表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/83

チュートリアル 7

 金の刺繍と青いラインの入った純白のローブ。

 ラピス島の学園の制服だ。

 生徒達は講堂に集まり、黙祷をささげている。

 白い花々で埋め尽くされた祭壇の奥には、三色の宝石が安置されていた。

 しめやかに鳴り響く鐘の音に紛れて、誰かのすすり泣く声が聞こえた気がした。


 学園は暫くの間休校になった。

 探索実習中の生徒の死亡という知らせは、ラピス島内外へ大きな衝撃をもたらした。

 加えて、ダンジョンの変換期の可能性が出てきたとの報告もあり、島全体が重苦しい空気に包まれている。


 休校の間、ワタシは家に帰ることにした。学園にいても出来ることなんて、なにもないもの。


 久々の自分の部屋は、ひどくよそよそしい感じがする。それだけ、寮の生活に馴染んでいたのよね。

 制服のままベッドに寝転んでため息をつく。

 ワタシはふと、私の記憶を思い出した。


『気に入ってたキャラがストーリー進めたら、死んじゃったの』

『あぁ、俺もそのキャラ思い入れあったからきついわ』

『こういうのって、条件達成するとあとで生き返ったりするよね?』

『日本のゲームじゃ、よくあるパターンだよね』

『でも、このゲーム会社そういう展開ないよ』

『うわぁ、ツライ。生き返ってハッピーエンドな分岐欲しい』


 ここが、乙女ゲームの世界なら、生き返ってハッピーエンドでクレジットが流れるのかしら?

 ゲームの世界なら。

 バカバカしい。

 死んだ人は生き返らない。

 これは、現実よ。


「ユーリ、いるかい?」

 軽いノックの音とともに、懐かしい声が聞こえた。

 慌てて扉を開けると、ノエルお兄様が微笑んでいらした。

「午後からお休みを頂いたんだ。一緒にお茶にしよう」

 ケーキがあるよといって、お兄様はワタシを中庭に誘った。


 真っ白な長い髪に大きな碧の瞳。癖のないさらりとした髪からとんがった耳が飛び出している。

 中性的な美しい容姿なのに、残念ながらお兄様はあまり身形にかまわない方なの。

 長い髪は単に切り忘れているだけだし、ネイビーのローブは少しよれているわね。

 お茶を頂きながらノエルお兄様の近況に耳を傾ける。

 ダンジョンの変換期の可能性が出てきてからは、特に忙しいらしいわ。

 お兄様のペンダント型のアミュレットが、やさしい光を放っている。あれは、ノエルお兄様のお母様なのよ。第一王妃だった彼女は、お兄様を生んでまもなく亡くなったの。

 第一王妃様は亡くなると、淡い光に包まれて美しい紫の宝石へと、姿を変えたそう。


 この世界の人は、死亡すると身に着けていたものごと光の粒子となり、ひとつの宝石になるの。

 まるで、モンスターから魔法石がドロップするように。

 あぁ、嫌だわ。こんなこと、考えたくなかった。

 人とモンスターが同じなんてこと。

 人とモンスターが同じなはずない!

 

「ユーリ、大丈夫かい?顔色が悪いね」

 いつの間にかお兄様が立ち上がってワタシの顔を覗き込んでいた。

 いけない、ただでさえお忙しいお兄様に、ご心配をおかけするなんて。

「いろいろと、大変だったからね、疲れただろう?」

 慌てて取り繕おうとするワタシに、ノエルお兄様は困ったように笑った。

「ユーリ、俺は君から見て、そんなにも頼りない兄貴かな?」

 君の話を聞かせてくれないかといって、頭を撫でるお兄様の手がとても温かくて、ワタシは自分を抑えられなくなった。

 

 リオン達を危険に晒してまで彼女達を探しに行ったのに、助けられなかったこと。

 ダンジョンの探索には命の危険がつきまとうと知っていたのに、どこかで楽観していたこと。

 自分達が救出に向かえば助けられると、驕っていたこと。

 宝石に姿を変えた彼女達に、ひどく動揺したこと。

 分かったつもりになって、なんの覚悟も出来ていなかったこと。


 堰を切ったように話し出したワタシに微笑んで、お兄様は頷きながら聞いてくれた。

 そして、こう仰ったの。

「うん、大変だったね。でも、これだけは忘れないで欲しいんだ。ユーリ、君達は二人の女の子の命を救ったんだよ?それはとても素晴らしい事なんだ。俺は、君を、誇りに思うよ」

 よく頑張ったといってお兄様はワタシを抱きしめてくださったの。

 込み上げる涙を抑えきれず、ワタシは、お兄様に縋り付いて、声を上げて泣いた。


  


 

 

 


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