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 ルナが涙目でリアにしがみつく。アデルの煽りに乗せられて、心配になってしまったからだ。


「リア〜、ダメです。一緒に寝てはダメです〜」


「おぉう、公衆の面前で『寝る』なんて言うんじゃありませんよー?」


 若干、顔を赤くして答える。寝るの意味を理解してはいるが、経験は全く無い。というか女の子同士でどうやって『寝る』のか分からないのもある。……ほんの少し興味があるのは内緒だ。だが、そんなリアの事情などお構いなしにルナは縋る。


「うぅ、私も泊まりますぅ」


 ルナの懇願にリアは困ったような笑みを浮かべる。その横で反復横跳びをしながらアデルが「残念ですが、今晩はひとりで過ごしてくださいっす、先輩」と言って煽る。ルナは酒のせいか煽りを真に受け、頬を膨らませる。そんな悪循環の中、話の渦中であるリアはルナを突如、抱きしめると囁いた。


「大丈夫、なにも起こらないさ」


 寧ろ逆に何か起こったら俺が困ると、言外に匂わし。リアの囁きを聞いたルナは「本当に本当?」と確認を繰り返す。リアは何度でも「本当に大丈夫」と言うと、頷いた彼女はやっとリアから離れた。


「分かりました。リアを信じます」


 その様子を見ていたアデルが「心外っすね……」とむっとした顔をする。しかし、さっきまで襲う気満々であったので心外もクソもない。


 そんな彼女らを傍観していたエストはやっと痴話喧嘩が終わったかと先じて口を開く。このままではリアが襲われそうだが……まぁ大丈夫だろう彼女はヘタレだしと思う。きっと手を出される前に眠らせるか、気絶させるだろう。余談だが、人の首裏をトンと手刀で叩いて気絶させるのは相手を殺してしまう可能性が高いので危険だ。


「では、私はパーティーの件を申請する為に王国騎士団本部に帰らせてもらうよ」


 剣をトントンと叩き言うエストの横で、持ち直したルナも口を開いた。


「なら、私も帰ろうと思います。悔しいですが」


 ハイライトの無い目でリアとアデルを見る。リアはこのまま帰せば後々根に持ちそうだなと苦笑すると、少し考えて。これならば彼女も納得してこの場を離れてくれるかな? と思いルナにそっと耳打ちした。


「今度、一緒に食事でも行こう。2人っきりでさ」


「……約束ですよ?」


「あぁ、約束だ」


 そう言うとルナは微笑みを浮かべて「ふふっ、それでは失礼しますね」と言って帰路に向かい歩いて行った。エストも「それでは、結果は後程メールで送るよ」と言って帰って行く。リアは2人を見送ってから、そっとアデルに手を差し出した。


「それじゃあ、行こうかお嬢さん?」


「は、はいっす」


 急に紳士な態度を取り格好つけるリア。アデルもその事に気がついてクスリと笑みを浮かべると手を取った。すると、ボソリと「【浮かべ(ヴァルトゥール)】」と呟くのが聞こえた。


 瞬間、黒い風が吹き上がる。髪を揺らすだけだった風は瞬時に風力を上げると、リアとアデルを軽々しく持ち上げて空へ舞い上がった。


「きゃぁぁぁあ!?」


 急に空へと案内されたアデルは、あまりの高所に思わず悲鳴をあげた。……魔法で空を飛ぶのは初めてで。高いところが普通に怖いと感じるアデルは、リアの手を両手で握り締めて言った。


「こ、怖いっす先輩!!」


「怖い? ふふっ、仕方ないな」


 リアは怖がるアデルの手を引き抱き寄せると、お姫様抱っこをした。突然リアの胸に抱かれたアデルは、頬を朱に染めてリアの首元に腕を回す。湧いて出た高所への恐怖は、途端に安心感に変わり、自分がまだこんな感情を抱ける事に驚く。リアの腕の中は、どんな場所よりも居心地が良かった。


