表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/15

07.ツルッパーゲ侯爵


本日1話目です。


<前回まで>

頭が寂しい若者三人は、パーティを組んでエリクサーを目指すことにした!


パーティ結成の翌々日。


レン、ダリオ、エリアスの三人は、エリクサークエストの発注者である、ツルッパーゲ侯爵の豪邸を訪れていた。


体育館並みに広いエントランスには、百名ほどの冒険者。

皆、エリクサークエストの受注を目指している凄腕達だ。


レンが低い声で言った。



「思ったより人が多いな」


「なにせ三千万Gですからね」


「そんくらいありゃ、パーティ全員が一生遊んで暮らせるからな」



小声で答えるエリアスとダリオ。


レンは周囲を見回した。



(見た感じ、パーティ数は、二十前後ってとこか)



全員強そうだが、中でも目立つのは、S級冒険者パーティ。

いかにも強そうなオーラを放っている。

レンはグッと気を引き締めた。



(これは相当アピールしないとダメだな)



彼の脳裏に浮かぶのは、七瀬の笑顔。



(七瀬さん、俺、がんばるよ。絶対に君を海に連れていく!)



気合を入れるレン。


その後、くじ引きで面接の順番を決定。

レン達は、二十三パーティ中、十八番目になった。










「はーっはっはっはは! いやあ、愉快! 愉快!」



フサフサッとした茶色い髪を揺らしながら豪快に笑う、超上機嫌なツルッパーゲ侯爵。


結論から言うと、レン達はめちゃくちゃ気に入られた。


侯爵曰く、「ビビッときた」らしい。

彼は面接もそこそこに、隣に座っていた初老の秘書に命じた。



「私は決めたぞ。彼らに依頼する」



秘書は目を白黒させた。



「お、お待ちください。まだ五つのパーティが残っております。それに、彼らの前に有名S級パーティが二つほど……」


「私の勘が言っているのだ。彼らに依頼するべきだ、とな」


「し、しかし……」



尚も心配そうな顔をする秘書。

レンは立ち上がると、頭を下げた。



「我々ほど本気でこの依頼に挑んでいる者はいないと自負しております。どうか信じて下さい」



お願いします、と、真剣に頭を下げる、ダリオとエリアス。

その只ならぬ気迫に押され、たじたじになる秘書。


侯爵は、上機嫌で立ち上がると、レンに手を差し出した。



「よし! 君らに決まりだ! これからよろしく頼む!」


「はい! おまかせ下さい!」



しっかりと目を見ながら手を握り返すレン。

侯爵は豪快に笑った。



「はっはっはっ! いい目だ! 打ち合わせの前に軽く食事でもどうだ?」


「宜しいんですか?」


「もちろんだ! いやいや、今日は実に楽しくなりそうだ!」



その後、三人はほっぺたが落ちそうなほど美味しい料理を堪能。

侯爵に誘われて、高そうな酒瓶が並んでいるラウンジに入った。


そして、高そうな酒が全員に行きわたり、人払いすると、侯爵の目が真剣になった。



「さて、では本題に入ろう」



真面目な顔で頷く三人。



「まず、君たちに依頼したいのは、エリクサーだ。使用用途だが……」



ゆっくりと頭に手をかけ、スポッとカツラを外す侯爵。

様式美的に驚いた顔をする三人。

侯爵は機嫌良さそうに笑うと、真剣な顔に戻った。



「私は、エリクサーで毛を復活させたい」



レンが頷きながら、バンダナを外した。



「我々も心は一緒です」



帽子までは脱がずとも、真摯に頷くダリオとエリアス。

侯爵が豪快に笑った。



「はーっはっはっはっ! やはり私の目に狂いはなかったな! 他の奴等とは真剣味が違う!」



侯爵は機嫌良さそうに立ち上がると、壁に貼ってある地図の前に立った。



「ここが、エリクサーがあると言われているフサット盆地だ。高ランクの魔獣が多いことから、近づく者はほとんどいない魔境だ」



ダリオが口を開いた。



「フサット盆地の話は私も聞いたことがあります。旧魔王領の中心であった場所で、魔王亡き今、邪竜が守っている、と」


「その通りだ。難易度は非常に高い。そして、この盆地の奥、魔王住居であった塔、通称『魔王城』に、エリクサーが眠っているという」



エリアスが手を上げた。



「まだエリクサーは存在するのでしょうか。百年前に異世界勇者が魔王を討伐した際に、めぼしいものは全て持ってきたと記憶しておりますが」



侯爵は頷くと、声を潜めた。



「ああ。ここだけの話だが、競売で手に入れた勇者の日記の解析の結果、実は、エリクサーが『魔王城にある泉の水』であるということが分かったんだ」


驚いたような声を上げる、ダリオとエリアス。

レンが手を上げた。



「すみませんが、その日記、見せてもらえないでしょうか。俺、渡り人なんで読めるかもしれません」


「なに! 君は渡り人か! 言われてみれば、黒目黒髪だな。なぜ今まで気が付かなかったんだろうか」



そりゃ、多分派手なバンダナのせいだな、と、ボソッと呟く口の悪いダリオ。

侯爵が日記帳を持ってきた。



「実を言うと、完璧に解析できている訳ではないのだ。ぜひ読んでくれ」



日記を受け取って開くレン。

中身は案の定日本語で、こう記されていた。




――――


1月25日

魔王城の空中庭園にある泉の水を飲んだら、切られた足が生えてきた! 

すげー! ファンタジー!

しかも、倒した邪竜に使ったら、完全復活してるし! マジ笑うw

とりあえず、もう一回倒すのしんどいんで、テキトーに聖剣投げつけて逃げたw


3月3日

泉の水をビンに入れて数本持ち帰ったら、伝説のエリクサーって騒がれた。

もっとないかとか言われて、現地にまだあるかもって言っておいた。

まあ、復活させた邪竜を突破して行ける奴とか、そうそういねーと思うけどなーw


―――



レンは、眉間をもみほぐしながら思った。

この勇者、なんか軽すぎないか? と。



(でも、まあ、エリクサーは本当に泉の水みたいだな)



彼は顔を上げると、心配そうな顔をしている侯爵に頷いてみせた。



「間違いありません。エリクサーは泉の水です。邪竜が守っているのも間違いなさそうです」



おおっ! と、喜ぶ侯爵とダリオ、エリアス。



「君達には、その泉の水をビン三本分持って帰ってきて欲しい」


「分かりました。お任せください!」


「頼んだぞ! いやあ、今日は良い日だ! 祝杯を上げよう!」


「「はい!」」



まるで十年来の友のように打ち解けて笑い合う四人。




後にツルッパーゲ侯爵はこう言った。


「あれほど酒が美味しく思えたことはなかった」と。






夕方以降、また投稿します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