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錬金術師のダンジョン 8

 古めかしい両開きの扉。

 その向こうには無数のオートマトンがひしめいている。

 左手に持ったインク壺を指でなぞっていたクラウスが不敵に笑む。

「いつでもいけるよ」

 頷く皆に応えてアルフレッドが扉を開け放つ。


 モンスターの大群が音もなく押し寄せてくる。

 防音のイヤーマフの効果は絶大だ。

 倒すためではなく吹き飛ばす為に扇状に魔法を放つ。

 油断なく盾を構えたアルバートとロウがすり抜けてきた人形を弾き飛ばす。

 遠距離攻撃のオートマトンをアルフレッドが的確にスリングショットで倒していく。

 

 リオンの氷の飛礫とワタシの石の飛礫が、人形達の接近を阻んでいる。ワタシ達の魔法が途切れてしまえば、あっという間にモンスターの群れに呑まれてしまうわ。

 なんだかラピスの変換期に似ているわね。

 ただ、ゾンビと違ってオートマトンは足が速い。

 魔法を連射するスピードは、あの時の比じゃないわ。

 つまり、それだけ、消耗が激しいってことよ。

 徐々に息が上がっていく。

 変な方向から飛んできた矢をトマス先生が短剣で払い落とす。

 まとまってわいた遠距離のオートマトンに対応する為にアランがクロスボウを構える。

 

 じりじりと追い詰められていく感覚に、ジワリと汗が滲んでくる。

 呼吸を整えて、焦る気持ちを押さえ込む。

 飛礫を突破し、ナイフとフォークを振りかぶった人形がロウに肉迫した。

 燕尾服にモノクルのオートマトンはロウの盾をするりと回避すると、魔法をすり抜けながらフォークを突き出してくる。

 回避が高いわね。

 ちなみにレアモンスターよ、アイツ。

 燕尾服の壮年の男性の姿をした人形は、ロウの攻撃をするりするりとかわしていく。

 と、急にワタシ達への興味を失ったようにだらんと両腕を下げて俯いた。

 同時に、他のオートマトンたちも突撃をやめて、ふらふらと明後日のほうへと歩き出す。


「お待たせ」

 クラウスの足下から魔法陣が広がっている。

 セーフゾーンの設置が完了したのだ。


 たった数分の攻防だった。

 そして、そのたった数分の攻防で疲労困憊したワタシ達は、そのまま床に寝転がった。

 高い天井。磨かれた床。

 バスケットボールのコートと、バレーボールのコート。

 奥のステージには緞帳が下りている。

 体育館ね、ここは。

 この体育館の入り口に作られたセーフゾーンを拠点にして、これから三日間、素材集めを頑張るのよ。


 クラウスが黙々と設備を設置していく。

 アルバート達がテントをたて始めたところで、そろそろワタシも自分の仕事を始めましょう。

 そう、カレーを作るのよ。

 なにしろ育ち盛りがこれだけ揃っているのだもの、食事の用意は重要。

 適当な大きさに切った大量のお肉と野菜を炒めて、大鍋で煮込んでいくわ。

 隣ではアランが炊飯器を三つも並べてご飯を炊いている。

 何だか合宿を思い出すわね。

 このダンジョンが学校を模しているせいかしら?


 市販のカレールーを割りいれてとろみが出るまで煮込んでいると、辺りに爆音が響き始めた。

 クラウスの設置したタレットが稼動したのね。

 一列に並んだ重機関銃がモンスターを殲滅していく。

 何時の間にか体育館の床一面に設置されていた魔法陣が、ドロップしたアイテムを転送している。

 これがこのダンジョンでの一般的な素材集めのしかたよ。

 ワタシ達は時々セーフゾーンの外に出て、タレットの攻撃範囲内にモンスターを釣るだけでいいの。

 そう、このダンジョンでの素材集めで大変なのは、セーフゾーンを設置するまで。

 セーフゾーンさえ設置出来てしまえば、後は市販されているアイテムで楽に素材が集められてしまうの。

 ちなみに、このタレットはクラウスのお手製だけれども、ギルドで貸し出されているものを利用することも出来るわよ。

 

 このダンジョンの部屋は一度退室すると中がリセットされるので、セーフゾーンを設置したら最低でも誰かひとりは部屋の中に居なければならない。

 部屋の中に居さえすればいいので、この留守番係は学生に人気のアルバイトだったりするわ。

 三食昼寝付きで、セーフゾーンの中にいる間は死ななければ何をしても自由。ただし、危険が伴います。


 クラウスがチューニングメーターでイヤーマフを調節してくれた。

 これでタレットの爆音が気にならなくなったわ。

 本当に便利ね、このイヤーマフ。

 それにしてもこのタレット、あまり学校を思わせる場所では運用したくないアイテムね。

 幸いなことにそんな感想を抱くのは、この世界ではワタシひとりだけなのだけれども……。


 本日何度目かの釣りを終えてセーフゾーンに戻る。

 何度やっても雪崩のように押し寄せてくるモンスターは怖いわ。

 とはいっても、この狩り方だとタレットの攻撃範囲外にモンスターが寄ってしまうから、定期的に釣りをしないといけない。

 奥にまとめてわいたクロスボウを持ったセーラー服の青年のオートマトンは、カートさんに頼まれた部品をドロップするからなおさらだわ。

 

 カートさんに依頼された部品は『D型歯車』『H型歯車』『C型カム』『A型シリンダー』よ。

 『D型』とか『H型』とかいうのは調によってドロップする型が違うから区別する為につけているの。

 歯車をドロップするのは、廊下で倒したナイフのワンピースのオートマトン。

 カムをドロップするのは、クロスボウのセーラー服のオートマトン。

 そしてシリンダーをドロップするのが、さっきロウが苦戦していたカトラリーに燕尾服のオートマトン。

 このカトラリーのオートマトンはレアモンスターの上、シリンダーはレアドロップなため、今回の素材集めで苦戦するのは、この『A型シリンダー』で間違いないわね。

 ちなみにこのオートマトンの通常ドロップは銀の食器よ。


 さて、目当てのアイテムが手に入っているか確認しましょうか。

「あれ、『歯車』は拾っているのに欲しい型だけピンポイントでないですね」

 まあ、そんなこともあるわよ。

「『カム』自体ないな」

 わきが少なかったもの、しかたないわよ。

「……」

「あちゃ~、『シリンダー』どころか『銀食器』も無いや」

 レアアイテムだし、覚悟していたわ。

「魔法石はいい感じに集まっているね」

 タレットを動かす魔法石は必要だし、いいことだわ。

「ところでこの『リボン』レアドロップじゃないか?」

 ああ、欲しいレアドロップは君じゃないのよ。

 

 ……この世界にも物欲センサーは存在するのかしら?

 まあ、素材集めは始めたばかりだし、これからよ、これから。

 ワタシ達の素材集めはまだ始まったばかりよ!






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