表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/84

繚乱のダンジョン 11

 錬金術ギルドの発明したポーチによって、冒険者の食事事情は格段に向上した。

 なにせ、ポーチに収納した食品は傷まないのだ。

 出来立てのシチューを収納しておけば、いつでも熱々のシチューが食べられる。

 やろうと思えばダンジョンでコース料理を楽しむことも可能だ。ただ、誰もやろうとはしないだけで。

 いつモンスターに襲われるかも分からない場所で、テーブルを囲んで食事をするなんて危険すぎるもの。だから大抵の場合、緊急事態に備えて簡単に出来る食事で済ませるわ。

 まあ、安全地帯で拠点を構えてじっくり長期間探索をするというのなら話は別だけれども。

 

 つまり、おにぎり最高!サンドイッチ素敵!スティックパイ天才!ということよ。

 特に今回のような数時間だけの探索の場合はね。


 深夜を回った現在、かつて王城があった平地で、ワタシ達はご飯休憩中なの。

 麦茶の入った水筒にお母様の作ってくださったおにぎり、とっても美味しいのよ。

 おかげでなおさら小学校の遠足を思い出してしまいそうになるけれど……。

 ちなみに、おやつのバナナもあるわよ。

 当然のような顔をしてワタシからツナマヨおにぎりを奪った幼馴染から大葉味噌のおにぎりを奪ってかぶりつく。

 鼻に抜ける大葉の香りと甘辛い味噌の風味が際限なく食欲をそそるわ。

 麦茶をぐいっと呷るとホウっとひといきつく。

 随分サッパリしちゃったわね、ここ。


 瓦礫の山と化していた王城はもう跡形もなく、平らな大地を晒している。

 最早ローカーシッドや燻る炎の気配も無い。

 お父様達がローカーシッドを駆除した後、再び瓦礫に潜まれては面倒だとついでに撤去することにしたのよ。

 

 もちろんワタシ達も手伝ったわ。

 金髪碧眼の地味顔のメイドが浄化魔法を放ち、青い髪の美形のメイドが残っていた石壁を砕く。

 大きい瓦礫は背の高い赤髪の逞しいメイドが、小さい瓦礫は小柄な赤毛のネコ耳メイドがそれぞれちりとりに回収していく。

 明らかにちりとりよりも大きな瓦礫を押し込んでいるけれど、気にしてはいけない。あれは錬金術ギルド製のアイテムで、回収した瓦礫は街を再建する際の資源になるの。

 そういえばこんな感じのゲームがあったわね。

 気が付くと夜が明けている不思議なゲームだったわ。

 

 ちなみに、桃色の髪のメイドはスティックタイプの掃除機を振り回しているけれど、このことには触れないでおきましょうか。


「ところでクラウス、その掃除機はどうしたんですか?」

 ネコ耳のメイドがキラキラとした瞳で、桃色の髪のメイドに質問している。

「これかい?従来型の掃除機に瓦礫を収納する機能をつけてみたんだけど、サイズがね(非常に長くなるので省略)」


 濃紺のスラリとしたシンプルなロングワンピースに、パリッと糊のきいた真っ白なエプロン。

 清涼感のある髪型にしたワタシ達は、別にメイドコスをしているわけではなく公衆衛生課の制服を着ているだけよ。

 夕方仮眠から目覚めたワタシ達にサイズぴったりの制服が用意されていたのよ。

 今夜ワタシがお父様のパーティーに同行する名目は、公衆衛生課の実習。

 治癒師科の先生もいるし、何もおかしいところはないわね。

 実習なら学園の制服でもよかったのだけれど、せっかく用意していただいたのだから着ていこうという話になったのよ。


 そう、この世界には女性用の服装、男性用の服装という概念がそもそも無い。

 つまり、男子高生たちがメイドコスしているなどと内心動揺しているのは、この世界でワタシひとりだけなのだ。


 

 朝日に照らされて青紫色の宝石が静かに輝いている。

 ワタシ達は黙祷すると、その尊い宝石をハンカチで包んだ。

 

 王城の周りは大分片付いてきた。

 瓦礫の街の中にぽっかりと出来た平らな空間は、何だかひどく異質な場所に思えるわ。

 けれどここは、この国が再生に踏み出した証でもある。

 この国の住民は優秀だもの。

 すぐにこの平らな地面が普通の景色に見えるようになるわよ。

 そして必ず、前以上に活気のある国にしてみせる。


 だから、ワタシはワタシの仕事をしなければ。

 

 まずは、ロサとネムスの悪夢の回収ね。

 今のワタシには司書として彼の国へ赴く権限は無い。

 けれど、ラピスの状況が変われば司書について考え直してくださるはず。きっとお父様、いえ、国王陛下が説得してくださるから。

 だから、ワタシが今すべきことは……。



「ところで、ユーリの話って何だったんですか?」

 お風呂上り、涼みながらフルーツ牛乳を飲んでいるとアルフレッドが思い出したようにいった。

「ああ、実は皆に聞きたいことがあったのよ」

「聞きたい事?」

「そう、ねえ貴方たち、司書になる気は無いかしら?」

 お風呂上りでリラックスしていたせいか、それとも美味しいフルーツ牛乳の謎の効果のせいか、今までのどの奥でつかえていた言葉は意外なほどすんなりと口をついて出てきた。

「え?」

「……」

「は?」

「……そうきたか」

 友人達のポカンとした表情に、ワタシは自らの致命的な失敗を悟った。


 しまった。お風呂上りに首にタオルをかけて、フルーツ牛乳片手にしていいような話題じゃなかった。

 ええと、これ、仕切り直しって出来るかしら?


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