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 堂々と玄関から入れば、それはもう侵入とは言わない。襲撃である。だから情報の伝達もすぐさま行われ、《脱力》の魔法をかけられても動ける社員達により銃撃戦になったのだが。


「《黒風魔法》」


 リアが前に立ち塞がる。彼女の風は敵から飛来する弾丸を受け止めて弾き飛ばしていく。弾丸を軽々しく無効化していくリアに敵側から「化け物め……」と悪態が聞こえてきて、こんなプリティーで可愛い娘になんて事言うんだと憤慨し、過剰に拘束弾を撃ち込んだり、エストの鎖を借りて亀甲縛りにしたりして無力化していく。

 しかし、連携の練習をしなくてはならないのでピクニック気分でいられるのは序盤のうちだ。連携の練習をする以上、ここからは考えて戦闘を行わなくてはいけない。

 リアが《風歩》で1人に肉薄すると、電撃を纏う片手剣で頬をペチッと叩き痺れさせ、そこにすかさずアデルが《純粋な麻痺》という雷属性の麻痺魔法を撃ち込み、エストが鎖でぐるぐる巻きにする。この間2秒であるが。


「もっと効率良くいこう、俺が突っ込んで風でそっちに吹っ飛ばすから、エストが鎖で捕らえてアデルの魔法で完璧に無力化する」


「うむ、責任重大だな……」


「了解っす!!」


 リアは銃弾を剣で弾いて《風歩》で6人ほど固まっている場所に飛ぶと、風で後方にぶっ飛ばした。《脱力》の魔法が効いているのか抵抗も殆どなく、元々狙いをつけていたエストが鎖を展開して1人ずつ蜘蛛の糸のように捕らえて拘束し、アデルが魔法を撃ち込む。瞬く間に6人も無力化した3人に、マリア商会の社員から拍手が送られた。中々の手際である。因みにだが、ファータはお嬢様の護衛の為に残っているので後から来るそうだ。


「まぁ、尤もな話……ビルごと竜巻起こしてぶっ飛ばした方が楽なんだがなぁ」


 リアの本音がポロリと溢れる。隣にいたエストが苦言を呈した。


「それは流石に捕まるぞリア」


「いやいや、捕まるどうこう以前に、竜巻起こせる事に驚きっすよ」


 アデルのツッコミに「えへへ、起こせます」と何故か照れ顔を浮かべるリア。この元男、この世界に来てから倫理観が少しズレてしまったのかもしれない。そんな会話をしていた時である。リアの風のセンサーに、物凄い速さで突撃してくる人の反応を示した。


 リアは風で吹っ飛ばさず、剣で受け止め対応する。防がれた相手は両手のナイフをクルリと回転させながら距離を取る。

 その姿は、さながらジャパニーズ忍者であった。この世界にも忍者文化ってあるの!? と若干驚いていると、彼? は指を組み印を組むと魔法らしきものを発動させた。


「《金縛り》!!」


 魔力反応を感じ取り3人はすかさず距離を取ったが、アデルが少し遅れて食らってしまった。途端に身体の筋肉が硬直し動けなくなるアデルを、リアはお姫様抱っこで引き寄せると庇う。


「《黒風魔法》」


 忍者は他に術があるのか、剣に光を溜め始めた。そして、3人に分身すると弾くように跳び瞬間的に距離を詰めまずはアデルを狙ってくる。のだが、リアの《風歩》は最早、万能の域にまで達していた。アデルを抱えていても、彼女は飛べる。それに……3人いてもその程度の速度なら『見える』。


 忍者がナイフを振るうと光の刃が飛び出るが、そこにリアの姿はなく。背後に気を感じて振り返ろうとした瞬間、頬をペチリと片手剣で叩かれた。瞬間、駆け巡る雷撃に身体が麻痺して倒れ込む……前に鎖でぐるぐる巻きにされて地面を転がった。分身は魔力反応から判別し、風の弾丸で無効化してある。


