10.全部まるっと無駄になりましたけど
本日1話目です。
「着きましたね」
「ああ、意外とスムーズだったな」
「だな! 俺ら、実は強えーからな!」
坑道から出て、数時間後。
三人は、魔王城であったとされる塔を見上げていた。
エリクサーで毛根復活すると確信した三人は、一気にパワーアップした。
襲ってくる毛が生えたゴブリンやオークの上位種を物ともせず、ばっさばっさと倒し、あっという間に塔の前に到着。
正に破竹の勢いである。
このままの勢いで塔を攻略したいところではあったが、塔から漂ってくる気配に、彼らは慎重になった。
「五階層ってとこか。かなりの数の魔獣が集まっているな」
「ええ。各階層に百匹以上はいそうですね」
「しかも相当強えーな。こりゃ坑道ダンジョンよりも難易度は上だな」
塔の高さは、およそ三十メートル。十階建てのマンションくらい。
勇者パーティが遺した書物によると、各フロアに大きな穴のような階段があり、そこから上にあがっていくらしい。
塔が魔獣の根城になっていることは想定していたが、この数は想定外だ。
レンが二人を振り返った。
「とりあえず、休憩しよう。興奮状態で気が付いていないけど、きっと俺たちは疲れている」
「んだな。結界張って休むか」
「そうしましょう。向こうに川がありますから、そこでどうですか?」
塔から離れて、川のほとりに移動する三人。
ダリオが一帯に結界を張り、レンが火を熾し、エリアスが食べ物を探す。
そして、三人はエリアスが採ってきた果物を食べながら、作戦会議を始めた。
ダリオが真剣な顔で口を開いた。
「七日とみてた訳だが、ぶっちゃけ、塔の攻略、どのくらいかかると思う?」
「そうですね。七日では無理でしょうね。あの数の魔獣を倒していくとなると消耗が激しいでしょうから、最低十日はかかるでしょうね」
「んだな。邪竜退治も含めて、二週間ってとこか」
「そうですね……。どう思います? レン?」
腕を組みながら難しい顔で黙り込むレン。
このまま進んでも、途中でポーションや矢などの物資が尽きる可能性が高い。
一旦街に戻って、再度準備をして臨むべきだろう。
(でも、それは果たして正解なんだろうか)
オークやゴブリンの頭が、やたらフサフサしているのだ。
このまま放っておいたら、泉の水が彼らに使い切られてしまうのではないだろうか。
彼は焦っていた。
一刻も早く泉を保護したい。
(何か良い方法はないか)
必死に知恵を絞るレン。
そして、数分後。
彼は閃いた。
(よし! これだっ!)
レンは顔を上げると、真剣な目で二人を見た。
「試してみたい作戦がある。やってみないか?」
*
翌日昼前。
ダレンとエリアスが、感心したように会話をしていた。
「凄いな、この作戦」
「ええ。我々では絶対に考え付かない方法です。異世界知識の勝利ですね」
最上部を除く塔全体を覆う、ダレンの巨大結界。
塔の一階では、運び込まれた大量の木々が轟轟と音を立てて燃えている。
塔の大きな窓から、結界で阻まれて行き場のない大量の煙が、上に上にと上がっているのが見える。
しばらくすると、ゲホゲホと煙にむせたキングオーク達が、唯一開いている一階の出口から飛び出してきた。
ザシュッ ザシュッ
待ち構えていたレンが、キングオーク達を不意打ち。一刀両断する。
後ろで、「おー、すばらしい」と、ぱちぱちと拍手をするダレンとエリアス。
ダレンがボソッと言った。
「……こんなこと言うのもナンだが、ちょっと気の毒だな。俺たちを迎え撃つために、あいつら結構準備してたっぽいよな」
「ええ。待ち伏せしていたような気配もありましたから、皆さん、手ぐすねを引いて待っていたと思いますよ。罠とかも作ってたんじゃないですかね。全部まるっと無駄になりましたけど」
「出てくる奴ら、みんな、ちょっと怒ってるよな」
「ええ。『お前ら正面から正々堂々と来いよ!』みたいな顔をしている気がしますね」
そんなことなど気にせず、遠慮なく魔獣達を倒していくレン。
そして、数時間後。
空中庭園部分に残る巨大な何か以外の気配が消え。
レンは、カキン、と、刀を収めた。
「ふう。終わったな」
「お疲れ様です。レン。お見事でした」
「結界を解くから、ちょっと離れようぜ」
三人は再び川のほとりに移動。
ダレンが結界を解くと、ポンッ! と音がして、周囲に煙が充満する。
レンが気配を探った。
「あと残ってるのは、空中庭園にいるヤツだけだな」
「ええ。あれがきっと邪竜ですね」
「思った以上に強そうだけど、まあ、行けんだろ。こっちはほとんど消耗してないし、弱点の聖水も売るほどあるしな」
レンの心は高揚した。
遂に念願のエリクサーが手に入る!
その後、三人は念のため休憩。
翌朝早朝、意気揚々と邪竜を倒すべく塔に向かった。
「行くぜ!」
「おー!」
「行きましょう!」
希望に満ち溢れた三人。
――しかし、数時間後。
彼らは塔の上部で意外なものを見つけることになる。
「あれ? これって……邪竜じゃね?」
「黒い竜は邪竜しかいませんから、間違いなく邪竜ですね」
「……なんで死んでるんだ?」
「え? じゃあ、空中庭園にいるのは何?」
冒険はクライマックスを迎える。