 悔しい、感じさせるのは自分の役目の筈なのに……と思いながらもリアに身体を預ける。思ったのとは別にして、今はこの時間を楽しみたかった。乙女心は少々歪んでいようとも、まだまだ健在である。アデルだって、優しくされたら嬉しいし紳士的に扱われたらドキリとするのだ。それに良い景色だし、頬を撫でる風は最高に気持ち良い。


 そうして空の移動を楽しみつつ、リアは自宅前に降り立つ。自宅の扉を開けアデルを歓迎した。


「ふぅ……」


 ……部屋に入るなり、リアは装備を外して、収納棚に片付けていく。いつものルーチンで外してしまっているわけだが、ここでアデルは獰猛な笑みを浮かべるとリアの肩に顔を乗せて囁く。


「突然、脱ぎだすなんて……先輩、もしかして誘ってます?」


「え? あっ、いやそういうつもりじゃ!?」


「ふふっ、冗談っす」


 慌てて否定するリアに蠱惑的な微笑みを浮かべるアデル。リアは少しどきりと胸を高鳴らせた。普段、人懐っこい明るい笑顔を浮かべる、童顔の少女が見せた大人っぽさに少しくらりときたのだ。だから、気恥ずかしさを誤魔化すようにリアは攻勢に出る。


「そういうアデルも装備を脱いだらどうだ? 寝るのに邪魔だろ? ……なんなら、俺が脱がしてやろうか?」


 冗談のつもりで言ったリアであったが。


「じゃ、お願いするっす」


 物凄く良い笑顔でアデルは了承する。リアの笑顔が固まった。まさか、許可されるとは思っていなかったからだ。

 ……自分が知らないだけで、同性なら装備を脱がし合うくらい普通なのか? レイアもよく脱がしたがるしと疑問に思うものの。まぁ言ってしまった以上、やらねばならぬ、そんな雰囲気であった。


(えぇい、後輩の装備を脱がすくらい、なんてことないわ!!)


 少し震える手でアデルの装備品に手を伸ばす。背中に回された魔法の杖が納められるベルトやポーションを入れる腰ベルトにサブ武装のナイフ等を外してテーブルに置いた。それから、装備品を丁寧に外していく……。

 そしてその間、アデルはにやにやが止まらなかった。強くて憧れの先輩が自分の言いなりになっている事実にゾクゾクしていた。やはり乙女でも若干のSっ気は抑えられないようだ。


 そうやって、装備を全部外し終えてもらうと……アデルは徐に上着を脱いだ。スカートも下ろし、リアの前で下着姿になっていく。


「先輩、寝る前に……一緒にシャワーでも浴びませんか?」


 提案しながらリアの服を掴み脱がそうとする。リアはその手を掴んで阻止しながら口を開いた。


「シャワーくらいなら、別にいいけど。服は自分で脱げるから。ええい、やめい」


「……えー、装備を外してもらったお礼に、私が脱がしてあげますよ?」


「いや、いいって……」


「遠慮しなくてもいいのに」


「遠慮なんて。あっ、引っ張らないで。分かった、それはまた今度お願いするから……」


「あ、言っちゃったっすね。じゃあ、また今度の楽しみにしておきます」


「……うぇ?」


「や、く、そ、く、っすよ?」


 上機嫌で耳元へ囁くアデル。彼女の性的欲求が潤った瞬間であった。リアは普段見せない後輩の真の姿に少し震える。まるで飢えた狼のような眼光をしていた。だが自分は襲われはしない……襲う側だと気合を入れ直す。エストが見ていたら何の気合を入れているんだとお縄になる場面である。


 そうして着替えとバスタオルを準備してお風呂場に向かう。互いの裸は幾たびのお泊まり会で見慣れているので、今更赤面する事はない。

 お風呂場に入ると、先んじてリアがアデルを椅子に座らせる。何かされる前に自分から動いたのだ。


「背中を流してやろうではないか」


 先輩風を吹かし「ふふんっ」と笑いながら言うリアに、毒気の抜かれたアデルは「なら、折角だしお願いするっすね」と笑顔で了承する。そんな彼女にリアは(良かった、変な事にはなりそうにないな)と胸を撫で下ろした。


