09.こ、こいつ!
本日3話目です。
第9話のサブタイトルを「こ、こいつ!」に変えました。
「つーか、エリアスがいて助かったな、俺ら」
「ああ、本当だな。エリアスがいなかったらヤバかった」
王都を出発して四カ月後。
三人は、フサット盆地に通じるダンジョン化した坑道内にいた。
坑道は予想よりも広く、幅は四車線道路くらいで、天井も高い。
一本道のため迷う心配はないが、とにかく暗い。
ダリオの光源魔法はあるものの、暗闇からの急襲にかなり気を張る必要がある。
険しい顔をするレンとダリオに、エリアスがにっこりと微笑んだ。
「どうやら私の出番のようですね」
夜目がきく上に耳が良いエリアスは、遥か先の敵を探知。
矢を放って、どんどん敵を倒していく。
お陰で、レンとダリオは後ろにだけ集中していれば良くなり、攻略がグンと楽になった。
正にエリアス様様である。
しかし、そんな大活躍とは裏腹に、エリアスが考え込むような表情をするようになった。
徐々に考える時間が増え、休憩時間もジッと黙っている。
心配したダリオが尋ねた。
「おい、エリアス、どうした?」
「様子が少しおかしいぞ。大丈夫か? 疲れたんじゃないのか?」
レンの問いに、エリアスが我に返ったように微笑んだ。
「すみません。心配をお掛けして。これくらいでは疲れないので大丈夫ですよ。ただ……、気が付いたことがありまして」
「気が付いたこと? なんだ?」
「悪いことではないのですが、なにせ暗いですし、ダンジョン内の魔獣はすぐ消えてしまうので、確証が持てないのです。坑道を出ればはっきりすると思うので、その時に言うことにします」
なんだろう、と、首を傾げるレンとダリオ。
もしかすると、夜目がきくエリアスには何か見えているのかもしれない。
「分かった。きっともうすぐ出口だ。その時に改めて聞くよ」
「ええ。それでお願いします」
休憩を終わらせ、再び前に進み始める三人。
魔獣をどんどん倒していく。
そして、
「お! やったな! 光が見えたぜ!」
ついに出口の光が見えた。
速足で光の方向に進む三人。
坑道を出ると、そこは霧の世界。
正面に見えるのは、深そうな森。
霧の向こうには、森を囲む切り立った岩の壁がうっすらと見える。
ダリオが圧倒されたように口を開いた。
「なんか、地図で見るよりずっとデカいな」
「そうですね。あの地図も百年前のものらしいので、もしかすると広がっているのかもしれませんね」
レンは、目をつぶって気配を探った。
感じるのは、森の中にあるいくつかの強い気配と、恐らく森の反対側にいるであろう、桁外れに強い存在。
「多分、邪竜は森の反対側にいると思う」
「ええ、私もそう思います。さっきから冷気が漂ってきている気がしています」
「俺もだ。やべーな、このオーラ」
三人はしばし相談。
とりあえず、少し休んだ後に、森を突っ切ろうと、と決めたー-
その瞬間。
ギャウウウ!!!
森の中から二匹のオークが飛び出してきた。
目にも止まらぬ速さで抜刀し、一撃で仕留めるレン。
ダリオが、ひゅうっ、と口笛を吹いた。
「すげーな、レン。ここまでくると芸術の域だ」
「まあ、もう二年半も刀を振ってるからな」
そんな会話をする二人に背を向け、オークの死体を確認するエリアス。
そして、振り返った。
「このオーク、何かが違うと思いませんか?」
「え? 違う?」
首を傾げながらオークの死体に近づく二人。
「これはオークジェネラルだな。しかも、普通のオークジェネラルよりずっと強い」
「ああ。外に出たら、キングになっていてもおかしくないな」
二人の言葉に、エリアスが首を横に振った。
「まあ、それは間違いありませんが、問題は頭です」
「頭?」
いぶかし気にオークジェネラルの頭部を見る二人。
「!!!!!」
そして、息を飲んだ。
「こ、こいつ! 毛が生えてる!」
それは衝撃的な絵面だった。
オークといえば、つるっぱげ。
しかし、このオークは二匹とも頭頂部にフサフサとした毛が生えていた。
あまりの衝撃に、雷に打たれたように固まる二人。
先にダリオが再起動した。
「いや、待てよ。オークって、普通つるっぱげだろ? これは毛がある種類なんじゃねーのか」
「いえ、実は、子供オークには毛が生えているのですよ。大人になるまでに抜け落ちてしまいますが」
「つまり、若ハゲってことか」
「ええ。そうなります」
なるほど、と、レンは冷静に分析した。
オークは生殖能力が強いと聞く。
きっと男性ホルモンが多く、ハゲるのが早いのだろう。
ダリオが興奮したように言った。
「てことは、つまり、なくなった毛がまた生えたってことか?」
「ええ。そうなると思います」
「なんだよ! 朗報じゃねえか!」
「ええ! この上ない朗報です!」
イエーイ! と、ハイタッチをするダリオとエリアス。
レンはガッツポーズを決めた。
間違いない。
泉の水には毛根を復活させる効果がある!
これで海やプールに行ける可能性がグッと上がった。
彼は握ったこぶしを天に突き出した。
「行こう! エリクサーが俺たちを待っている!」
「おお!」
「ええ、行きましょう!」
三人の超本気の冒険が始まった。
本日はここまでです。また明日投稿します。