「ちょっと楽しかったぜ」


 リアの賛辞を受け取り、彼女がドラゴンスレイヤーだという情報を事前に握っていた忍者は、自身の負けを糧にしようと目を閉じるのだった。


 リアはアデルを床に寝かせると問いかける。


「アデル、大丈夫か? ポーション飲む?」


「く、口移しで」


「冗談か本気か分からないけど……仕方ないなぁ」


……………………


 そうして、拘束弾を使い終える頃には社長室前まで来ていた。60人、全員五体満足で拘束できたのは3人の功績が大きいだろう。リアはスーツの襟をピシッと正すと、社長室を蹴破った。


「邪魔するぜ」


「完全に悪役っすね」


「なりきってるなリア。まったく、いい歳して子供っぽいことを……」


「2人とも五月蝿い!! って、うん?」


 社長室には、大きなデスクと社長用の革の椅子、それからお客様対応用のソファなどが置かれていたのだが。その社長用の椅子には誰も座っておらず、代わりにデスクの向こう側には可愛らしい顔つきの、しかし目元の凛々しい少女が立っていた。


 少女はリアの登場にびくんと肩を震わせなら、ナイフを構えた。


「あの……」


「お父さんもお母さんもいないよ!! 2人は逃げた!!」


「逃げた? なぜ……」


「……恐らく此度の作戦の失敗と会社の経営の傾きからでしょうが……。まさか、娘を置いて父母共に消えるとは」


 リアは暫し考え込み、片手剣を壁に突き刺すと手を離して武装解除すると《風歩》で少女の目の前に瞬間移動した。そして、ナイフを持つ手を片手で制しながら顔を覗き込む。瞳に自分の姿が映るほど間近で顔を覗き込むと、確かな恐怖と極度の緊張が手に取るように分かった。


 だから、リアは少女を抱きしめる。


「辛かったな、苦しかったな……と言っても言葉だけで、君の気持ちを完全に理解はしてあげられないけど」


 気がつくとリアは涙を流していた。親に逃げられた少女が自分の居場所を守ろうと立ち上がって、敵に向かう姿に感動を覚えたからだ。


「よく頑張った!!」


 涙声で言うと、少女の手からナイフが零れ落ちた。そして、少女も徐々に目に涙を溜めて泣き始める。


「うぁぁぁぁあ!! クソ親共ぉお!!」


「あぁ、あぁ……」


 少女の慟哭を受け止めて、暫く背を撫でながら宥めるのだった。


……………………


 泣ききって疲れてしまったのか寝てしまった少女をお姫様抱っこで持ち上げると、リアはマリアの前に歩いていく。


「どうするんだお嬢様」


「まさか会社のあらゆるモノを売却して娘だけ置いて逃亡とは……」


 眠る少女の頬を撫でる。まだ12歳くらいであろう幼い少女だが、勇敢な者である。マリアは彼女を敬意を持って接すると決めていた。


 さて話を戻して。


「デクスター商会は私が買い上げ、下部組織を全て編成し直します。ファータ」


「イエス、お嬢様。準備は出来ております。こちら、今し方役所から発行された引き継ぎ証明書でございます」


 電子契約書を空中に浮かび上がらせながら、マリアは唸りつつ契約書にサインをした。簡単にサインしているように見えるが、これからかなり大変になるだろう事は素人でも分かる。そうしてサインを記した契約書は、電子の海に消えていく。これでデクスター商会は消滅し、全ての権利はマリアに移譲された。


「この娘、どうしようか」


 リアは少女を覗き込みながら、今回の件で最も被害を受けた、言葉にはし難いが哀れとしか言いようのない少女の顔を覗き込む。この娘はこの先、沢山の試練が待ち構えている事になるが……お嬢様の反応を見て、彼女が引き取る事はないなと思った。しかし、思うところはあるようで。


