画面の中の話
解答編です。
3話続けてどうぞ。
電気がつけられると、暗かった部屋が明るくなり、スクリーンが上に上がっていく。
カーテンが開かれると、さらに教室の明るさが増す。
「え~、以上が問題編ですね~。
あ、ちなみに、こちらは過去に私が実際に体験した事件を再現したものですが、状況は完全に再現されています。
1ヵ所だけ違いがあるとすれば、このVTRで私が1つだけ嘘をついている、ということです。
それがどれなのか、そして、犯人は誰か。
さらには凶器の行方や、なぜ密室にしたか、どうやって密室にしたかについても分かると完璧ですね」
壇上に立つ鷹山が無精髭をいじりながら、映像を見ていた生徒たちを見回す。
「はいはいはい!
犯人は時任!
だって、鍵を持ってたのは時任だけだから!」
男子生徒の1人が元気良く手を挙げて答える。
「ふむふむ。
ですが、彼はトイレにも行かず、事件発覚までずっと大広間にいましたね。
いつ、どうやって、被害者を殺害したのでしょう?」
「えっと、それは~……」
男子生徒は両手の人差し指を合わせて、もじもじとしてみせた。
「ったく、直感で言うんじゃないわよ!
はい先生!
犯人は才蔵よ!
社長として自分の上にいる隆三が邪魔になったのよ!」
先ほどの男子生徒に文句を言いながら、1人の女子生徒がはきはきと答える。
「ふむ。
動機から入るのも大事な捜査方法の1つですね。
では、彼はどうやって鍵を開けたのでしょうか?」
「え?
えっと~……」
その女子生徒もまた、鷹山に突っ込まれると、どもってしまった。
「はい先生」
「はい、どうぞ」
そして、メガネをかけた男子生徒が静かに手を挙げた。
「犯人は彩香さんです。
彼女は隆三と同じように大広間を離れていた時間が長い。
彼を殺害する時間は十分にあった」
「ふむ。
鍵はどうしたのでしょう?」
メガネの生徒はメガネをくいっと直しながら、どや顔で答える。
「被害者自身に開けさせ、そして、閉めさせたとしたら、どうでしょうか?」
「ほう」
鷹山が感心したような顔をすると、メガネの生徒はますますどや顔に拍車がかかった。
「彩香さんは被害者と親しかった。
怪しまれずにドアを開けさせることが出来たでしょう。
しかし、ドアを開けた彼は彩香さんに刺された。
いきなり刺された被害者は恐怖し、さらに襲い掛かる彼女から逃げるためにドアを閉め、鍵をかけた。
しかし、刺されたキズは深く、出血多量で死に至った」
周りの、おおー!という声で、メガネの生徒はますます鼻高々といった調子だった。
「なかなか良い推理でした。
ですが、高柳さんは、被害者はほぼ即死だと言っていましたね」
「あ」
「さらに、凶器の行方や、ドア付近で刺した際の血の処理についてはどうお考えでしょうか?
それに、刺されたあとにドアを閉めるほどの元気があれば、悲鳴のひとつもあげられたのでは?」
「う~ん」
「それに、私はどこで嘘を言っていたのでしょうか?」
「え~と」
メガネの生徒は腕を組んで考え込んでしまった。
「だいたい!
なんで嘘なんてつくんだよ!」
そのやり取りを見ていた生徒の1人が立ち上がって、鷹山に文句を言ってきた。
それに乗じて、他の生徒たちもそうだそうだと野次を飛ばしてきた。
鷹山はそれに、はぁとため息をつき、口を開いた。
「いいですか。
人は基本的に嘘をつく生き物です。
実際、この事件も嘘や誤解が原因で起きたものです。
探偵たる者、人の気持ちの機微には敏感でなければなりません」
「う~ん、理屈は分かるけどさ~」
生徒たちはまだ不満げだった。
「それに、それぐらい凝らないと、優秀な生徒であるあなたたちはすぐに事件の謎を解いてしまうでしょう?」
「ま、まあね!」
鷹山に褒められ、生徒たちは皆一様に嬉しそうにしていた。
「ふふ。
では、VTRの続きを見てみましょう」
鷹山はその様子に微笑みながら、再びスクリーンを下ろした。