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門出のダンジョン 6


「ユーリ・ラピス!貴方に弁明を求める!」

「こちらへ出てきてもらおうか!」

「貴方には説明する責任がある!」


 宴も酣、ジンジャーエール片手にイチゴのチュロスを頬張っていたワタシは、危うく咽るところだった。

 見覚えのある先輩方がワタシを睨んでいるわ。

 

 ええと、卒業パーティーで断罪劇なんて起きないって言ったのは誰だったかしら?

 

 ため息をつくと、リオンに頭をはたかれる前に会場の中央に歩み出る。

 両手にジュースとお菓子を持っているせいで、いささか間の抜けた絵面だけれども……。


 ワタシを大音声で呼んだのは、錬金術師科の先輩方ね。クラウスのクラスメイトの。

 眼鏡をかけたきちりとした服装のひょろりとした青年たちが、桃色の髪の美少女ならぬ美青年を腕にぶら下げているわね。なかなかに勇気のある──。いえ、なんでもないわ。


「ユーリ・ラピス!貴方はこの国の第二王子だ。

 将来の側近候補として優秀なアルバートやクラウスがあなたの世話を焼かされていたのは、皆知っている。しかし、この件は当事者が納得してのことだそうだから責めはしない」


 何やらお説教が始まる気配がするのだけれども、背の高い先輩に抱えられたクラウスが藻掻いているのが気になって集中できないわね。

 まるで、子供に抱っこされた猫が脱出を試みているよう──。いえ、なんでもないわ。


「皆もクラウスが優れた錬金術師であることは知っているだろう。

 我々錬金術師科の生徒にとって、彼はライバルであると同時に憧れの対象でさえあった!」


 ……いいのかしら、先輩のライバル兼憧れの錬金術師見習いは、地面に足が届かなくて苦しんでいるわよ?

 ええ、これは恐らくアレね。強引にクラウスを連れてきた際に、悲しいかな身長差で──。いえ、なんでもないわ。


「だからこそ、この件は納得がいかない!

 この一年、彼が心血を注いで開発してきた素晴らしい技術、それらが、この国、いや、世界の発展にどれだけ貢献したか計り知れない。

 それなのに、何故、開発者として登録されていたクラウスの名が削除されたのかっ!」


 固唾をのんで皆が成り行きを見守っている。

 何故だかミケのフラスコを抱えたアルバートが、青い顔をしてオロオロしているけれども、これは、見なかったことにしましょうか。


「これは、貴方の指示なのかっ!

 そうでないのなら、何故、貴方はクラウスの名誉を守ろうとしな痛っ!」


 クラウスに思いきり向う脛を蹴とばされて涙目の先輩に、踵落としが決まる。

 先輩の腕を外すことを諦めたクラウスが、逆上がりの要領でするんと抜け出したのよ。

 着地のついでに残りの先輩方を蹴り倒したクラウスは、大袈裟に肩をすくめた。


「いや、自分の名誉は自分で守るよ、ボクは」


 流れるような動作でワタシからグラスを奪ったクラウスは、そのまま豪快にワタシのジンジャーエールを飲み干す。

 まあ、あれだけ藻掻いていたんだもの、喉も乾くわよね。

 

 さてと、先輩方はクラウスと違って頭脳労働専門の錬金術師だからちょっと心配ね。

 みたところ打撲のようだけれども、念のため検査に行った方がいいわね。

 何せ防御も受け身もとれずに倒れたんだもの。

 ええと、その、先輩方の名誉のために説明するけれど、戦闘技術は錬金術師科のカリキュラムに入ってないのよ。

 錬金術師には大きく分けて二種類のタイプがいるの。

 ダンジョンでの戦闘を一切行わない、所謂頭脳労働専門の錬金術師と、ダンジョンで戦闘を行う、戦闘タイプの錬金術師よ。さっきの先輩方は前者で、クラウスやカートさん、ダフィット陛下は後者ね。

 戦闘タイプの錬金術師を目指す生徒はもともと数が少ないから、個人で指導を受けるのが一般的よ。

 ちなみに、クラウスはトマス先生に師事していたわ。


 さてと、とりあえず応急処置は完了ね。

 ジョアンたちがテキパキと先輩方を担架に乗せて救護所に運んでいく。

 すっかり頼もしくなった級友たちを見送る横で、桃色の髪の錬金術師見習いがスピーチを始める。

 

「ボクはボクの意思で司書になったよ。

 ユーリはボクたちに何も命じてはいない。

 名前を削除したのは、ボクの名誉を守るため。

 詳しい事情を知りたいなら、ユーリじゃなくてボクに聞いてよ」

「それと、ボクは名誉が欲しくて錬金術師を目指したわけじゃないんだ。

 ボクはただ、皆の、母さんの助けになりたかった。ただ、それだけなんだ。

 そこは、誤解しないでくれると嬉しいな」

 にっこり笑うとクラウスは、顔の横でピコピコと振っていたイチゴのチュロスを豪快に齧った。


 ……………………。

 …………。

 ……。

 ふと、自分の手からチュロスが消えていることに気が付く。

 もしかしなくても、今クラウスが食べているの、ワタシのチュロスよね?

 イッタイイツノマニ──。

「さっき渡してただろ」

 いつの間にか隣にいた幼馴染の美青年はこれ見よがしに溜息をつくと、ワタシの頭をベシっとはたいた。


 

 

 





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