「彼女には私から支援をしましょう。商売敵の娘とはいえ、将来有望な娘ですので。投資、と思う事にしますわ。ですが……」


 リアは目を細め眺めてからゆっくり閉じて、大きく溜息を吐く。マリアの言葉の先は言わなくても分かっているからだ。そんなリアの態度に、アデルが肩に手を置いて言った。


「先輩……」


 エストもポンと肩に手を置き、少女とリアを交互に見てから優しく微笑んだ。


「苦しい時は私の肩も貸してやる。リア、彼女の意思が最優先だが……決める時だ」


「あぁ、そもそも……クロエを引き取るって決めたあの時から子育ての覚悟は出来てんだ。マリアさん」


「はい……」


「この娘に投資するって言ってたよな? なら……」


……………………


 病院で少女は目を覚ました。見知らぬ天井を見て、あぁ夢じゃないんだと現実を受け止めると再び涙が溢れる。だが、ふと隣を見るとあの時のエルフのお姉さんが、ベッド脇に頭を預けて眠っていた。ずっと見ていてくれた事に驚きながらも、胸に温かいものを感じる。はじめての感覚に妙な安心感を感じた。


 少女……『アルエ』の家庭事情は、そんなに良いものではなかった。幼い頃から両親からは放置されていない者扱いされ続けてきた。ただそれだけなら別に良い。暴力を振るわれたり食事を抜かれたりするよりマシだったから。

 だが、今回会社の経営が傾いた話から突然、父が自身を代表として権利全てを押し付けて消えた。母は最後まで、頭を撫でる事すら無く、ただ一言「さようなら」とだけ言い残して出ていった。


 それから、どうすれば良いのか迷い、放浪するように父の会社に行けば……皆が哀れな目で見てくる。理由は簡単に分かった。当然だ、自分は生贄のようなもの。これから滅びゆく会社と共に借金を背負い沈んでいく事が決まっているのだ。


 社長室はやけに綺麗で、椅子に腰掛け天を仰ぐと心の底から暗い溜息が溢れた。これほど詰んだクソな人生もそうそう無いだろうと自虐的に笑い、自殺用のナイフを手に持った。しかし死ぬのはやはり怖い。こんなに怖いものはないと思った……その時。侵入者を知らせる警報が響いて。


 本社は瞬く間に制圧された。自身も謎の脱力感を感じながらも、どんな奴がこんな会社を襲ったのかと緊張しながらナイフを構えた。


 すると、入ってきたのは綺麗なエルフだった。なんの悩みもなさそうな綺麗な空色の瞳が印象的なエルフは、自分の姿を見て驚いた顔をする。


 だから言った、父も母も居ない。だから、何をしても無駄だと思いを込めて。するとエルフは自分に肉薄すると、抱きしめて言ったのだ。苦しかっただろうと。


 なにを分かったような事をと怒りかけたが、彼女の涙声につられて……気がつけば1番言いたかった本音を漏らし泣いてしまったのを思い出す。しかし自然と恥ずかしいとは思わなかった。そして彼女の温かさを感じる内に安心感が込み上げ眠ってしまった事が分かった。


「この人は……」


 寝ているエルフの髪を撫でると「んっ……」と声を漏らして目を開いた。しまった、起こしてしまったと戸惑っていると。彼女は背筋を伸ばし目線を合わせて言った。


「んっ、おはようお嬢ちゃん。俺はリア・リスティリア、よろしくね」


 欠伸を浮かべながら自己紹介する彼女に毒気の抜かれた少女も素直に自身の名を口にする。


「私はアルエ。下の名前はもう名乗りたくない」


 リアは少しだけ悲痛な表情を見せるが、すぐに笑顔を作ると。


「アルエちゃんね」


 手を差し伸べる。握手のつもりだ。アルエは逡巡した後、ゆっくりと手を握る。やはり温かい手だ。すべすべとした肌をしているが、所々かたい部分があるのは彼女の歴史というやつだろうか? 何も悩みがなさそうに見えるけど、本当は違うのかもしれないと思った。


 少女がリアの手に感情を揺れ動かされていた時、握手をしたままリアは続けて話した。


「寝起きで申し訳ないが、今すぐに決めなくちゃいけない事がある。問おう、君には2つの選択肢がある。1つ目は『この帝国でマリア商会のバックアップを受けながら1人で暮らしていくこと』」


 驚いた。こんな何もないどころか負の遺産すら担いでいる自分をバックアップしてくれる人がいる事に。悲壮感が薄れ、ポカンと口を開きながら話を聞く。


「2つ目は……『俺とアルテイラに来ないか?』。生活は保障するし勉強も沢山できる。ただ……魔法を覚えなくてはいけないのと、将来の就職先がマリア商会に決まってしまうけど」


