03.定番イベントの発生
本日3話目です。
「準備はいいか?」
「はい。師匠」
レンが異世界に来てから一年後。
朝焼けが、にじむように空に広がりはじめる、早朝。
小さな荷物を背負ったレンとライトが、小屋の入り口に立っていた。
今日は、旅立ちの日。
レンは、馬車で三日ほどの場所にある、大きな街を拠点とする冒険者になる予定だ。
ちなみに、現在の彼のステータスは、下記。
――――――
名前 : レン・クドウ
ジョブ: 剣士(上級)
称号 : なし
――――――
特筆すべきは、一年で、ジョブが『初級』から『上級』になったこと。
通常、初級から中級に上がるのに五年、中級から上級に上がるのに十五年はかかる。
一年で初級から上級になるなど、ありえない。
二人の間で、「もしかして勇者なんじゃないか」という話も出たが、調べた本によると、勇者であれば、称号に『勇者』と出るようで、「やはり落ち人だ」という結論になった。
頭髪の方は、毎朝欠かさず頭皮マッサージを行っている。
特級ポーションを使うにしても、残存毛根が多いに越したことはない、という結論に達したからだ。
そのお陰もあり、前線はかろうじて維持。
ただ、異世界には上手い美容室や高機能なワックスがないため、見た目部分においては、かなりの苦戦を強いられている。
ライトが、すっかりたくましくなったレンを見上げた。
「もうお前は十分強いが、油断は大敵じゃ。命は一つ。どんな雑魚にも慎重に挑め」
「はい。分かりました。今までお世話になりました」
頭を下げるレン。
がんばれよ、という風に、レンの肩をポンポンと叩くライト。
「それと、なんじゃが、一つ餞別があっての」
取り出したのは、アフリカのサバンナを髣髴とさせる、やたら派手なバンダナ。
「わしが若い頃使っていたものじゃ。珍しい布地を使っておっての。一度結べば三日は取れない優れものじゃ」
レンは胸がいっぱいになった。
二人の間で頭髪の話題が出たことはないが、師匠は分かっていてくれたんだな、と。
まあ、分かるも何も、毎朝あれだけ熱心に頭皮マッサージをしていれば、嫌でも気が付くとは思うが。
それはさておき。
「一枚じゃ困るじゃろ」と、洗い替え用にと、同じようなバンダナをもう数枚出すライト。
レンはそれを恭しく受け取ると、穏やかに微笑む師匠に感謝の目を向けた。
「ありがとうございます。師匠。愛用させて頂きます」
*
レンの旅は順調だった。
黒目黒髪が珍しいことから、何か言われるかもしれないと心配したが、みんな派手なバンダナに目が行くらしく、黒目黒髪については特に強くは突っ込まれれず。
お陰で、彼はとても快適な旅をすることが出来た。
「調理実習の時に頭にかぶるやつっぽいから、どうかと思ったけど、これ、いいな」
確かに、地味なバンダナよりも、派手なバンダナの方が、その下がどうなっているかという考えには至りにくい。
これが木を隠すなら森にか、と、あまり関係ないことわざで納得するレン。
そして、子供達から「バンダナのお兄ちゃん」、大人達から「バンダナ」などと、どこかの古い刑事ドラマのような呼ばれ方をしながら、乗合馬車に揺られること三日。
遂に目的の街に到着した。
「ここが今日から俺の拠点になるのか」
ヨーロッパ風の建物に、石畳の道。
道の両脇には露店が並び、人々が楽しそうに買い物をしている。
「いいな、この街。活気がある。正にナーロッパだ」
わくわくしながら、早速、街の中心にある冒険者ギルドに向かうレン。
そして、お約束の事件が起きた。
「なんだー!? その派手なバンダナはよー!」
冒険者ギルドで絡まれたのだ。
絡んできたのは、ニヤニヤしたガラの悪い大柄な冒険者三人。
定番イベント来たな、と思いつつ、レンは三人を冷静に観察した。
(まあ、せいぜい中級の斧使いと剣士ってとこか)
そして、溜息をついた。
定番イベントの遭遇に感動しなくはないが、実際やられるとマジうざい。
テンプレ展開としては、ここでクールにあしらって、更に怒りを買う感じなのだろうが、実際に遭遇すると、真面目に相手をするのもアホらしい低レベルさだ。
(無視だな、ここは)
三人をガン無視して立ち去ろうとするレン。
レンの予想外の反応にブチ切れる三人組。
「おい! お前! 調子に乗ってるんじゃねえぞ!」
一人がレンの頭に乱暴に手を伸ばした。
「なんだよ、このバンダナ! 俺がもらってやる!」
その瞬間。
若ハゲ露呈の恐怖がレンを突き動かした。
目にも止まらぬ早さで、男の腕をねじり上げる。
「いてっ! いてててて!」
情けない叫び声を上げる男。
そこからの展開は一方的。
レンがあっという間に三人を床に沈め、叫んだ。
「俺のバンダナに触るんじゃねえー!!」
一見、正当な防衛にも見える、この行為。
ラノベであれば、どんなに主人公が暴力をふるっても、「正当防衛」の一言で終わるが、現実はそうもいかず。
ギルドは過剰防衛としてレンを批判。
この街のギルドへの出入り禁止と罰金を言い渡した。
「くっ、これが現実か……!」
ガックリと膝をつくレン。
お陰で、馬車で十日離れた場所にある別の都市に拠点移動する羽目になってしまった。
落ち人レン。
開始早々、隣町からリスタート。
本日はここまでです。また明日投稿します。