05.奇病だと勘違いされて、祈祷師を呼ばれました
本日2話目です。
「ちっ、なんだよ。早く要件を言え! お前らと違って、俺は忙しいんだ!」
「私は暇人ですからね。一週間くらいなら大丈夫ですよ」
掲示板で依頼を見た、三十分後。
レンは、小柄な魔法使いとイケメンエルフと共に、王都の中心地にある食事処に来ていた。
掲示板の前に立つ二人を見て、レンはピンときたのだ。
多分こいつら同志だ、と。
そして、日本で培った営業スキルをフル活用。
二人を食事に誘った。
「ここで会ったのも何かのご縁ですし、一緒に食事でもどうですか?」
最初は「なんだこいつ」という反応をした二人だったが、レンのバンダナを見て何か感じるところがあったらしく、彼の誘いを了承。
そこからはむしろ積極的で、魔法使いに至っては、「実は王都は初めてなんです」と言うレンを、「ちっ、誘っといて分かんないとか何なんだよ」と言いながらも、行きつけの食事処に連れて来てくれた。
個室に通される三人。
料理を頼みながら、レンは二人の様子を伺った。
一人は人族で、やや小柄。まだ少し幼さが残る男性。
口は悪いが、どことなく上品。
食事処の主人の態度からすると、もしかして貴族なのかもしれない。
服装は、いかにも魔法使いといった風情のフード付きの濃紫のローブに、高そうな杖。
もう一人はエルフで、かなりのイケメン。
のんびりした口調のせいか、温厚そうに見える。
服装はエルフらしい緑を基調としたゆったりめの服に、羽根つきの帽子、弓。
(多分だけど、この二人、相当な手練れだな)
そう思いながら、メニュー表をながめるレン。
季節は初夏。
窓が開いているとはいえ、個室の中はかなり暑い。
しかし、帽子を脱ぐ者は誰もいない。
レンは、確信を深めた。
こいつら、やはり同志だろう。と。
だから、注文が終わり、口の悪い魔法使いに
「ちっ、何なんだよ。早く要件を言え! お前らと違って、俺は忙しいんだ!」
と、言われ、レンは覚悟を決めた。
まずは自分が胸襟を開こう。と。
「まず、自己紹介の前に、見せたいものがある」
そう言って、ゆっくりとバンダナを外すレン。
下から出てきたのは、汗でぐったりとした頼りない簾状の前髪。
「なっ!」
「これは……」
驚いた顔をする二人。
レンは、確信した。
こいつら、絶対にいい奴らだ。と。
恐らく、二人とも気が付いていた。
レンがハゲているということを。
しかし、敢えて驚くことにより、「ハゲてるなんて全然分かりませんでした」と、アピールしてくれているのだ。
ここはなんてハゲに優しい世界なんだ。
二人から勇気をもらい、レンはゆっくりと話し始めた。
名前は、レン・クドウ。
職業は侍で、A級冒険者。
十代後半から抜け毛が増え、人の視線が頭部にいくのが気になり始めたこと。
仕事を始めてからストレスがたまり、気が付けば手遅れな状態になっていたこと。
開き直っていたが、好きな女の子ができて、発毛を意識し始めたこと。
最後の望みの綱だった特級ポーションが効かず、絶望していたこと。
話を聞きながら、横を向いて涙を隠す魔法使い。
エルフの目も潤んでいる。
そして、レンの話が終わると、魔法使いが口を開いた。
「そこまでぶっちゃけられたら、俺もぶっちゃけるのが筋ってもんだ。俺はこういう者だ」
ローブの帽子を取って、頭を下げる魔法使い。
それは見事な河童ハゲであった。
まさかそんな、と、様式美的に驚いた顔をする他二人。
魔法使いは、ゆっくりと話始めた。
名前は、ダリオ・ハゲテイル。
ハゲテイル侯爵家の三男。職業は賢者、A級冒険者。
10代のある日、可愛がっていた末の妹に、「おにいたん、頭に穴があいてるよ」と、言われてハゲが発覚。
ハゲを何とかするために魔法を極め、ようやく治癒魔法の最高峰である『エクストラヒール』が使えるようになったが、ハゲには全く効かず、どん底に陥っていたこと。
そっと目頭を押さえるエルフ。
レンの頬を涙が伝った。
分かる、分かるぞ、その気持ち、その絶望。
そして、最後。
イケメンエルフが、「では、私も」と、羽根つき帽子を脱いだ。
「……っ!」
「!!」
様式美ではなく、本気で驚くレンとダリオ。
帽子から長い銀髪が出ていたので、てっきり円形脱毛症くらいかと思いきや、思った以上に広大な不毛地帯。
典型的な落ち武者ハゲだ。
これまでの苦悩を察し、早くも涙腺崩壊気味なダリオ。
エリアスが穏やかに話始めた。
名前は、エリアス・ツルント。
魔弓士、S級冒険者。
いつの頃からか、おでこが広いと言われ始めたこと。
エルフに若ハゲが存在しないため、奇病だと勘違いされて、祈祷師を呼ばれたこと。
婚約者にフラれ、何とかよりを戻したいと、毛生え薬を探して世界中を旅しているが、なかなか見つからず、絶望していたこと。
分かる、分かる、と、目を潤ませるレン。
どうやら涙もろいらしく、涙で顔がぐちゃぐちゃになっているダリオ。
三人は確信した。
俺たちは、辛いことを分かち合える真の同士である、と。
だから、レンが涙をぬぐってこう切り出したのも、実に自然なことだった。
「俺たち、パーティを組まないか」
――伝説のパーティが誕生した瞬間だった。