チュートリアル 5
魔法石。文字通り、魔法の力の結晶。
これが何故、モンスターを倒すと現れるのか、諸説あるけどよく分からないの。
そして、倒したモンスターが光に包まれて、跡形もなく消えてしまうのは何故か。倒したモンスターは消えても、その返り血や、よく分からない粘液が消えないのは何故か。ホントのことは誰も知らないわ。
ワタシは今まで、何の疑問も持たずに、そういうものだと思ってきたわ。
ゲームが大好きな前世?の私も、そういうものだと深く考えていなかったわ。
だって、そういうゲームだしね。
改めて考えると、とても奇妙なことだわ。
魔法石は錬金術の装置の燃料に、使われているの。魔法使いが魔法の補助に使うこともあるわね。
けれども、さっき魔法石をドロップしたスライムは、魔法を使ってはいない。
あの半透明の体の中に、魔法石なんてなかったわ。
なら、いったいどこから現れたのかしら?まるで、ゲームの報酬のように。
だからといって、ここはゲームの世界だと割り切って、楽しもうなんて思わない。
ワタシは確かに、この世界で、17年間生きてきたのよ。
『みんな、聞こえるかい?いま、救護所にきたパーティーが、スケルトンが出たって言ってるんだ!』
クラウスからとんでもない連絡が来た。
イヤリング型の通信アイテムで、離れていてもって、そんなこと言ってる場合じゃないわね。
スケルトンなんて、3階層に出るモンスターじゃないわ!
『それと、今日探索の実習に出たパーティーが、一組戻ってきていない』
『いま、冒険者の方々が捜索隊を編成している。みんな……無事に、戻って来てくれ』
クラウスの切迫した様子に、息の詰まる様な緊張が走る。
指先が冷たくなっていく感覚に逆らうように、強く拳を握る。そんな私の背中に、そっと、手が添えられた。リオンは、ワタシに力強く頷くと、クラウスに返事を返した。
「了解した。すぐに戻る」
周囲を警戒しつつ隊列を整えている時よ、悲鳴が聞こえたの。女の子の悲鳴。さっき、スライムがやって来た通路からだわ。
「クラウス、ここより少し奥の通路から、悲鳴が聞こえた」
『了解。捜索隊の方に伝えるよ』
トマス先生はワタシ達の顔を見ると、首をかしげた。
このパーティーのリーダーはリオンだ。ワタシは、彼を見上げて、強く頷いた。
アルバートも、アルフレッドも、笑って頷いてくれた。ありがとうね、みんな。
「クラウス、僕達が先行して様子を見てくる」
『……っ、分かった、気をつけて』
ごめんねクラウス、心配をかけて。けれどやるべきことは、決まったわ。
行きましょうか。
「行こう」
リオンの号令のもと、通路の奥へと、進んだ。