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姫カットにされた錦糸のような金髪を指でいじりながら、ルナ・レーヴァテインは病院のベッドで眠るリアを眺める。彼女の顔はリアと引けを取らない黄金比を誇っており、間違いなく美少女の部類だ。肌も白く、胸は無いが身体つきは大人びていて、翠色の瞳が美しい。
そんなルナにとってリアは親友であり……実は特別な思いを秘めた少女でもあった。
ルナは王都で活動を始めて8年程になるが、その間は殆どソロで活動していた。理由は人間種が多数を占める王都において、エルフは『潔癖』と称される風潮があったからだ。エルフは確かに潔癖な種族だ。男に対しては特に顕著で、エルフの女性は婚約者レベルの相手でなければ肌を触らせないくらいである。だが、ルナは村を出た時から価値観は変わっており、別に異性に肌を触られても大丈夫な程には『潔癖』は改善されていた。
しかし、エルフ特有の美貌故に……いつしかギルド内では高嶺の花扱いされ始め、結果的にぼっちになってしまったのだ。それに、ルナはどちらかといえば引っ込み思案な性格で自分から声をかけに行く事が難しい。あとはパーティーを組めたとしてもほぼ全ての魔物を魔法でワンパンできる彼女がいると「経験にならない」とそれ以降パーティーを拒否される事が多くなった。
利用されるのも嫌だったので楽をしたいパーティーの勧誘を断り続けた結果、次第に居場所がなくなってしまい。
家に篭っては《錬金術》で薬やポーションを作り生計を立てるようになっていった。こんな生活を続けていくうちに、次第に心にも暗い影が差していく。自分は何のために王都に出てきたのだろうかと。
そんな彼女の前に現れたのが、リアという少女だった。
太陽のように明るい笑顔で、買い物に出ていたルナをナンパして誘い王都を案内させたリア。
初めは王都では珍しい同種族という事もあり、善意で案内をしていたのだが……常に明るい笑顔で引っ張る彼女にいつ以来か暗い感情が晴れ、心から楽しんだのは良い思い出だ。
それから数日後のことである。『回復ポーション』の納品の為にギルドに訪れたルナを、リアからパーティーに誘い、2人で魔物退治に出る事があった。そこで、リアも強力な風魔法を持っており、自身と引けを取らない事を知り親近感が湧いた。
そんな冒険の帰り道のこと。ワイバーンの群れに襲われたのだ。
ワイバーンと言えば、翼竜と名の付く通りドラゴンの亜種のような魔物であり、体格はそこそこ大きく硬い甲殻を持ち、単純に強く、すばしっこい事で知られている。だからルナは焦った。自身の魔法《大火球》や《炎の嵐》は強力だが、当たらなければ意味はないし、そもそも翼竜は炎に耐性をもっている。そしてその考えを証明するかのように、自分の魔法が当たらない。
そんな絶体絶命のピンチに、リアの風が迸る。ルナを守るように四方八方へ旋風を纏いながら片手剣を振り、ワイバーンを傷つけ時には落としていく。冒険者になって間もないのに剣技は洗練されていて綺麗だった。しかし油断していた訳ではないが捌き切れずに『火球』をモロに受けて吹っ飛ばされ、綺麗な顔に火傷を負ってしまう。しかし彼女は地に伏せる事なくワイバーンの群れを殲滅するまで戦い続けた。
そして何もできなかったルナは、彼女の顔の火傷を痕が残らないようにポーションや魔法で治療しながら問いかける。
なぜ出会っても間もない私を、こんなになってまで守ってくれたのか? と。
すると、彼女はなんでもないように言うのだ。
「友達を守るのは当たり前だろ?」
「あと、もし大怪我してもルナなら治してくれるだろ、にひひ」と信頼の言葉も貰い。そこで、ルナは自身の胸がトゥンクと高鳴ったのを実感した。そしてこれが初恋であり、恋心と分かるまで随分と時間を要した。それもそうだ、恋とは普通異性とするもの。なのに、自分の初恋はまさかの同性。戸惑うのも無理はない。
こんな思いを知られたら嫌われはしないだろうかと思いつつも彼女とは時折、パーティーを組んでは出来るだけ自身をアピールする。そんな日々を過ごしていたある日の事。ドラゴン襲来の知らせが届き、翌朝彼女が無謀にもソロで挑みに行った事を知った。心配で心配で胸が張り裂けそうな気持ちになった。もし死んでしまったらと考えたら吐き気がした。
しかし、こうして無事に帰ってきてはくれた。だが、彼女は傷だらけだった。
「癒しを……《治癒》」
リアの傷や火傷をワイバーンの群れに襲われた時と同じように、痕を残さず癒していく。どうせ後から医療関係者が癒すだろうが……これだけは自分がやりたかった。ただの自己満足だ。
そうして癒しの魔法をかけていくと、彼女の苦しそうな寝息が段々と穏やかになっていった。それが嬉しくて彼女の顔を覗き込み、両手で頬を触る。
熱に浮かされた気分でリアの頬を撫でる。
(あぁ、貴方を私色に染めあげたい……)
野望がふつふつと湧いて出てきて……ルナは魔が差した。2人っきりで、相手は深く眠っている。ならば……『キス』するくらいバレないのではないかと。
潤んだ目でリアの唇へ顔を近づける。そして、そっと口づけをした。凛々しい彼女からは想像できないくらい唇は柔らかく、ルナはうっとりとしながら口より魔力を流し込んでいく。
(私の魔力で、少しでも私のモノに……)
そして、そうこうすること1時間。どこかスッキリとした顔で肌をツヤツヤとさせたルナは満足し、フルーツでも買ってこようと思って病室を発つ。口元に満面の笑みを浮かべながら。




