言葉に、ルナの耳がピクリと反応した。


「お母さんのリア……。リア、婿に私なんてどうでしょう?」


 面白い冗談を言うなぁとリアは思いながら「いいね、それ。ルナ母さんや」と悪ノリする。ルナは不意打ち気味のリアの発言に胸を打たれて「はぅ、い、いいですね」と返した。


 そこで、流石の鈍いリアとて気がついた。……あれ、というか、もしかして告白された? と。しかしリアが考えていると、アデルとエストもそれぞれ口を開く。


「私もお母さん役やりたいっす!! 今度、遊びに行ってもいいっすか?」


「私も気になるな。子供を育てるのは大変な事だ。今度、視察に行かせてもらうよ」


「いつでも来ていいぞ」


 思考が流れたが、まぁいっかとリアは思う。流石に、長年付き添ったとは言えこんな場所で告白はしないだろうと楽観視する。そんなリアに、ルナは少し頬を膨らませていたのだが気がつかなかった。


…………………


 そうして会話をしていると、王国騎士団のメンバーとアイゼン隊長が冒険者ギルドに訪れた。彼女達はギルドの前に歩みを進めると、掲示板の前に立つ。


「それでは、事前説明会を始める!!」


 冒険者全員に資料が渡された。『ヘイロー大迷宮』において、事前に分かっている情報を載せた資料だ。


 主にわかっている事は複数。


 まずは視界についてだ。迷宮は基本的に何かしらの光源が存在していて、ライトなど無しに視界の確保は出来るという、異世界から来たリアからすれば少しだけ不思議に感じてしまうシステムになっている。まるで、最初から人間が攻略する事を前提としたような作りに、人為的なモノを感じずにはいられないが……今はそういうものだと納得する事にしていた。

 そして、ヘイロー大迷宮には『光鉱石』と呼称される、周囲を照らす石により明るく照らされている。が、第一層と二層は薄暗いのは変わりないし、当然光鉱石が無い場所は真っ暗なので、やはりライト類は必需品である。


 そして、迷宮の道は降るように展開されている。その間に、シャドゥ系統の影のような子供サイズの黒い魔物が多く出る事が説明された。


 というのもヘイロー大迷宮は第三層まで攻略されている。ので、そこまでの情報も記載されていた。


 第二層までは洞窟が続き、第三層には広大な『森林エリア』が展開されている。地底にあるとは思えない程に広く大きく、天井にある巨大な光鉱石のおかげで真昼間のように明るい。


「この森林エリア。ここをベースキャンプとして、下層に挑む事になる」


 アイゼン隊長がそう言う。だが、森林エリアと言えど魔物がいない訳でない。巨大な蜘蛛型の魔物や、シャドゥランサーという影のように黒い人形の槍を持った魔物などが出るとされており、長時間の待機は危険だと思う。


 なので、手を上げて聞いた。


「守番は王国騎士団に任せる、という事になるんですか?」


「あぁ、リア。隊長である私も残る。そして迷宮アタックの期限は3日だ」


 期限も公表されて、冒険者の間でコソコソとした会話が始まるが、気にせずアイゼンは続ける。


「食料や武器のメンテナンス等は我々が受け持つ!! そして、諸君らには最新式のマッピングシステム装置を配布し、迷宮にネットワークを作る計画になっている」


 アイゼン隊長の指示で、小型のトランシーバーのような機械が全員に配られた。それから、説明をされる。


 最新式小型マッピング装置。特殊な長距離通信型のWi-Fiにより、常にベースキャンプの本部と接続され、冒険者が切り開いたマップ情報を統合。分析しながら更新していく。まさに大人数で迷宮に挑むにはぴったりの装置である。


 ……第三層以降は本当に未知数である。備えあれば憂無しというが、ここまで支援してもらえれば俄然、やる気も上がるというもの。当然、冒険者達の士気も高まった。


「では、何か聞きたい事はあるかな?」


 アイゼン隊長は大凡を資料により説明した事にして、質問タイムを設ける。そこで繰り出されるのは、アイゼンへのパーティー勧誘であった。


 皆、やはり狙うのは迷宮の深部攻略。そして一攫千金である。強者がパーティーに欲しいと思うのは誰も変わらない。その点で見れば、リアの一党はかなり恵まれている。回復魔法と高火力の炎魔法が使え、錬金術によるポーションなども備えられるルナ。支援系統と負荷魔法の使えるアデル。鎖魔法による援護と剣術によりサイドキックになり得るエスト。万能型で現代武器のスペシャリスト、ダルク。そしてメイン火力でありパーティーリーダーのリア。誰もが、どのパーティーに入っても活躍できる逸材である。だが、パーティーを組んだ以上、引き抜きは御法度である。


 まぁ、そんな訳で熱烈な勧誘を受けたアイゼンだったが。


「自分は今回は支援に徹する。すまないな冒険者諸君。君達の、それぞれの可能性に期待しているよ」


 と、鎧袖一触。王国騎士団としての仕事しかしないと断言した。


 そこからは、第三層までの細かな連携の説明。リア達の一党は前衛を担う事を説明されたり、後衛職や治癒術師、医療系パーティーや鍛治職人などの護衛メンバーを発表したり。わりと自由奔放な冒険者をまとめ上げたのは、流石と言えた。


 特に魔物については事細かく事前確認を行っておく。


 迷宮アタックまで後、数日。ワクワクが止まらないリアであった。


 

前作のTRPGシナリオを使ったり、新規TRPGシナリオを考えてはいるけど、文章にするのが中々に難しいこの頃。普通にスランプですね……

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