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事件の真相と結末

「犯人は、あなただ」


 鷹山に指を差されたのは、


「わ、私ですかっ!?」


 彩香だった。


「そ、そんなっ!」


「なんで彩香がっ!」


「へっ!

俺は怪しいと思ってたぜ!」


「ああ、お嬢様……」


 犬山が悲しそうに肩を落とした。

 鷹山がその様子を横目に見ながら、彩香に向けた指を時任に移動させる。


「そして、あなたもです。

時任さん」


「……」


 鷹山に言われた時任は、黙って鷹山を見つめていた。


「「へ?」」


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ、探偵さん。

頭がこんがらがってきた。

分かりやすく説明してくれないか?」


 千恵と達也が首を傾げ、才蔵が頭を抑えて鷹山に説明を求めた。

 鷹山はそれに応じ、テーブルの椅子に腰を下ろした。


「簡単なことだったのです。

鍵を開けられる時任さんには隆三さんを殺害することが出来ず、隆三さんを殺害することが出来る状況下にあった彩香さんはドアの鍵を開けることが出来なかった。

ならば、2人が共謀すればいい。

それだけだったのですよ」


「で、でも、鍵は時任が持っていたんだろ?」


 尋ねる才蔵に鷹山は頷く。


「はい、持っておりましたとも。

すべての鍵を。

途中まではね」


「……」


 時任は黙って鷹山の話を聞いていた。

 彩香は青い顔をして俯いているようだった。


「時任さんは隆三さんの部屋の鍵だけを渡したんですよ。

彩香さんが自室に休みに行く時にね。

私も同行していましたが、私は先行するお二人に続いていた。

そっと鍵を渡すチャンスはいくらでもありました。

そして、その後、時任さんは私に鍵の束を掲げ、自分が鍵を持っていることをアピールした。

私が尋ねなければ、自分から話を振るつもりだったのでしょう。

その後の話しぶりが、ずいぶんと用意周到な答えだなとは思ってましたが」


 そこまで言うと、鷹山は自嘲気味に笑う。


「いや、まさか。

探偵である私を、鍵を持つのは自分だとアピールするための道具に使うとはね。

あの状況で、わざわざ鍵の本数を数えたりもしないでしょうし。

まんまとやられましたよ」


「……」


 時任は表情ひとつ変えず、黙し続けていた。


「そして、時任さんから鍵を受け取った彩香さんは自室で休むフリをして、隆三さんの部屋に入り、眠る隆三さんを殺害した。

そして、凶器と手袋を隠し、再びドアに鍵をかけて、自室に戻ったのです」


「そ、それなら、その凶器とかはどこに隠したんだよ!

調べても、誰も持ってなかっただろ!?」


 達也の質問に、鷹山は大広間の入口に目線を送った。


「さっむっ!

寒すぎますよ!

鷹山さぁ~ん」


 すると、小林が自分の腕をさすりながら大広間に入ってきた。

 その肩には雪が積もっていた。


「ご苦労様です。

それで?

見つかりましたか?」


 鷹山に言われ、小林は得意気に右手を上に掲げた。


「はい!

ありましたよ!

雪に埋もれてましたけど、鷹山さんが言った場所に置いてありました!」


「そ、それは……」


 小林の手には、血のついたナイフと手袋が入ったビニール袋が握られていた。


「……あ、あ」


「……」


 そこでようやく、時任と彩香の顔色が変わった。


「これは、隆三さんのお部屋の、窓の真下にありました。

すべては、この凶器を隠すためだったわけですね」


「どういうことだ?

鷹山」


 眉間に皺を寄せる高柳に、鷹山が答える形で話が進んでいく。


「そもそも、なぜ密室にしたか?

それは、屋敷の外に目を向けさせないようにするため、というのと、彩香さんが疑われないようにするためです。

密室でなければ、彩香さんが真っ先に疑われてしまいますからね。

それと、部屋を包んでいた冷気ですが、あれは彩香さんが隆三さんを殺害し、凶器を窓から捨てたあと、窓を開けたまま部屋を出て、鍵をかけたからです」


「なぜそんなことを?」


「おそらく、隆三さんの殺害時間を少しでも狂わせたかったのと、遺体発見時に、窓に目を向けさせ、密室であることを印象付けたかったのでしょう。

隆三さんが殺されたのは、瞳孔の収縮具合や硬直具合からも、遺体発見の1時間ほど前で間違いはないのでしょうが、彼らは彩香さんが2階に上がる前に殺害されたことにしたかったのでしょう。

そうすれば、彩香さんが隆三さんを殺害するのは、文字通り不可能になる。

まあ、実際は1時間やそこら遺体を冷やした所では、たいして誤魔化せはしないですがね。

殺害後、1時間ほど待ったのは、隆三さんの体を凍てつかせるのと、凶器に雪が積もるのを待つため。

今日の豪雪だと、1時間で30cmは積もるでしょうからね」


 鷹山にそう指摘され、彩香がギクリと肩を揺らした。


「ん?

