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繚乱のダンジョン 27

 貴方は、考えたことはないだろうか?


 もしも……。

 もしも自分の家族が、有名人だったならと。

 もしも……有名なスポーツの選手だったなら。

 ミュージシャンだったなら。

 一流の料理人だったなら。

 クラスメイトに一歩先んじて、夢に向けて知識を得られるかもしれないと。


 もし……家族が大企業の経営者だったら。

 人気のファッションデザイナーだったら。

 大きな家に住んだり、きれいな服をたくさん着れたりするかもしれない。


 別に今の家族を否定しているわけでも、不満があるわけでもないのだけれど。

 そうね、『もしあなたが魔法を使えたのなら、何がしたい?』そんな空想の話よ。


 特別に贅沢をしたいとかではなくて、自分の一番の理解者が自分に一番必要な知識を与えて導いてくれる、そんな環境で暮らせたのなら、それはとても素晴らしいことでしょう。


 これは、そんな、もしもの話よ。




 昔、ひとりの男の子がいたの。

 男の子には同い年のお友達がいて、そのふたりは、祝福を持って生まれてこなかった。

 男の子の暮らす世界は、祝福を持っているということはとても重要なことだったから、ふたりのことを悪く言うひとは大勢いたの。


 幸い、男の子の家族は優しかった。

 泣いている男の子を励ましてくれた。

 慰めてくれた。

 庇ってくれた。


 けれど、お友達のお父さんは違ったの。

 祝福のないふたりをとても嫌っていて、顔を合わせるといつも、睨んできた。怒鳴ってきた。努力のしようがないことで、ふたりを非難してきた。


 男の子のお友達はお父さんに怒られると、いつも痛そうな顔をしていたわ。

 そして、その痛そうな顔で男の子に謝るの『お父さんがひどいこと言ってごめんなさい』って。


 男の子は、それがとても辛くて、悲しかった。

 お友達には、笑っていてほしかったから。


 もしも、お友達のお父さんが優しい人なら、自分たちは笑って毎日を過ごしていたかもしれない。

 それができなくても、せめて……。

 せめて、お友達にひどいことを言わなければ、自分たちの家族を悪く言わなければ、何かが違っていたかもしれない。

 お友達があんな痛そうな顔で自分に謝ってくることも無くなるかもしれない。


 男の子はそんなことを考えていたの。


 そうね、もしもの話よ。

 決して叶うことのなかった、もしもの世界の話。


 ねえ、どうして男の子の願いが叶わなかったのか、分かるかしら?


 世界が酷いから、いいえ、そういうことではないの。

 いえ、確かに酷い世界だけれどね。


 一言で言うなら、願い方を間違えたの。


 自分の世界を変えるのに、自分以外の誰かが変わることを願ったのよ。

 自分の世界を変えられるのは、自分だけ。

 幼い男の子は、それを知らなかったの。

 

 そうね、子供なのだから知らないのは仕方がないわね。

 男の子の家族もそれを教えるのはもう少し先でいいと思っていたみたい。

 けれど、必要な時に必要な知識がないのって、時々、凄く、辛いわよね。

 どうしたらいいかわからなくて、泣きたくなっちゃう。


 そんな時に男の子のお母さんが教えてくれたの。『治癒師は痛いところを治すのがお仕事なのよ』って。男の子のお母さんは治癒師だったのよ。

 そのとき男の子は、自分が治癒師になれば痛そうな顔をするお友達を助けることができるかもしれないって思ったの。

 

 それで、男の子は治癒師になることにしたの。

 たったそれだけのことでって思うかしら?

 けれどね、男の子にはそうすることしかできなかったの。

 だって、他のやり方なんて知らなかったんですもの。




 そう言って笑うと、チョコレート色の髪の少女は幼いころの青色のように、痛そうな顔をした。

 


 

 

 

 


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