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 愛用の片手剣の整備はまだ終わっていないだろうから、さて今からどうするかと考えて……朝だし丁度いい。子供達やクロエちゃんに会いに孤児院にある教会に行こうと決めた。というのも、国の孤児院には教会が併設されており、朝のお祈りの時間が設けられているのだ。この世界の神様全てに詳しい訳では無いが、この国で信仰されている神様に祈っても損はないだろう。


 そうと決まれば即行動だ。《黒風魔法》でふわりと浮かぶと空を駆ける。朝日に照らされた雑多な街並みはいつ見ても綺麗だなと思いつつ、教会を目指す。


 教会は周囲とは浮いた雰囲気の建物である。西洋の古い煉瓦造りの教会をイメージしてもらえば、それに当てはまる。


 リアは孤児院に着くとフワリと舞い降りる。朝食の時間は過ぎており、数人の子供たちが朝から元気な声で走り回っていたが、リアの着地によりピタリと止んだ。


「リアお姉ちゃん!!」


「リアー!!」


 そして何人もの子供達がリアへと突撃していく。リアは笑顔を浮かべながら受け止めると、数人の頭を両手で撫でた。


「よしよーし、朝のお祈りに来たぞ」


「お祈り!!」


「院長先生呼んでくる!!」


 とてとてと院長先生兼この教会のシスターを呼びに駆けて行く子供に「ありがとう」と礼を言うと丁度、背後からぎゅっと誰かが抱きしめてくる感覚がする。リアは振り返らずに挨拶を口にした。


「おはようクロエ、今日も元気か?」


「おはようリア。私は元気だよ」


「そうか、元気なのはいい事だな」


 ……やっぱり子供達は可愛いなぁと思っていると。クロエがスンスンとリアの匂いを嗅いで一言申した。


「リア、他の女の匂いがする。誰かと一晩過ごしたの?」


「え、なんで分かるんだ……」


 驚愕と若干、戦慄をしながら聞き返すリアに、クロエはハイライトの無い目で見つめながら問いただす。


「ねぇ、どうなのリア? 誰と泊まったの?」


 様子のおかしいクロエにたじたじになりながらリアは「突然どうした、アデルだけど」と正直に答えた。すると、彼女は少し離れて爪を噛み、顔を伏せて一言「あの女か……」と呟く。そんなクロエに……彼女の頬をムニムニしながらリアは口を開いた。


「こらこら、怖い顔しない。可愛い顔が台無しだぞー?」


「むにゅ、やめ……」


 ようやくハイライトが仕事をし始めた彼女を見てほっと胸を撫で下ろす。そうしていると、孤児院の奥から1人の女性が駆けて来るのが見える。


 まだ20代と若くしてシスターをやっているティオ先生だ。背は低めで顔立ちは可愛らしく、若干紫色の混じった黒髪を長く伸ばしている。服装は白と黒の露出の少ないシスター服だ。ファンタジー特有の服は若干コスプレ感があるが、彼女が立派な修道女だという事を示している。ティオはリアの来訪に心の良い笑顔を浮かべた。


「おはようリア。朝のお祈りに来たと子供達から聞いたぞ、いい心掛けだな!!」


「はい、どうせなら祈って行こうと思って」


「どうせならか、毎日来てくれてもいいのだが……あ、話が変わるが聞いたぞ、ドラゴン討伐の報道。あんなゴツいのよく倒せたなぁ」


 肩をポンポンと叩き褒める彼女に、若干、気恥ずかしさを感じながら素直に受け入れた。


「運もありましたけどね。頑張りました」


 そう言うと、ティオは腕を組んでうんうんと頷く。


「……なるほどなぁ。よし、ドラゴン討伐で運を使い果たしたかもしれんし、今から教会に行くぞ。みんなも一緒にな」


 「えー、まだ遊びたいー」と駄々を捏ねる子供達を煽動しながら、ティオは教会に向けて歩みを進め出す。リアも彼女の背後からついて行った。


……………


 教会内部はシンと静まりかえっており、ステンドグラスから溢れる陽の光で程よく照らされていて、静謐で神聖な雰囲気が漂っている。奥にはこの世界の女神を象った木像が鎮座していて、名前は確か『ローゼライア』だ。この女神は豊穣と健康を司っているらしく、教会も一般市民にも開放されている為、偶にお爺さんやお婆さんがお祈りに来たり、リアのような怪我の多い仕事をしている若者が来たりしている。

 長い廊下には等間隔に長椅子が設置されており、現在居るのは椅子に腰掛けているお爺さんとお婆さんの2人だけだ。2人は子供達の来訪を優しい目つきで眺めている。


 そんな中を、一応この教会の責任者であるティオはずんずんと進みながら、こんな提案をしてきた。


「リアも今度、シスター服着てみないか? 中々に似合うと思うぞ。あと他のシスターと同じく1日くらい手伝ってくれると嬉しいかな」


 エルフのシスター服姿か……と想像して悪くないなと頷く。この元男、コスプレとかは全く忌憚なくできる。当然、この世界のアニメやゲームにも精通しているので、イベントがあったら時たま参加しているくらいだ。だから、シスター服は普通に欲しいなと思った。


「いいっすね。一度は着てみたいと思ってました。手伝うのも構いませんよ」


「おぉ、なら今度の休みにでも仕立ててみるよ」


「本当ですか? ありがとうございます!!」


 子供達から「お姉ちゃんがシスター!?」「見たいー」っと言う声や、クロエからも「私も見たい」と言われ、脳内の予定表に記載するリア。そして、この時にバトルスーツにもなるシスター服とかあったらいいよねと若干思考が逸れる。戦う聖女さん、言葉の響き的にも格好いい。レイアに頼めば作ってくれるだろうか、今度相談してみようと思った。