それだと、窓はいつ閉めたんだ?」


「それは、時任さんと彩香さんが隆三さんを起こしに行った時ですよ。

彩香さんは鍵を開けて入室し、窓を閉めて、時任さんに鍵を渡してから、悲鳴を上げたんです。

捨てた凶器に雪が積もって隠れているか、確認もしたかったでしょうしね。

この大雪では窓の下の地面までは見えにくいですが、さっと見て凶器がすぐに見つからない程度なら、あとは時間が凶器を隠してくれますから」


「だが、いずれは見つかるだろ?」


「それはどうでしょう。

部屋が密室なら、警察はまず部屋と屋敷と、住人を調べる。

それで何も出なければ外を調べたりもするでしょうが、その頃には凶器はとっくに深い深い雪の底。

おそらく、凶器が見つかるのは雪解け後でしょう。

さすがにそれだけ時間があれば、警察が引き上げてから凶器を回収し、処分する余裕は十分にあるはずです」


「なるほどな」


「……」


 鷹山は黙っている時任と、青い顔を隠そうともしなくなった彩香を見つめた。


「こんな所ですが、何か、反論はありますか?」


「……いいえ、ありません」


 素直に犯行を認めた時任に、彩香もガクッと項垂れた。


「なんで!

なんでパパをっ!」


 彩香につかみかかろうとする千恵を、小林が抑える。


「……旦那様は、彩香お嬢様を娶るおつもりだったのです」


「はっ!?」


「娘だろっ!?」


「彩香さんは、たしか後妻の連れ子でしたな」


 時任は鷹山の言葉に頷き、話を進める。


「旦那様は彩香お嬢様を愛しておりました。

初めは、娘として慈しんでおられるのかと思っておりましたが、ある日、犬山さんと旦那様が話しておられるのを聞いたのです。


『いずれ、彩香を自分のものにしたい。

多少、無理やりでも構わない』


と。

それで、私はいてもたってもいられず、彩香お嬢様にそのお話をしました」


「……私も、初めは信じられませんでした」


 時任の言葉を継いで、彩香が語りだす。


「でも、一度そう思ってしまうと、なんだか、お父様の言動のすべてがそう感じられてしまって……」


「……ああ、なんてことだ」


「……犬山?」


 2人の話を聞いていた犬山が崩れ落ちる。


「時任は思い違いをしている」


「え?」


「あれは、彩香お嬢様を本当の自分の娘として認知したい、という意味だったのです」


「……え?」


「……犬山さん、それな、彩香さんは隆三さんの実の娘だった、ということですかな?」


「……はい」


「……うそ」


 頷く犬山に、彩香は青白い顔をさらに青くした。


「旦那様は、若い頃にある女性との間に子をもうけましたが、紆余曲折を経て離別なされた。

旦那様はそれをひどく後悔されていたそうです。

そして、最初の奥様と離婚したあとに、偶然にも再び、その女性と再開したのです。

旦那様はたいそう喜び、その女性と再婚しました。

それが、彩香お嬢様のお母様です。

つまり、旦那様と彩香お嬢様は血の繋がった、正真正銘の親子だったのです」


「そ、そんな……」


「ですが、いきなりそれを伝えては、ただでさえお体の弱いお嬢様にショックを与えてしまうだろうとタイミングを窺っていた所で、奥様がお亡くなりになり、旦那様は告白するタイミングを完全に失ってしまったのです。

それでも、いつかはと思って、わたくしと話をしていたのですが……。

ああ、旦那様……」


 犬山は床に膝をつき、悲しそうに嘆くと、床に涙をこぼした。


「だ、だからあの時……」


「あの時、というのは?」


 目を真ん丸にして驚いている彩香に、鷹山が尋ねる。


「……実は、お父様をナイフで刺した時、お父様はすぐには死ななかったのです」


 鷹山が高柳を見ると、


「ほぼ、即死だって言っただろ。

ほんの数秒だ」


 と、気まずそうに頬をかいていた。


「それで、初めは抵抗しようとして、私は慌ててお父様の口をふさいだのですが、お父様は私だと分かると抵抗するのをやめて、私の手を包み、ナイフを自ら押したのです……」


「……旦那様は、彩香お嬢様に恨まれているのだと思い、それを受け入れたのでしょう。

旦那様は、本当にお嬢様のことを慈しんでおられましたから」


 犬山は流れる涙を拭うこともせずに、遠くを見つめていた。


「わ、私は、なんということを……」


「……お、父、様……っ!」



 そして、悲嘆に暮れる2人は、高柳と小林によって逮捕されることとなった。





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