表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/15

05.奇病だと勘違いされて、祈祷師を呼ばれました


本日2話目です。


「ちっ、なんだよ。早く要件を言え! お前らと違って、俺は忙しいんだ!」


「私は暇人ですからね。一週間くらいなら大丈夫ですよ」



掲示板で依頼を見た、三十分後。

レンは、小柄な魔法使いとイケメンエルフと共に、王都の中心地にある食事処に来ていた。


掲示板の前に立つ二人を見て、レンはピンときたのだ。

多分こいつら同志だ、と。


そして、日本で培った営業スキルをフル活用。

二人を食事に誘った。



「ここで会ったのも何かのご縁ですし、一緒に食事でもどうですか?」



最初は「なんだこいつ」という反応をした二人だったが、レンのバンダナを見て何か感じるところがあったらしく、彼の誘いを了承。

そこからはむしろ積極的で、魔法使いに至っては、「実は王都は初めてなんです」と言うレンを、「ちっ、誘っといて分かんないとか何なんだよ」と言いながらも、行きつけの食事処に連れて来てくれた。


個室に通される三人。


料理を頼みながら、レンは二人の様子を伺った。


一人は人族で、やや小柄。まだ少し幼さが残る男性。

口は悪いが、どことなく上品。

食事処の主人の態度からすると、もしかして貴族なのかもしれない。

服装は、いかにも魔法使いといった風情のフード付きの濃紫のローブに、高そうな杖。


もう一人はエルフで、かなりのイケメン。

のんびりした口調のせいか、温厚そうに見える。

服装はエルフらしい緑を基調としたゆったりめの服に、羽根つきの帽子、弓。



(多分だけど、この二人、相当な手練れだな)



そう思いながら、メニュー表をながめるレン。


季節は初夏。

窓が開いているとはいえ、個室の中はかなり暑い。

しかし、帽子を脱ぐ者は誰もいない。


レンは、確信を深めた。

こいつら、やはり同志だろう。と。


だから、注文が終わり、口の悪い魔法使いに



「ちっ、何なんだよ。早く要件を言え! お前らと違って、俺は忙しいんだ!」



と、言われ、レンは覚悟を決めた。

まずは自分が胸襟を開こう。と。



「まず、自己紹介の前に、見せたいものがある」



そう言って、ゆっくりとバンダナを外すレン。

下から出てきたのは、汗でぐったりとした頼りないすだれ状の前髪。



「なっ!」


「これは……」



驚いた顔をする二人。


レンは、確信した。

こいつら、絶対にいい奴らだ。と。


恐らく、二人とも気が付いていた。

レンがハゲているということを。


しかし、敢えて驚くことにより、「ハゲてるなんて全然分かりませんでした」と、アピールしてくれているのだ。

ここはなんてハゲに優しい世界なんだ。


二人から勇気をもらい、レンはゆっくりと話し始めた。


名前は、レン・クドウ。

職業は侍で、A級冒険者。

十代後半から抜け毛が増え、人の視線が頭部にいくのが気になり始めたこと。

仕事を始めてからストレスがたまり、気が付けば手遅れな状態になっていたこと。

開き直っていたが、好きな女の子ができて、発毛を意識し始めたこと。

最後の望みの綱だった特級ポーションが効かず、絶望していたこと。



話を聞きながら、横を向いて涙を隠す魔法使い。

エルフの目も潤んでいる。


そして、レンの話が終わると、魔法使いが口を開いた。



「そこまでぶっちゃけられたら、俺もぶっちゃけるのが筋ってもんだ。俺はこういう者だ」



ローブの帽子を取って、頭を下げる魔法使い。

それは見事な河童ハゲであった。


まさかそんな、と、様式美的に驚いた顔をする他二人。


魔法使いは、ゆっくりと話始めた。


名前は、ダリオ・ハゲテイル。

ハゲテイル侯爵家の三男。職業は賢者、A級冒険者。

10代のある日、可愛がっていた末の妹に、「おにいたん、頭に穴があいてるよ」と、言われてハゲが発覚。

ハゲを何とかするために魔法を極め、ようやく治癒魔法の最高峰である『エクストラヒール』が使えるようになったが、ハゲには全く効かず、どん底に陥っていたこと。



そっと目頭を押さえるエルフ。


レンの頬を涙が伝った。

分かる、分かるぞ、その気持ち、その絶望。


そして、最後。

イケメンエルフが、「では、私も」と、羽根つき帽子を脱いだ。



「……っ!」


「!!」



様式美ではなく、本気で驚くレンとダリオ。

帽子から長い銀髪が出ていたので、てっきり円形脱毛症くらいかと思いきや、思った以上に広大な不毛地帯。

典型的な落ち武者ハゲだ。


これまでの苦悩を察し、早くも涙腺崩壊気味なダリオ。


エリアスが穏やかに話始めた。


名前は、エリアス・ツルント。

魔弓士、S級冒険者。

いつの頃からか、おでこが広いと言われ始めたこと。

エルフに若ハゲが存在しないため、奇病だと勘違いされて、祈祷師を呼ばれたこと。

婚約者にフラれ、何とかよりを戻したいと、毛生え薬を探して世界中を旅しているが、なかなか見つからず、絶望していたこと。



分かる、分かる、と、目を潤ませるレン。

どうやら涙もろいらしく、涙で顔がぐちゃぐちゃになっているダリオ。


三人は確信した。

俺たちは、辛いことを分かち合える真の同士である、と。


だから、レンが涙をぬぐってこう切り出したのも、実に自然なことだった。



「俺たち、パーティを組まないか」




――伝説のパーティが誕生した瞬間だった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 貴族は金でなんとか出来るかもしれないけど エルフは長く生きているからツライですよね 彼に薬は使わせてあげましょう(^O^)/
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