 それから、みんなと共に女神像の前まで来ると、片膝をついて両手を向かい合わせて握ると目を閉じる。お祈りのポーズはエルフの村とも変わらないところを見るに、信仰する神は大きく違わないのかもしれない。


「天に座します女神ローゼライア様、子供達に日々の健康をお願いします……」


 リアは迷宮探索が無事に終わりますようにと祈っておいた。そうして、お祈りの時間は粛々と過ぎていく。


 そんな時、リアの耳元に不可思議な風が吹いた。


「……?」


 どこか意味あり気な風に首を傾げる。窓は全て閉められており風の吹く場所など無い筈だが……辺りを見回し、眉根を寄せた。


 ……まぁ、気のせいだろう。


‥‥‥‥……………


 お祈りが終われば子供達は学校へ行く時間だ。皆、鞄を持って元気に駆けて行った。そんな中、クロエも友達と一緒にいたのだが、遠くで見守るリアに気がつくと近づいて。


「リア」


 名前を呼び、ギューと抱きついてくる。リアはヨシヨシと背中を撫でる。


「ほら、行っておいで。遅れても知らないぞー?」


「うん。先生も、行ってきます」


「あぁ、しっかり学ぶんだぞ」


 2人に手を振り見送られて、クロエと友達の女の子は共に駆けて行った。

 子供達が居なくなり静かになった孤児院を振り返りながら、ティオはリアの肩をポンポンと叩く。


「リアも無茶ばかりするなよ。一度ドラゴンを倒せたからって、次も無茶して大丈夫なんて保証はないんだからな」


 随分と心配してくれているらしい。それが嬉しくて、リアは素直に「分かってるよ先生、気をつける」と返した。リアの返事を聞いたティオは明るい笑顔で「よろしい。じゃあ、またなリア。私は仕事に戻るよ」と言って戻って行った。


 リアは「また来ますね」とだけ挨拶を残すと、フワリと風を纏い浮かび上がった。

 お昼まで時間はあるが、ドラゴンと対峙している時に思いついた、とある技を試してみたくなり……王国騎士団本部にある、大きな演習場を借りようと風向きをそちらに向ける。


………………………


 演習場は現在は騎士団や治安維持部隊が訓練に使っていたが、端っこなら使ってもいいよとの事で無事に許可を得れた。途中、朝練に参加しているエストがいたので手を振っておいた。


 そして訓練をする人達を他所に、リアは《黒風魔法》を発動する。

 行うのは、風を纏った超高速移動だ。全身の風を洗練させ、耳や頭、臓器を保護するよう身体に纏っていき、風の鎧を作り上げる。


 それから両足裏に魔力を溜めると風魔法に変換して爆発させた。「ヴゥン」と風音が鳴り響き、一瞬の内に数メートルを移動する。

 止まる時に逆方向に風を噴射しつつ、足裏に停止用の風を展開、クッションにして地面に無理矢理、着地したのだが。「ドンっ!!」と大きな音が鳴り砂埃が舞った。結構ギリギリで無理な体勢で止まったのだが、よく1発目で転ばなかったなぁと思う。


「うーん、加速度による負担や空気抵抗は纏う風でほぼゼロに出来たけど、着地は綺麗にはいかないか……」


 しかし流石は風魔法。瞬間移動の真似事は出来るようだ。あとは、着地の時に働く風を上手く調整していって綺麗に着地し、それから出来るだけ無音で止まれれば完成形に近づく。

 だから、何度かリアは高速移動を試した。そうして訓練する事、1時間。割と早くにコツを掴み、姿勢は自由に、止まる時には「トンッ」と軽い音が鳴りふわりと砂埃が舞うくらいには洗練できたところで魔力の4分の1くらいを使い。何度も繰り返した疲労と達成感から仰向けに寝転がった。……直線距離しか移動できない点を考えると実戦に使うには少しコツがいるかもしれないと考えつつ……空に浮かぶ雲を見ながら呟く。


「……ふぅ、よし。この技を《風歩(ヴァンシフト)》と名付けよう」


 中々に曲者の技だが、割と気に入ったリア。あと高速移動ってなんかオシャレだよね、風魔法を鍛えてきて良かったぁと改めて思うのだった。


‥……………


 他の技は、例えば風を真空にしたり、風の壁を作ったり、風を武器に纏ったり、鎌鼬を放ったりと結構色々とある。さっきのように防御として用いるのも可能だ。中でも、武器に全力の風を纏った一刀は必殺技のひとつである。そんな訳でいつも通りの訓練をしていた時、背後から声がかかる。


「おはようございます」


 金髪を揺らしながら現れたのは、ルナであった。リアは少し驚くと口を開く。


「ルナ!! おはよう、武闘大会に参加しに来たのか?」


「はい、昨日エストからメールを頂いて。魔法部隊の訓練の為にお呼ばれしました」


 ルナの魔法は主に『炎』属性なのだが、他の属性を使えない訳でない。そして、この国の治安部隊と騎士団には魔法使いもいる。だから、大規模な殲滅魔法が使えるルナはいい先生という訳だ。


「それでいち段落したところでリアの様子を見にきたのですが、中々に面白い事をしていますね」


「見てたのか。どう? はたから見たら」


「凄いと思いますよ? ほぼ目に止まらない速度での移動……また強くなりましたね」


「ふふっ、なら成功かな」


 嬉しさからあまり見せない照れ顔を見せるリア。照れ顔を真正面から見たルナは、頭の中で可愛いなぁと思いつつ脳内フォルダに保存した。

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