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 あとは寝るだけ!! なのだが、ここでリアは自身が襲われないようにするための秘策を発動する。というのも、リアは時々《錬金術》の真似事もしており、割とこの世界の薬学に精通しているのだ。当然ながら『薬学』の資格も持っている。エルフの村にいる時に取ったものなので結構古いが。

 だから即効性のある『睡眠薬』を用意するのも容易い。本当は眠れない時用にと開発したものなのだが……この『睡眠薬』を使い、アデルに先に寝てもらう事で襲われるのを回避するつもりだ。問題は、どうやって飲ませるか。


 答えはひとつしかない。


「アイスティー淹れてきたぞー」


 サーっと睡眠薬を入れたアイスティーを、ソファでゲームをしているアデルに差し出した。アデルはリアの気遣いに「ありがとうございますっす」と言って……しかしアイスティーに口はつけない。ゲームに夢中になっていた。リアはアデルの隣に座り、薬の入っていないアイスティーに口をつけゲーム画面を眺める。ほへー、上手いなぁと思いながら。


 ……そこで悟る。この娘、さては俺が先に寝るのを待っているのではないかと。


 確かに早寝早起きをするリアにとっては、もう寝ないといけない時間だ。幾度のお泊まり会でその事をアデルは知っている。だから、この時間帯にゲームを始めたのかと疑う。

 だが、ガッツポーズで「よっしゃ、30キルっす!!」と喜ぶ歳相応な彼女を見ていると、そんな駆け引きをしているようには思えなくて。


(うん、考えすぎなのかな。アデルは襲う気はない。もしかしたらそうなのかもしれない)


 段々、ひとり警戒するのがバカらしくなってきたリアはアイスティーを飲み切り席を立つ。


「じゃ、先に寝るわ」


「はいっす、おやすみなさい先輩」


 一度リアにチラリと視線を向けると、すぐに画面へ戻すアデル。彼女の眼光が鋭く、妖しく光った事を知らずに寝室に入るとベッドに身を投げた。


 シーツのすべすべとした感触が肌に伝わる。リアは自宅で寝る時は下着姿のままのスタイルで、アデルも着替えを用意はしたが何故か下着姿のままであった。しかし、前にルナが泊まりに来た時は彼女もリアに倣って下着姿で過ごしていたので、普通の事だと考えていた。


 それから数分後。意識が沈みかけた時、ベッドが軋む音が聞こえてきて意識が覚醒する。目を瞑りながら気配を探ると、自分の上に誰かが覆いかぶさっているのが分かる。


(……アデル?)


 目を開こうとしたその時。甘く蕩けた声で「先輩……」と呟くのが聞こえて狸寝入りを決め込む。行動を間違えた、起きるタイミングを逃した。


「可愛いっす、無防備な寝顔……今日は私しか見れない寝顔。無防備で、無垢」


 頬を触れる手の感触が、妙に優しくて。リアは表情が変わるのを必死で堪える。今起きたら起きたでまずい気がしたからだ。というか絶対に気まずくなる。そう考えて渾身の寝たふりをしていると、スッとアデルが上体を起こした。


「先輩の長い耳……はぁはぁ……」


 恍惚の入り混じった声でリアの耳の先端、尖った部分に口を近づける。鼻息の届く距離まで近づくと彼女の興奮する吐息が間近に聞こえる。

 そして……彼女は耳を啄んだ。「はむはむ」と口の中の生温かさと唇の柔らかさを耳で感じたリアは(何やってんだー!?)と内心でパニックになる。同時に、自分は今襲われているのだと自覚した。

 このまま狸寝入りをしている訳にはいかない……だが、ここで起きたとしてどう対応すればいいのか。戸惑い、羞恥が交差して、リアは迷う。起きて大人な対応(意味深)が出来るだろうか? 考えている間も耳をはむはむとされていて、理性の枷がガリガリと削られていく。可愛い顔をした後輩が自分の耳を啄む光景はとても淫らで色っぽいだろう。


 その顔を見たい……リアの欲望が沸々と湧いてきて。


(アデルが悪いんだよ……)


