オープニング
家紋武範様主催『知略企画』参加作品です。
読者への挑戦というわけではないですが、1話~3話が問題編。
それ以降が解答編となっています。
また、問題編において、主人公の探偵鷹山が、ひとつだけ嘘をついています。
良かったら、3話まで読んだ時点で、謎やトリック、鷹山の嘘について考えてみてください。
鷹山が嘘をついた理由も、一応、後半で説明されてます。
また、解答編は1月16日(日)に更新します。
あと、ちゃんとした推理小説を初めて書いたので、お手柔らかにお願いします。
それでは、鷹山劇場をお楽しみください。
数々の難事件を瞬く間に解決し、全国にその名を轟かせた探偵がいた。
彼の実力は国に認められ、『日本一の探偵』として称賛される一方で、裏では主に警察から、不名誉な称号で呼ばれていた。
『日本一事件に巻き込まれるめんどくさい探偵』
と。
「やれやれ、何もこんな遠方の雪山に屋敷を建てなくても良いのに」
探偵、鷹山揺。
年齢は35。
中肉中背で、少しだけ伸びたボサボサ頭と無精髭をニット帽とマフラーで隠し、紺のスーツの上に着たコートを寒そうに締め直した。
「おい!
鷹山!
本当にこっちで合ってるんだろうな!」
「え?
たぶんおそらく合ってると思いますよ。
たぶん」
「探偵がたぶんとかおそらくとか言うな!」
鷹山に怒鳴っているのは刑事、高柳。
年齢は40。
ガタイが良く、叩き上げで警部になった優秀な男。
だが、そんな鍛え上げられた肉体も寒さの前には歯が立たず、コートも着ていないスーツ姿で寒さに震えていた。
「まあまあ、高柳さん。
きっともうすぐ見えてきますよ」
「うるさい!小林!
だいたい、なんでおまえはそんなぬくぬくした格好してるんだ!」
怒る高柳をなだめるのは、高柳の後輩で、同じく刑事の小林。
24歳。
大学を出て、国家公務員試験一種に受かった、いわゆるキャリア組。
階級は警部補。
今は経験を積むために、高柳の下について行動をともにしている。
一応、武道の経験はあるが、細身で逃げ腰のため、だいたいいつも高柳が犯人を確保している。
そして、小林は……、
「あ、それは、小林さんには行き先をお伝えしていたからですよ」
「なんで俺にはお伝えしてないんだよ!」
「え?
小林さんには、高柳さんにもお伝えするように言っておきましたよ?」
「はっ?」
「……忘れてました。
てへっ」
「小林っ!
てめっ!」
少々、性根が腐っていた。
3人は豪雪の雪山をひたすらに歩いていた。
途中、あまりの積雪に車が動けなくなり、仕方なく3人は徒歩で、依頼人の館を目指すことにしたのであった。
「あ!ほら!
見えてきましたよ!
あれじゃないですか!」
小林が高柳にヘッドロックされながら、遠くに明かりを見つけた。
「ふむ、窓越しと思われる、複数のぼやけたオレンジ色の明かり。
間違いはなさそうですね」
鷹山がマフラーで隠れた無精髭に手をやりながら呟く。
どうやら、これは彼の癖のようだ。
「さて、今回は何人死ぬのかね」
高柳が嫌そうな顔でぼやく。
「高柳さん、そんな縁起でもない」
鷹山が困ったような表情を見せるが、高柳はふんと鼻をならす。
「おまえが依頼で出向くと、だいたい何らかの事件が起こるからな。
そのために、俺たちは同行してるんだ。
どうせ、今回も何か起こるんだろうよ」
「まあまあ、高柳さん。
鷹山さんはその起きた事件をいっつも解決してるじゃないですか」
「……小林さん。
しかしそれには問題があるのです」
「な、なんでしょう」
鷹山が急に真剣な顔をしたため、小林は思わず息を飲んだ。
「突発的に発生した事件を解決しても、私には一銭も入らないのです!」
「……はぁ」
「これは大変由々しき事態なのですよ!
私が赴くところで事件が起きる。
そして、私はそれを瞬く間に解決する。
しかし、それは依頼を受けた事件ではないため、誰も依頼料を支払ってはくれない!
完全にただのボランティアです!
しかも、依頼をいただいて赴いても、その依頼人がすでに死んでいて、事件を解決しても、誰も私にお金を払ってくれないなんてこともしばしば!
おかげで、我が事務所は常に赤字!
常時火の車なのです!」
「そ、それは災難ですね」
鷹山の熱弁に、小林はそう返すのでやっとだった。
「ま、こちとら犯人を逮捕するだけでいいから楽でいいけどな」
「そう!
しかも警察は捜査協力しても、一銭もくれないのですよ!」
「いつもご協力あざーす」
「泣いてやる!」
「……はは、お二人とも元気ですね」
そんな会話を繰り広げながら、3人は今回の依頼主の洋館へと足を踏み入れるのだった。