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チュートリアル 6

 女の子が二人、通路に座り込んでいた。

 ひとりは、力なく俯いて、涙を流しながら自分の手のひらを、見つめていた。

 もうひとりは、泣いてる子を庇うように抱きしめて、震えていた。

 

 ワタシは見てしまった。彼女達の手に仄かな光を放つ、宝石があることを。


 怒りのあまり叫び出しそうになるのを、奥歯をかみ締めて堪える。

 今ワタシには、やらなければいけないことが、あるのよ!


 カラリ、カラリと、場違いに軽い音を立てて、彼女達にスケルトンが近づいていく。

 スケルトンの掲げたショートソードには、赤い血が垂れていた。


 トマス先生とアルフレッドが、女の子達を背に武器を構える。

 アルバートは盾を構え、スケルトンに向かってゆっくり、前進する。

 ワタシは用意していた浄化魔法を、スケルトンに放った。

 スケルトンはあっさりと崩れ落ちて、消滅した後には、何も残らなかったわ。

 

 誰かがついたため息が、いやに大きく辺りに響いた。


 アルバートが通路に落ちていた、幽かな光を放つ、赤い宝石を拾い上げた。

 先程から俯いたまま動かない少女の手には、同じような、青と黄色の宝石が乗っていた。

 もうひとりの少女は、アルバートから宝石を受け取ると、そっと両手で包み込みんだ。そして胸に押し当てると、声を押し殺して、涙を流した。

 

 ワタシ達は彼女達にかける言葉が見付からず、お互い顔を見合わせていた。

 トマス先生が彼女達の前に跪き、静かに話しかけた。

「こちらの3名は、あなた方のパーティーメンバーですね」

 虚ろな瞳で宝石を見つめていた少女は、のろのろと顔を上げると掠れた声で、はい、と呟いた。


「捜索対象と思われるパーティーを発見した。2名を保護、3名は……死亡した」

 リオンが小声で通信している。きつく握った手が震えているのが分かる。

 悔しいわね。

 悲しいわね。

 間に合わなかった。

 助けられなかった。

 助けてあげたかった。

 そういうものだと知っていたけれど、そういうものだなんて割り切ることは出来ないわ。絶対に。

 ワタシ達のすぐ近くで、彼女達は死んでしまったの。

 ワタシ達が帰ろうとしていたとき、彼女達はモンスターに襲われていたの。

 そうよ、そんなことっ、知らなかったわよ。

 捜索隊が助けてくれるんだろうなんて、暢気なこと考えていたわよ。

 どうしようもないことだって、分かってるわよ。

 でも、悔しい。

 悔しい。

 助けてあげられなかったのよ、ワタシは。


 捜索隊に誘導されて救護所に戻ったけれど、どこをどう歩いたかまるで覚えていなかった。

 ただ、いつにないへたくそな笑顔で、クラウスがおかえりと、いってくれた。

 それだけは、しっかりと覚えている。

 ワタシ達は、帰ってきたのね。


 

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