 相手は未成年だから性的な事はできないが、少しは痛い目を見てもらおうか。お尻ぺんぺんくらいはしても良いだろう。そう考えて目を開眼しようとした時だった。


 「うぅ……なんで、眠気が……限界っす」との言葉が聞こえて、とさり……と胸の上に倒れ込む感覚。次いで聞こえてくる「スースー」とした気持ちの良さそうな寝息に、リアは普通に目を開いた。すると、自身の胸の上で気持ち良さそうな寝顔を浮かべるアデルの姿が見える。


(……アイスティー飲んだな)


 1発で状況を理解すると、アデルを隣に転がして寝顔を眺める。歳相応で可愛い。だが、さっきまで自分を襲おうとしていた娘だ。


「アデル……君の好意は嬉しいが、早すぎると思うんだ」


 頭を撫でながらリアは思う。アデルの好意は思春期特有のもので、一時的なものではないかと。だから、こんなところで道を踏み外してほしくはなかった。まぁ、仮に襲われても全ての責任はリアに移るのだが。それでも、アデルにだっていつか異性の恋人が出来るかもしれない。だから初めては慎重に見極めてほしいと思う。


 ただ、そこまで好いてくれる後輩が愛おしくて。リアは寝息を立てる彼女の額にかかる髪を片手で開くと、額にそっとキスをした。


「思い違いかもしれないし、思い上がっているかもしれないが。アデル、君の好意は嬉しいよ。だから、これくらいしか俺からは出来ないけど……ありがとう」


 感謝を口にすると、リアは布団を頭の上までかぶって「何やってんだ俺は……」と羞恥で悶えるのだった。いい歳しても、まだまだ初心である。


………………………


 朝、いつものように早起きをしたリアは、眠るアデルを起こさないように布団から抜け出す。それから、携帯端末を手に取りリビングに移動した。


 携帯端末のスリープモードを解くと、メールが一件入っているのに気がつく。エストからだ。


『リア、パーティーの件だが無事に許可が降りたよ。よろしく頼む。

 それで本題はここからなのだが、明日暇だろうか? お昼頃から王国騎士団で軽い武闘大会を開催するらしく、リアにも参加してほしいとアイゼン隊長が言っていてな。返信を待っているぞ』


 文面を読み(武闘大会か、自分の腕を磨くチャンスだな)と乗り気になったリアは『参加させてもらうよ』と返信した。


 さて、早く起きたからには朝ごはんでも作ろうか。迷宮探索が始まれば、数日は帰ってこれないだろうしと考えて、野菜多めのコンソメスープを作りながら、目玉焼きとウインナーを炒め、食パンを焼く。それから残った野菜類を千切りにするとサラダにして皿に盛り付けた。アデルは育ち盛りなのでいっぱい食べてもらいたいところである。最後にコーヒーを淹れれば完成だ。モーニングならこれくらいで充分だろう。


 そして、コーヒーの匂いに釣られたのかアデルは目を覚ました。リアのいた場所をぎゅっと握りしめて残り香を堪能した後、のそりと起き上がるとリビングに向かう。


 リビングでは丁度、リアがテーブルに朝ごはんを並べている最中だった。あくび混じりに「ふぁ、おはようございます先輩」と挨拶をするとリアの笑顔が返ってくる。


「あぁ、おはよう。朝ご飯できてるぞ」


「はいっす」


 寝ぼけ眼のまま椅子に腰掛けると。もそもそとマーガリンの塗られた食パンを口にする。それから、コンソメスープを一口飲む頃には眠気は冷めていた。


「このスープ、おいしい」


「そう? ありがとうね」


 サラダをもきゅもきゅと食べながらリアは礼を言う。美味しいと言ってもらえたのが意外と嬉しくて頰が弛んだ。


 それはさておき、リアは話題転換とアデルに今日の予定を問いかける。


「アデルは今日はどうするんだ?」


 少し悩んだ素振りを見せた後、ちょっと残念そうに彼女は答える。


「依頼ですかね……迷宮探索の為の費用を貯めないといけないっすから」


 確かに、迷宮探索はお金がかかる。武器のメンテナンス費用に探索する為の食糧などは基本的に冒険者が自分で用意しなくてはいけないのだ。まぁ、今回は国からの支援もあるし、物品の運搬は王国の支援部隊が運んでくれるだろうから軽めでもいいかもしれないが。しかしいつもと同じように準備しておくのは大切だ。


