04. 分かる。とても分かる。
本1話目です。
「ちくしょー! なんで腕が生えるのに、毛が生えないんだよ!」
冒険者ギルドに登録した、一年後。
レンは、王都の酒場で一人やさぐれていた。
理由は簡単。
特級ポーションを使っても、毛根が復活しなかったのだ。
「うう……。今までの俺の努力は何だったんだ」
テーブルの上に突っ伏して、涙にくれるレン。
この一年。
レンは本当にがんばった。
パーティに入った時期もあったが、内部で揉めてストレスがたまり、抜け毛が増加。
こりゃたまらん、と、シングルに変更。
植物採取からゴミ拾いまで、普通の冒険者が嫌がる仕事も進んでこなし、ランク上げに努めた。
お陰で、ランクはこの一年でFからAに急伸。
街を代表する冒険者にまで昇りつめた。
ランクの高い仕事を受ければ、お金もたまる。
無駄遣いもせず、ひたすらコツコツためる性分だったこともあり、彼はとうとう特級ポーションが買える金額を手にした。
「やったぞ! これでハゲとはおさらばだ!」
通常であれば、浮かれて街の道具屋に走るところだが、彼は非常に冷静だった。
「ここまできて、偽物を掴まされてはたまらない」
という訳で、王都の有名ポーション専門店の本店を訪問。
それまで貯めた百万Gをはたいて、特級ポーションを購入した。
「よし、使うぞ」
宿屋のテーブルの上に、キラキラ光るポーションの瓶を置いて、ごくりと唾を飲み込むレン。
キュポンと栓を開け、匂いを確認した後、おもむろに頭に軽く垂らしてみたのだが……。
「……うそだろっ!!!!!」
結果は無残。
試しに切った傷口はきれいに治ったが、浴びせようと飲もうと、毛根だけは復活しなかった。
「くっ……。俺の望みの綱が……」
空になったビンの前で、打ちひしがれるレン。
「すまない。七瀬さん。俺は、君を海にもプールにも連れていけないし、一緒に絶叫マシーンにのることすらできないハゲだ」
――この夜。
彼は、生まれて初めて、記憶がなくなるまで酒を飲んだ
*
翌日早朝。
レンは、痛む頭を抱えて宿屋を後にした。
冷静になった彼は、少し後悔していた。
誰かに「毛根に特級ポーションは効くか」くらい聞いておけば良かった、と。
つい、「ハゲだと思われたらどうしよう」というカッコつけ精神から、確かめもせずに突っ走ってしまった。
「俺ってバカだな……」
溜息をつく。
お陰で一気に懐が寂しくなってしまった。
そして、「金、稼がないとな」と、拠点のある街に帰るため、乗合馬車の乗り場に向かっていた、その時。
すれ違った冒険者たちの興奮した声が聞こえた。
「侯爵様が、超高額クエストを出すんだってよ!」
「おお! すごそうだな!」
「見に行こうぜ!」
レンは立ち止まった。
侯爵が高額クエストなんて、相当なものじゃないだろうか。
足早にギルドに向かう、懐が寂しいレン。
ギルド内の掲示板の前には、既に人だかりができている。
ギルド職員が、梯子を上って、掲示板の上部に金色の紙を貼った。
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<特殊特級クエスト>
依頼内容: 『エリクサー』の入手
場所 : フサット盆地
報酬 : 三千万G(準備金百万Gを含まず)
受注条件:
1.三人以上のAまたはSランクパーティであること
2.面接に合格すること
発注者 : ツルッパーゲ侯爵
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冒険者たちから笑いが漏れた。
「ツルッパーゲ侯爵って言ったら、毛生え薬を探してる貴族だろ」
「とうとう伝説の再生薬にまで手を出すのかよ」
「エリクサーって、邪竜が守ってるんだろ」
「おいおい、そこまでして毛が欲しいのかよ」
大声で笑いだす冒険者たちの横で、レンは心の底から共感した。
分かる。
とても分かる。
俺だって金があれば同じことをやる。
そして、備考のとある部分に目が引き付けられた、
―――
備考:
エリクサーが必要なのは、三回分。
残った場合は、自由に使用することを許可する。
―――
レンは固まった。
(これは、もしかして俺も手にもできる可能性があるってことか?)
そんな彼を尻目に、「下らねえなあ、帰ろうぜ」と、掲示板の前からゾロゾロと離れていく冒険者たち。
そして、レンが気が付くと。
掲示板の前には、彼を入れて三人の人物が残っていた。
一人は、ローブを着てフードをかぶった、小柄な魔法使い。
もう一人は、羽帽子をかぶった、銀髪のイケメンエルフ。
そして、最後の一人は、派手なバンダナを頭に巻いた、レン。
これが、彼らの運命の出会いであった。
夕方以降、あと2話ほど投稿します。