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草津の湯

作者: 小野 大地

私小説です。てきとーに読んでください(笑)

そもそも草津への旅に出ようと思ったきっかけは、精神的にリフレッシュしたかったからです。

自分は大学生であり、社会人のようにストレスを受けることもありません。だから身体に疲れなどあるはずもないのですが、なぜか精神的なストレス、不具合を感じていました。この原因を知る為にはまず「精神的」の定義をはっきりする必要があると思います。ただ、自分でもその意味する所が定かではないのです。感覚的、雰囲気的にと言い換えてもいいのですが、その場合なおさら伝わらなくなるでしょう。

こう考えてくると、不図自分は何かにつけて考え過ぎなのではないかと思えてきました。ストレスなど最初から受けておらず、自虐的に自滅しているだけなのではないか。そう思えてきました。

結局、ストレスがあるのかないのか本当の所は分かりませんが、いずれにせよ苦悩しているのは確かです。そのことも含めてリフレッシュする為に、この旅に出たのです。

そんなこんなで始まった草津への旅でしたが、しょっぱなから苦労を強いられました。

自分はこの旅に一人で来ていました。旅は一人でと決めているのです。一人旅のどこがいいんだと思われるかもしれませんが、自分はむしろ複数人で行って本当に楽しいのかと思ってしまいます。複数人で行く「旅行」はあくまで「旅行」であって「旅」ではないのです。いつもとは違う人と見慣れない場所で、新しいことをし初めての感情を抱く。それが旅の醍醐味であります。なので、そういった「旅行」は意味がないと考えます。

とは言うものの、今さんざん旅行をけなしましたが、実は自分はその旅行も好きです。今まで何気なく過ごしていた人たちの新しい一面を知ることができますし、なによりバカンスは楽しんでなんぼですもんね。ただ、自分の書きたいテーマは旅であるので、旅行は他の機会に譲ることとします。

さて、一人で旅に出た自分でありましたが、やはり寂しかったです。行きのバスで近くに5人組の同年代がいたのですが、彼らの楽しそうな会話を聞いて、ひどく落ち込みました。

旅や温泉旅行と聞くと何か有意義な感じがしますが、今回の旅はじめじめしたスタートだったのです。これからその暗い話を書いて行きますが、途中である素晴らしいことが起きるので、どうかそこまで辛抱していただきたいです。




周りにいた同年代の5人組に気落ちさせられた。マスクをしていた為に口元は見えなかったが、それによってかえって耳が研ぎ澄まされ会話に聞き入ってしまった。とても楽しそうに話している。恋人がいないから一人で来たというのに、自分には男友達もいないということを思い知った。自分は強く落ち込んだ。うなだれた目でスマホの四角い画面をのぞく。とても不気味だった。映る顔には血の気がなく、マスクをしている姿がまるで病人のようだった。その画をかき消すべく、検索窓にしがみつく。そして、「孤独」と打ち込んだ。

孤独と検索したら、画面に、「孤独が君を強くする」という名言めいた言葉が見えた。素早くスクロールする。余計なお世話だと思った。他の検索結果を見ても、月並みなことしか書かれていない。そもそも孤独という感情的なものを、理性的なコンピューターに求めたのが間違いだったのかもしれない。電源を切ってカバンに投げ込んだ。

バスは揺れる。まるで1舟のボートのように。自分は完全に、人生の航路に迷っていた。冷えきった海上でただ一人ぽつんとしていた。やまない嵐はない、そう知ってはいても、信じることはできなかった。この方がコロナからは守られるかもしれないが、いっそのことコロナになってでも誰かに会いたいと思っていた。それほど寂しかった。膝を抱えて耳をふさいだ。しばらくして眠りに落ちた。

どれぐらい眠っていたのだろう。変なにおいで目が覚めた。なんだこの匂いは。卵のような。よく理科の実験で、腐乱臭がするぞ気をつけろと言うが、まさにこのことだと思った。非常に臭い。一方で、温かいぬくもりも感じる。そう、ついに草津温泉に着いたのだ。

バスから降りると、人のいない方へ急ぐ。自分は相当気が萎えていたのだ。人混みになど行きたくない。人通りの少ない道少ない道を選んで進んだ。自分は一人で歩いていた。腐乱臭に文句を言うダチもおらず、意外と寒い標高に肌を寄せ合う恋人もいない。仕舞には、なんで草津なんかに来てしまったのだと自分を責め出した。これならネットカフェに行った方がまだましだった。結局俺はどこで何をしたってストレスを抱えるんだよ。それなのに柄にもなくリフレッシュなんて言うからダメなんだ。そうぶつぶつ言いながら歩いた。自分の足音だけが、不機嫌に鳴り響いていた。

しばらく歩くと人の声が聞こえてきた。その時の気持ちは、嬉しさがあった。人に会いたくないと言っていたが、いざ会ってみると懐かしく感じた。マスクをした動物の群れに、喜んで合流する。うきうきし始めた。その群れからは、硫黄分を含んだ湯気の香りが漂っていた。草津のにおいだ。ようやく草津に来た気がした。わくわくした。好きなアイドルの追っかけをするように、群れについて行った。しかし、間もなく裏切られることになった。