「杖のメンテナンスとかお金かかるもんな」


「先輩は杖とか使わないタイプで羨ましいっす……」


「アデルは杖で魔法を増幅させているんだっけ?」


「はいっす、付与術師っすから。少しでも効果は高い方がいいので杖は欠かせないっす。その為に頑張ってお金貯めて買った杖っすからね。メンテナンスは定期的にしないと、それが杖を持つ者の責務っす」


 とは言え、自分に魔法をかけるだけなら杖なしでも最高の効果が得られる。これを他人にも付与できるようになって、初めて一人前になれるかなとアデルは考えている。

 アデルの考えを察したリアは、出かかった「お金貸そうか?」という言葉を飲み込み、彼女の思いを尊重する。そっと、頭に手を伸ばし撫でて「若いのに偉いな」と言った。アデルはくすぐったそうに目を細めながら「えへへ、ありがとうございますっす」と返事をして。


「なので、暫くは依頼尽くしですね。そういう先輩は今日から迷宮探索までどうするんすか?」


 迷宮探索は3週間後である。結構な参加人数を予定しており、パーティーを組んだり武器や防具をメンテナンスする時間を設けたりした訳だ。だから、リアとてする事はあまり変わらない。


「そうだなぁ、今日は王国騎士団と模擬戦をするんだが、基本的には身体を鈍らせないようにするのと魔法の特訓、あとは準備かな?」


「王国騎士団との模擬戦……いいっすね、私も機会があれば参加したいっす」


「あんまり知られてないけど、基本的にオープンだから頼めば参加できると思うよ?」


「そうなんすか? ふむむ、これは私も付与魔法の練習の為に参加すべき……?」


「連携なんかの特訓もできるしお薦めするぜ」


「なるほど。分かりました、考えておくっす」


 そうして、雑談をしながら朝食を食べるのだった。


………………


 装備を身に着けると、2人は揃って玄関に向かう。


「むぅ、お泊まり会……終わっちゃいました」


 寂しそうな顔で言うアデルに、リアは微笑みながら返した。


「そんなに寂しがらなくても、いつでも泊まりに来ていいぞ?」


「ありがとうございますっす……でも今回はもっと、先輩と仲良くなれると思ったのに。昨日はいい所でなんでか寝てしまったし」


「そ、そうなのか?」


 最後の方は聞かなかったフリをして、彼女が寝てしまった原因を作ったリアは乾いた声で笑う。実際、あの時あのままアデルに身を任せていたら何処まで進んでしまったのだろうか。考えだしたらキリがないが、しかし好意は嬉しいので泊まりに来てくれるのは大歓迎であった。

 それにお風呂イベントもこなしたのだ。仲は深まったと思う。そう伝えると、彼女は「ですかね、えへへ」と笑顔を浮かべてくれた。


「今度泊まりに行く時は、一緒にゲームをしましょうね。昨日は……まぁ、先輩をほったらかしてゲームをしてしまったっすから」


「そうだな、次を楽しみにしてる」


「それじゃあ」


 バイバイと手を振ろうとしたリアに急接近し肉薄すると、彼女は頬にキスをした。


「またね、先輩」


 それだけ言うと、彼女は駆けて行った。残されたリアはキスをされた頬を撫で、ふっと声を漏らす。まぁ、彼女の好意をどう受け止めたらいいのか? とか色々と考えないといけないとは思うものの。素直な好意というのはここまで嬉しいものなのかと思った。それに相手が美少女なら尚更だ。前世で女友達がいなかった反動か愛に飢えているのかもしれない。


 だから、リアは胸に手を当て目を瞑り深呼吸をすると、ヨシっと気合と意識を入れ歩み出す。晴れた空同様、気分はカラッとして気持ちよかった。

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[気になる点] 問:アデルがアイスティー飲んでない、リアに捕まってお尻ぺんぺんされた場合、一発でM(マゾ)堕ちの可能性は?
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