チュートリアル 8
透明な蝶の群れが中庭で舞っている。
とても幻想的で、素敵だわ。
その中心にはノエルお兄様がいらして、指揮をするように手を広げている。
リオンはその光景を食い入る様に見つめている。微動だにせずに。
あの蝶達は水で出来ているの。
ノエルお兄様が魔力調整の鍛錬の為作った魔法。
この世界の魔法は、そんなに多くはない。
治癒魔法、浄化魔法、地魔法、水魔法、火魔法、風魔法、氷魔法の七種類。
各魔法にはランク1、ランク2といった感じでランクが定められてはいるけれど、これは魔法の効果範囲を決める目安のようなものなの。ランク1は対象一体、ランク2は複数体、ランクが上がるにつれて範囲が広がっていくのよ。
例外は浄化魔法ね。
ランク1は対象一体の汚れを綺麗にする。お風呂に入ってサッパリした感じが近いわね。
ランク2は指定範囲内の汚れを綺麗にする。範囲は使用者の魔力しだいね。
ランク3は対象一体の解毒。
ランク4は指定範囲内の解毒。毒ガスが発生している場所で活動可能にする。ただし、魔力の続く限り。これはあまりお勧め出来ないわ。傍から見たらドーム状のバリアに見えるかもしれないけれど、実際には範囲内の空間を浄化し続けているだけだもの。使用者はすぐへばるわ。
ランク5はアンデッドの浄化。
ランク6は指定範囲内のアンデッドの浄化。
全ての魔法の威力は魔力調整の能力で決まるわ。この世界には魔法の源になる大きな力が眠っていて、そこに自分の魔力で干渉して力を引き出して魔法を使うの。この魔法の源に干渉してコントロールすることを魔力調整といって、これがうまい人ほど効率よく強力な魔法が使えるのよ。
ところで今ノエルお兄様がやっている鍛錬だけど……。
水魔法を使って蝶をイメージしたものを複数創り出した上、風魔法で飛行させ、それぞれに別の動きをさせている。
この世界では複数の魔法を組み合わせて使用するのが一般的なのだけれども、お兄様の場合規模が違いすぎるわね。魔法の源に干渉し続ける間、魔力は少しずつ消耗されていくの。お兄様でなければ、とっくに気を失っているわよこの魔法。
この規模の魔法を使うなら、そうね、リオンなら後二人くらいリオンが必要ね。
ノエルお兄様に触発されたらしいリオンの周りに、氷で出来たナイフとフォークが浮かんでる。
お腹空いたのかしら?
ワタシは人差し指の上でサイコロっぽい土の塊をみっつ、くるくる回しながら疑問に思っていたことを口にした。
「アンデッドって、なにかしら?」
アンデッド。スケルトンやゾンビが有名ね。ゲームなんかだと埋葬された死体が呪いによって甦り、生者を襲うモンスターよね?
さてここで問題です。死体の残らないこの世界で、アンデッドはどうやって生まれるのでしょうか?
ダンジョンで発生するモンスターの一種、スライム同様に、アンデッドという種族なのかしら?
「なにって、モンスターだろ?」
「何故そのモンスターが浄化魔法で倒せるのかしら?……まさかあいつ等汚物で出来ているの」
リオンは非常に嫌そうな顔をした。
「スケルトンは骨だろ?」
ふふっと笑う声に振り返ると、ノエルお兄様は悪戯を企む子供のような顔で、ワタシ達を見ていらした。
「君達、レイク・カーティスを知っているかい」