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 武闘大会がいち段落し、解散する雰囲気になった頃。リアとルナは挨拶をすると2人で騎士団本部を後にした。別に目的地などは決めていないが、街をぶらついて買い物でもしようか、そんな風に話しながら街を歩く。人通りの多い通りは他国の人や狼人、獣耳のついた獣人や蜥蜴人などの亜人種も多く行き交い、賑わっている。この国が外国との交流に力を入れている証拠でもあるし、ここが異世界である証明みたいなものである。だからこそ、出店も多く適当に歩いているだけでも充分に暇を潰せるのだが、リアはルナに「どうする?」と声をかけた。


「うーん。錬金術の素材が欲しいですかね。迷宮探索用の回復薬とかを多めに作っておきたいんです」


「なら専門店にでも行くか」


 並んで歩き、錬金術師達がご贔屓にしている専門店に向けて歩み始めたのだが。その時にふとルナは立ち止まりひとつの店に目線を移す。そしてリアには何も言わずに、ふらりとその店に立ち寄った。


 周囲には人が寄らず、若干裏路地に入りかけていることもあり静かな場所である。そこには1人のフードを目深に被った老婆が、様々な薬品らしき小瓶や素材を並べていた。片手には杖もあり、彼女が魔法使いか錬金術師という事が分かる。


「おや、お客さん。来たね……」


 老婆はルナの来店に、快いが少し胡散臭い笑みを浮かべると歓迎する。ルナはまずこの店が何を専門に売っているのか聞いた。


「えっと、何屋さんなのでしょう?」


 老婆はルナの問いに対して、ひとつの小瓶を手に取るとルナに向けて差し出した。差し出された小瓶をルナが受け取ると話し始める。


「この店は占いと錬金術による薬の店じゃ。お客さんが来る事は、占いから予測しておったよぅ。エルフのお嬢さん、其方には恋しておる女子がおるな」


 突然そんな事を言われ、ルナは驚いた。


「わ、分かるんですか。しかも女の子が相手とまで……」


「分かるとも、同じエルフが相手という事も占いから分かっておるよ」


 ここで、ルナの中から胡散臭いと思っていた感情が消えて、正直に凄いといった感想が浮かんだ。確かにリアへ恋はしている、だが恋心をリアは知らない。しかし誰にも知られていないなんて事はなく、アデルとエストには見抜かれているのを知っていた。だが、それを加味しても老婆との接点は今日までない。だから信じるには充分な要素が揃っているのだ。ルナは老婆の慧眼と予想を素直に賞賛する。


「占いって凄いんですね」


「ふふっ凄いじゃろう? しかし本題はここからじゃ。わしは占いにより導かれた者に幸運を売る仕事を生業としておるのじゃが、どうじゃ10ドルで、其方の手にある薬を買ってみぬか?」


「この薬をですか、効果はなんなのですか?」


「端的に言えば、エルフに特効のある媚薬じゃ」


「び、媚薬!?」


 ルナの頭の中で様々な思いが浮かんでは消えていく。もし、この媚薬が本物ならばリアを落とす第一歩を踏み出せる気がした。リアが欲情し、一人で致すのを見るのもよし。逆に相手を求めて自分を選んでくれたら絶頂ものだ。一服盛る事になんの躊躇も無いのは、恋がゆえ、仕方ない。

 しかし、だからといって受け取った小瓶に入っている本当に媚薬か分からない薬を素直に飲ませるなんてことはしない。愛しき者に怪しい薬を飲ませる程、ルナは落ちぶれてはいない筈である。けど、飲ませはしないが購入は決定した。


「買います、ですが私も錬金術師です。この薬のレシピを調べても宜しいですか?」


「いいとも。レシピを含めての取引じゃ。では10ドル頂こうかの?」


「どうぞ」


 レシピも含めてとの事で、それは嬉しい誤算だと思ったルナは速攻で取引をした。もはや条件反射の域であった。


 その時、背後から息切れしながら声をかけてくる者が。愛しのリアの声だ。


「いた、探したぞルナ」


 どうやら自分がいなくなって焦って探してくれたらしい。なにそれめちゃくちゃ嬉しいと心の中で思っておきながら謝罪する。


「す、すいませんリア。少し寄り道をしてしまいまして」


「いや、いいんだ。無事でよかったよ」


 安堵の表情もまた凛々しくていいなぁと頬を朱に染めるルナ。一方で、リアは首を傾げてルナの背後の店に目を向けた。


「なんか買い物してたのか? 何屋さんなんだ?」


 何屋と言われれば占いと錬金術の店なのだが……素直に媚薬を買いましたなど言えるはずが無く言葉が出ない。しかし、老婆はリアが来ることも予測していたのか代わりに説明してくれた。


「錬金術の素材や薬を売っておる店じゃ。ほれ、薬物取り扱いの資格もあるよ」


「へぇ、本物だ。あ、なら薬草類も売ってる?」


「あるとも」


「おー、じゃあ……」


 リアは回復ポーションの素材を要求して、老婆はそれに応える。リアもエルフの村育ち故に素材の良さの違いは分かるので、この店の充実した高品質の薬品や薬草には驚いた。そして幾つか取引をすると、リアは紙袋に入れられた素材達をルナに手渡した。