西の河原という所に向かっていたのだが、そこは男女混浴だったのだ。即座に踵を返す。好きなアイドルのライブが当日キャンセルでおっさんの弾き語りに変わったかのような気持ちになった。自分は絶望した。人生における唯一の楽しみを失い、生きる意味がなくなった。自分はやっぱりこういう人間なんだ。ちっぽけで醜い人間なんだ。光り輝いているのはあくまで理想であって、現実はどこまでも暗い。自分は、現実という名の落とし穴にまんまとかかっていた。




草津には有名な温泉が3つあり、西の河原温泉はその名の通り西にある。残りの2つは御座之湯と大滝乃湯で、御座之湯は湯畑と共に草津の中心で栄え、大滝乃湯は対称するように東に位置する。旅館や商店もそれに付随するので、草津は東西方向に活気があると言える。また、南は平地なのでそれなりに賑わっている。一方の北は、山が迫っていることもあり、ひっそりとしている。

自分は静かに一人でいたかったので、北側の道に少し入った。するとその時、飛沫とび放題の大きな声が聞こえてきた。しかし、その声はどこか魅力的だった。

「いらっしゃいませ~ できたてのおんせんまんじゅうはいかがですか~ ほっかほかですよ~」頭巾をかぶった女性が温泉まんじゅうを売っている。こんな所では売れないだろうと思った。馬鹿にするように聞いてみる。

「あのー、こんな所じゃ誰も来ないと思うんですけど、なんでここで売ってるんですか?」失礼なのは分かっているが、自分の言ったことは正論であると勝ち誇っていた。

「え? だって、ありきたりな場所で売っていてもつまらないじゃないですか」商売が下手なんじゃないかと思った。しかし、彼女の様子は本気だった。

「それに、群れるのが嫌なんです。自分らしく生きたいんです」これを聞いて自分ははっとした。自分は群れること、みんなと同じことをすることが善だと思っていた。でもそうではなくて、一人ぼっちで孤独でも、自分の信じた道を突き進むことが大切なんだ。強くそう感じた。

「あのー、なんかありがとうございます」

「え? 私何かすごいこと言いましたか?」

「いや、そうじゃなくて、ただ、ありがとうございます!」彼女には大切なことを教わっただけでなく、魅力も感じていた。色々な感情が複雑に絡まって、結局ありがとうとしか言えなかった。

「えっとー、よく分からないけど、まあよかったです! あのー、よかったらおまんじゅうを食べて行かれませんか?」以前の自分だったら有名店じゃなきゃ嫌だと思っただろうが、今はそんな腐った価値観などなくなっていた。即答して買うと、

「とってもおいしいです!」と伝えた。

「よかった! この後はどこかへ行くんですか? 西の河原温泉という所がオススメですよ」

「あぁ、そうですか・・・」西の河原の話が出て、つい口ごもってしまった。しかし、今の自分なら大丈夫だ。恋人がいなくて周囲から浮いていたとしても、気にしなくていいんだ! それに、心の中には・・・ いや、ダメだ! この方とはまだ会ったばかりだし、草津からももうじき帰らなくちゃならないんだ!

何やら考え込んでいるのを見ると彼女は、

「どうしたんですか? おまんじゅうに何か変なものが入っていましたか? すみません!」と言った。

「いや、そうじゃないんです。自分は・・・ただ・・・、西の河原に行ってきます!」そうして、逃げるように西へ向かった。

カップルが何組もいる温泉の中で、自分は彼女のことを考えていた。




自分は、極端で気性が荒くて浮き沈みの激しい性格なのかもしれない。行きのバスでのちょっとした出来事で気を落としたかと思えば、かわいい女に出会って気分がハイになる。精神的に病弱で気が短いのかと思いきや、情熱的に一目惚れしたりする。自分はそういった、極端で荒くて激しい人間なのかもしれない。ただしかしでも、そんな自分を受け入れることが必要なんじゃないか。極端でも、その分メリハリの効いた生活をすればいいではないか。一生作品を書かなければならないわけではない。それに、気性が荒くてもその分インスピレーションを生かせばいいし、浮き沈みが激しいなら激しい分だけ人生をかけた大作を書けるかもしれないじゃん。たしかに、そんな風に上手く行くわけないかもしれない。やっぱり、短所はどこまでも短所であって、短い剣は永遠に長い剣よりザコいのかもしれない。けれどもそうではなくて、短い剣でも振り方次第でいくらでも戦えるのだ。弱くても勝てるは事実なのだ。

自分はこの旅を通して強くなった。孤独が自分を強くしたのだ。


読んでくれてありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 文末が統一されていたり、誤字脱字がなかったり丁寧に書かれたんだなと思いました。 [気になる点] しょっぱなから強いられた苦労は、近くにいた5人組の同世代の楽しそうな会話を聞いたこと?西の河…
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