 これがマリアと交わした契約である。マリアは後継者を欲している。ならば、この少女に賭けてみてもいいのではないか? もし無理ならリアがマリア商会に入社するといった話になった。まぁ、マリアが普通に婚約したいから《契約》で縛ろうとしてきてアデルとエストにどつかれる場面もあったが。

 彼女にとっても、大凡悪い契約でも無いと思う。優秀な人材に育てば、今急成長し大手となったマリア商会にコネクションを持って入社できるのだ。リアも冒険者をしていなかったら考えたかもしれないくらいの条件である。


「どちらにせよ《契約》の魔法で縛る訳じゃ無いし、書面での契約も不要。どちらを選んでも君に損は無いと思うけど……どうする?」


 アルエは考える。何にも持っていない自分の手の中にこんなにも選択肢がある。だから悩み抜いて、リアの温かさを思い出して赤面し、将来の事を考えて苦悩し、この先歩む未来に向けて思案し、決めた。


「お姉さんのところに行きたい!!」


 マリアは求めていた。母のような人を。あの親達には産んでくれた恩以外もう何も感じていない。だから、このエルフの(見た目は)少女の温かさに賭けてみようと思った。それに将来の就職先に、この国でも大手であるマリア商会へコネクションを持って挑めるのはかなりの好条件ではないか。


 ぶっちゃけ、選択肢になっていないなと苦笑する。こんなにも良い道はひとつだけである。自分一人で出来る事などたかが知れているのだ。


 リアはアルエの言葉を聞いて、頷き頭を撫でた。


「俺は言っちゃなんだが、冒険者で家を空ける事も多いし……もう1人一緒に暮らす事になるけど本当にいいのか?」


「うん……」


「そっかそっか、じゃあ決まりだ。出発は5日後、荷物を纏めてくれ。あまり多くは持っていけないけど……」


「そんなに自分のものは無いよ」


「……過去を詮索するつもりは無かったが、君は」


「お姉さんの考えている通りだよ、私には何もない」


 沈みかけていた顔を上げて、リアに目線を合わせるとアルエは穏やかに笑った。


「けど、お姉さんがくれるって言うから。期待しても罰は当たらないよね?」


「あぁ……」


 期待に応えないとなぁとリアは思いながら、再びアルエを抱き締めると背を撫でた。


……………………


 さて、翌日。天気は晴れ、絶好の散策日和ではある。リア、アデル、エスト、そして何故かマリアとファータの5人が勢揃いしていた。


「マリアは遊んでていいのか? 忙しいだろ今」


「将来、お嫁さんになるかもしれない方に時間を割くのは大切ですわ」


「だから結婚するつもりは無いって言ってるだろ……」


 と、言っても無駄なので置いておき、グルルとマリアを威嚇するアデルをどうどうと抑えながらエストに向き直る。


「じゃ、観光しようぜ」


「うむ……とは言っても、別に買うものなどないのだが」


「食べ歩きとかしようじゃないか」


「でも先輩、目当てのモノがあるんすよね? 確かグラ……なんでしたっけ?」


「グラフィックボード、パソコンの部品だ。ここなら輸入費掛からなくて安く高品質のが買えるからな」


 何度でも言うがリアはオタクである。割と前世よりも良い暮らしをしているし、趣味のひとつはゲームである。それにこの世界のサブカルチャーに触れて、アニメやゲームが発達しているのもあり、フィギュアやプラモデルなんかも集めているし……遺跡にアタックしたり迷宮に少しだけチャレンジしたりして集めた収集品もコレクションしている。


「それじゃあ、観光にレッツゴー」


 と5人で歩き出して思うのだが、まぁ、マリアと交友を深めるのは悪くないと考えている。彼女とのコネクションは大きく、自分を愛してくれる人を無碍にはできない性格のリアであった。だが、決めるところは決めたいので、婚約等の話はこの食べ歩きでどうにか諦めてもらえないかなぁと考えつつ、今この時だけは頭空っぽで行こうと思うのだった。


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