「はい、プレゼント……と言うにはアレだけど。俺達のヒーラーには良い薬を作って欲しいからな。受け取ってくれ」


「良いんですか? ありがとうございます」


 そっと小瓶とレシピを懐に仕舞い、紙袋を受け取るルナ。中にはルナの好きな珈琲の豆も入っており、彼女が気を利かせてくれる事を嬉しく思った。


「ふふっ、ならお礼に珈琲を淹れますよ、これから私の家に来ませんか?」


「いいのか? じゃあお邪魔させてもらおうかな」


 帰り道に向け一歩、歩き始めたリアの背後で、ルナは振り返ると老婆に会釈をした。この出会いに感謝を送る。

 そうして立ち去る2人を見送った老婆は、若者の幸を祈りつつも次の客を待つのだった。


……………………


 ルナの家は少し裏路地に入った所にある木造の一階建ての家だ。エルフゆえか、緑が多く茂っており、木の香りがする居心地の良い家だったのだが、中には錬金術の素材が多くある為に独特の匂いがしている。しかし、エルフの村育ちのリアからすれば落ち着く匂いであった。そんな家で穏やかな午後のティータイムを過ごす。ルナの淹れてくれた珈琲に口をつけ味わうリアとは対照的にルナは小瓶とレシピを見ながらふむふむと錬金術の構成、効果や効能を思い浮かべる。この薬の効能は高い。要求される素材は少し値が高いものもあるが、この国でも作れる物で安心した。あとは錬金するルートの構築であるが、親切なレシピにはどの薬から釜に入れるか等も細かく指示されており、分かりやすい。これならば今晩にでも作れるな……と思うルナ。


 そんな訳で会話をしても曖昧に相槌を打つ彼女に。流石に気になってきたリアは席を立ち後ろに回り込み、ソファーの背もたれに手を置いてルナの見る紙を覗き込んだ。


「何を見てるんだ?」


「さっきその……まぁとある薬のレシピを買いまして」


 隠すのは変だし見せるしかなかったルナは言葉を濁す。だが、リアはレシピを一通り見ると一言。


「あれ、媚薬のレシピじゃん」


「ぶふっ!? ごほっごほ、な、なぜ知っているんですか!?」


 薬の効能を言い当てたリアに、ルナは慌てて問うた。ついでに頭を全力で回転させて媚薬のレシピを眺めていた言い訳も考える。その間に、リアは思い出を語るようにしみじみとしながら話し始める。


「いや、エルフって基本的に性欲薄いじゃん? そこで、俺の過ごしていた村では結婚した夫婦の初夜に媚薬を使うって文化があってさ。俺もレシピだけなら知ってるんだー」


 え、エルフって基本的に性欲が薄いの? 知らなかった私は、性欲が強かった……? とか思ったルナ。一方でリアは自己顕示欲とかを満たして気持ちよくなる事はあれど、性的な欲求を解消し満たす事は少ない。それに女の子になって長いが元男なのもあってか、男を揶揄う楽しさは知っている反面、男と付き合いたいとかは思わないので、これからも性欲が薄いのは変わらないだろう。


 それはそれとして。


「で、なんでルナは媚薬のレシピを眺めていたのかなー?」


 当然の質問である。来る事を身構えていても、即座に返事の出来ない質問にルナは困った。


「媚薬のレシピを見て作るつもりだったのか? ふふっ、ルナは媚薬を使って何をするつもりなのかな?」


 すごくニタァとした笑みで問いかけるリア。その顔には新しいおもちゃを与えられた子供のような無邪気さと、困らせてやろうという邪悪さがありありと滲み出ていた。


「その!!」


「その?」


「うぅ……意地悪ぅ」


 思考をフル回転させてもいい返事が思いつかず、思わず悪態を吐くルナに、困った顔のルナは可愛いなぁと思った。普段は知的な印象の少女が見せるレアな一面を見れて満足である。ルナはそんなリアにカッと目を見開き口を開いた。


「えぇ、そうです!! なんたって媚薬のレシピですよ!? 気になったんですもん!!」


 開き直った。ルナのなんともいえない反応にリアは苦笑を浮かべつつも「まぁ、分からないでもないよ」と同意した。実際、リアは過去エルフの村で一応秘薬でもある媚薬を、あろう事か幼馴染に使って効果の実験をしているので、ルナの気になるという部分は分からないでもなかった。あと正直、幼馴染が性欲で狂う姿を見て笑ってはいたが、自分で使ったらどうなるのか気になる? と言われれば……気にはなる。


「誰だって媚薬なんて出されたら気になるもんだよな。俺の村くらいしか扱ってない秘宝みたいなもんだし。でもその、自分で使うのはやめといたほうがいいと思うぞ。結構効果高いから……あの……」