 背中からシャワーで温水をかける。若くて白く瑞々しい肉体を清潔な水が伝い流れていく。後輩の女の子が無防備に背中を晒してくれている……中々に良い景色だとリアは思った。それからタオルを水で濡らし、ボディーソープをつけて泡立てると彼女の綺麗な背中に這わせていく。


「……んっ、先輩、上手っすね」


「そう? なら良かった」


 彼女の手が届き難い場所を丁寧に洗ってあげると、彼女は気持ちよさそうに吐息を漏らす。暫し無言の時間が流れたが……。静寂を破って彼女の方から口を開いた。少し真剣な様子だ。


「先輩、ドラゴン討伐、本当におめでとうございます」


「ん? ありがとう」


 リアが礼を言うと、アデルは更に熱の籠った声で言った。


「……私、必ず先輩を追い抜くような冒険者になってみせるっす。だから、その時まで絶対に死なないでくださいね。先輩がドラゴンをソロで倒しに行ったって聞いた時は本当に、血の気が引いたんですから」


 アデルの心配を嬉しく思い、また彼女の決意を丁寧に受け取ったリアは力強い声で言った。


「……うん、大丈夫。俺は死なないよ。それにアデルならきっと、もっともーっと強くなれるさ」


 そっと背中からお腹にかけて腕を回し抱きしめる。彼女を安心させる為に、そして彼女の思いに応える為に。リアの思いが伝わったのか、アデルはリアの手にそっと手を重ねて撫でると、満足そうに頷き笑みを浮かべる。そして。


「それじゃあ今度は私が、先輩の背中を流してあげるっすよ!!」


 雰囲気一転。腕を引いて、ぬるっとした動きで入れ替わると、リアを座らせる。彼女は《身体強化》という『筋力に補正』をかける付与魔法を使って身体を強化し、リアが有無を言う前に座らせたのだ。


「えぇ? いや、いいよ俺は」


「私が洗いたいんすよ」


 手をワキワキとさせ、ニヤニヤとしながら言うアデルにリアは警戒するものの。こういう女の子同士のお風呂イベントに憧れていた側面もあるので素直に受け入れる事にした。


 ……アデルの背中を洗う手つきは思っていたよりも気持ち良く、他人に背中を流してもらうのはいいなと思う。


 一方で、アデルはリアの背中を見て思う。あぁ、大きな背中だなぁと。この背を追い越すには生半可な覚悟では足りないだろう。


(でも、必ず追い越してみせる。その時は……私のものになってもらいますよ先輩)


 覚悟と野望を再確認すると、リアを喜ばせる作業に戻った……ところで魔が差し「あ、手が滑ったっす」と言ってリアの胸を揉みしだいた。お約束というやつだ。そして中々の大きさと柔らかさに手が幸せで包み込まれ「うへへ……」と欲望を垂れ流しながら、ふよふよしたり揉み揉みしたりを繰り返して楽しむ。自分の胸はあまり大きくなく、こういったもみ心地は無いから新鮮である。

 だが、そんな幸せな時間は長くは続かず。


「いい加減にしなさい」


「あいた!!」


 暫く揉ませていたリアは、流石に恥ずかしさが勝りチョップを入れると中断させた。顔が朱に染まっているのは、恥ずかしさからかそれとも……答えはリアしか知らない。そしてヘタレたのもあり、揉み返してやろうという気持ちは湧いてこないリアであった。女の子の胸を揉む、千載一遇のチャンスを逃した瞬間である。


……………………………


 お互い前を洗うのは流石に恥ずかしいと、今更乙女で初心な事を言いあった結果、自分で汚れを流すだけにとどまり。お風呂イベントは想像よりも健全に終わる。

 お前ら互いに襲い襲われを想定しているのに今更何を恥ずかしがるのかと第三者がいたら言うだろう。

 それから下着姿のまま洗面所で2人並んで歯磨きをしながら、リアはふと思った事を言った。


「今度、一緒に温泉にでも行こうか」


「あ、いいっすねそれ」


「ルナやエストも誘ってさ」


「……先輩、そういうところっすよ」


「え?」


 首を傾げるリアに「もう乙女心が分かってないっす」と憤るアデルであった。

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