13.ファ~
本日1話目です。
「ありましたよ! 多分これです!」
エリアスの興奮したような声が、空中庭園に響き渡る。
レンとダリオが駆け付けると、庭園の片隅に、金色に輝く座布団大の小さな泉があった。
「おお! これっぽいな。 誰か傷残ってねえか?」
「手に少し残ってる」
手を泉の水に浸すレン。
手の甲にあった切り傷が、拭い去ったように消える。
「おおおおお!!!!」
「こ、これだ!」
「やりましたね!」
「「ばんざーい! ばんざーい!」」
泉の前で、万歳三唱する三人。
興奮のあまり、何がなんだかよく分からない状態だ。
心を落ち着けるため、レンは息を小さく吐いた。
「とりあえず、まずは、ツルッパーゲ侯爵の依頼だな」
「そうですね。瓶三本でしたね。さっそくやってしまいましょう」
泉を囲むようにしゃがみ込み、持ってきた小瓶に泉の水を詰める三人。
ダリオが、ビンに魔法で封印を施し、丁寧にしまう。
そして、三人は、ふう、と息を吐いた。
「いよいよですね」
「よっしゃ! ハゲともこれでおさらばだ!」
「感無量だな」
金色に光る泉の水を前に、ごくりと唾をのみ込む三人。
レンは二人を見た。
「誰からいく?」
「それはもちろん、リーダーであるレンからでしょう」
「そうだな! やっぱレンからだろ!」
ありがとうな、と、言いながら、レンは感動で目を潤ませた。
こいつら本当にいい奴らだ。
そして、彼が頭に泉の水をかけるために、頭のバンダナを外そうとした、――その時。
突然、
ファ~
という柔らかい効果音と共に、空を覆っていた分厚い雲が、パカ~っと割れた。
「な、なんだ!」
「何か来るのか!?」
後ろに飛びのいて警戒する三人。
すると、雲のすき間から太陽の光と共に、ギリシャ神話に出てきそうな衣装を着た金髪碧眼の美女が現れた。
空にぷかぷかと浮かぶ女性を、呆気にとられて見つめる三人。
女性はにっこり笑うと、優し気な声で言った。
『勇者レン・クドウ。よくぞこの世界の災いの種である魔王を倒しました』
え、と固まるレン。
「お、お前! 勇者だったのか!?」
驚愕するダリオに、レンがブンブンと首を横に振った。
「いやいや、そんな馬鹿な! 何度も鑑定してもらったけど、『勇者』だなんて一度も言われたことないぞ」
エリアスが、小声で尋ねた。
「もしかして、鑑定してもらったのって、ギルドでだけですか?」
「あ、ああ」
「だったら分からなかったかもしれません。勇者は特殊職業ですから、ギルドにいる鑑定士くらいでは見えないかと」
「え! マジで!? 俺、神の啓示的なのとか全然なくて、ずっと放置されてたんだけど!」
愕然とするレンを他所に、女性はダリオとエリアスに微笑みかけた。
『あなた達、よくぞ勇者を支えてくれました。神殿を通して、あなた達の活躍を伝えておきましょう』
状況に付いて行けず、「は、はあ。どうも」と、気の抜けたような反応をする二人。
女性はそんな二人から笑顔のまま視線を外すと、レンを見て、優しく微笑んだ。
『さあ、勇者レン・クドウ。元の世界に帰る時間です』
「……は!?」
その瞬間、レンの足元に魔法陣が浮かび上がった。
足が、まばゆい光に吸い込まれていく。
レンが必死に叫んだ。
「え! ちょ、まっ! まだハゲが! せめてエリクサーを使ってからに!」
『さあ、おかえりなさい! 元の世界があなたを待っています!』
「全然人の話聞かねーよ! この女!」
ずぶずぶと底なし沼に沈んでいくがごとく、まばゆい光に沈んでいくレン。
エリアスとダリオがレンの両腕に飛びついた。
「ダリオ! エリアス!」
ダリオが、力いっぱいレンの腕を引っ張った。
「引き上げるぞ! 俺たちは同士だ! 毛が生える時は一緒だ!」
「そうです! 自分達だけ毛が生えるなんて許されません!」
「お、お前ら……」
改めて友情を確認し合う三人。
しかし、沈むスピードは遅くなったものの、レンを引っ張り出すことは出来ない。
このままではジリ貧だ。
ダリオが唇を噛むと、エリアスに怒鳴った。
「ちょっとの間、耐えてくれ!」
そして、レンから手を離すと、頭のバンダナをはぎ取った。
「な、なにを!」
泉に走るダリオ。
バンダナごと腕を泉の中に突っ込み、思い切りじゃぶじゃぶする。
そして、もうエリアスの支えている腕と顔くらいしか出ていないレンの元に走り寄ると、泉の水で濡れたバンダナで、レンの不毛地帯をこすった。
「こ、これで何とか!」
頭に水気を感じ、二人に感謝の目を向けるレン。
そして、光がどんどん強くなり……。
気が付くと。
レンはどこにもいなかった。
あと2話です。