 言葉にするのは憚られるので濁しながら注意するリアに、ルナは顔真っ赤で「つ、使いませんよ……?」と返事をする。心の中で使うのはリアに対してと思っていたので嘘は言っていない。そんな事だとは知らないリアはひとり納得して「それなら良かった……ルナの狂う姿なんて見たく……」と言った所で、彼女が乱れる淫らな姿を想像してしまい顔を真っ赤にする。その反応にルナはすかさず言った。


「リアのすけべ……!!」


「すけべ!?」


 反撃とばかりに自分の腕で身を抱きしめながら言うルナは、少しだけ自分の艶姿を想像して顔を赤くしてくれるリアに恋の脈を感じる。つまり、自分のあられもない姿を想像して興奮してくれたと言う事だ。ルナはリアの耳に口を近づけると「何を想像したんですかー?」と囁いてニヤリと口に弧を描く。さっきまでの仕返しとばかりの反撃である。リアはびくんと身体を揺らすと、慌てて弁明する。


「そ、想像してないから!!」


「ふふっ、そう言うことにしておいてあげます」


 今度はルナがリアの珍しい姿を見れたと満足する。リアは会話がひと段落した頃合いを見計らって「こほん」と咳払いをした。話題を軌道修正しつつ、かわすつもりである。


「とにかく!! 狂いそうになるくらいには性欲が高まるうえ、2時間は効果が続くから使うのは辞めておいた方がいいぞ」


「2時間くらい……狂いそうになる性欲ですか……」


 ごくりと生唾を飲み込み、ちょっと興奮した。もし飲んだ時の事を想像すると……ベッドの上で乱れている自分の姿が簡単に想像できた。ぶっちゃけると……なにそれめちゃくちゃ気になるんですけど、使ってみたいとか考えているが、今はどうどうと抑え込む。抑え込むが本音がポロリ。


「分かりました、気を付けますね」


「おっと? まさか使う気だなルナさん?」


 まぁ、正直リアに対して使い観察したい欲の方が強いが、効果がどれ程のものか気になるのも事実。自分で使って確かめてみたいと正直に思う。狂う程の性欲とはどんなものなのか。未知というものは人を惹きつけるが、今回のコレは1人のエルフとしてはとても甘美な響きのある薬である。


「いやだって、そこまで注意されると逆に気になるでしょ? リアだって自分で使ってみたらどうなるのか、ほんの少しは興味があるのでは?」


「ぐぬっ……否定はしない」


 あの時の幼馴染の狂いようから、ちょっと自分で使ったらどうなるのか気になるのは本当なので同意するリア。また狂い乱れる自分も見てみたい、きっと美しく妖艶で淫らだろうと、ガワの良さを理解しているからこそ思う。他にも、狂いそうになるくらいの性欲が気にならないと言えば嘘になる。普段、性欲が薄いからこそだ。

 そして何度も言うが『媚薬』である。ファンタジーにしか出てこないエッチなアイテムが本当にあるのだ。折角、前世の記憶があるのだから体験してみたいと思うのは悪い事だろうか? いや、悪くない。


「錬成できたらリアにもお裾分けしますよ」


「うん……」


「一緒に使いましょうね」


「うん……うん? いや、それはちょっと」


「えー」


「えーじゃありません。貰っても使うのは1人の時だからな」


 色んな想像をして再び頬を朱に染めるリアは、側から見ればエッチな表情のエルフである。ルナは写真を撮りたい欲を抑えながら、そんなリアの姿を目に焼き付けると脳内フォルダに大切に保管した。


 こうして猥談は終わりを告げるのだった。


…………………


 家に帰ってから、リアは服を脱ぎ姿見の前に立った。下着姿の自分は中々に妖艶で、顔の良さもあり、男が見れば必ず欲情してしまうであろうエロスがあった。胸も程よく大きくお尻は安産型で……こんな姿をグラビアで晒しているのでそりゃ人気になるなぁと自分の容姿を自画自賛しつつ、今日のルナとの会話を思い起こすと、胸に手を伸ばし揉んでみる。


「うーん、やっぱ性的に興奮はしないなぁ」


 呟いて手を離すと、ふらふらとベッドに向かいダイブする。柔らかなお布団の感触が肌に伝わり気持ちが良い。


「……」


 久しく忘れていた性欲がどんなものであったか、思い起こしてくれる秘薬。10年くらいぶりにそんな事を考えたので、かなり新鮮な気分であった。だが……性的な事は嫌いではないリア。男を惑わす、ついでに周囲の女の子も惑わしているエルフは、グラビアでその事を証明している。余談だが、当然男の精神があるので性的に興奮するのは女の子相手である。


「うん、迷宮探索が終わったら……試してみるか。そう、あくまでもご褒美的なアレだから……」


 誰も聞いていないのに必要の無い言い訳を垂れ流しつつ、ふーっと息を吐き目を閉じるのだった。案外リアはむっつりすけべなのかもしれない。

メインストーリーがふわふわしている

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