チュートリアル 3
さて、休憩時間は終了。
装備の点検をして、巡回の用意をしよう。
ブーツ、ショートソード、杖、もさっとしたローブ、ウエストポーチ、特に問題なし。
ポーチの中身は、ポーション、マジックポーション、地図、ランタン、ナイフ、包帯、ペン、ロープ、替えのオムツ、毛布、食料、水筒、その他いろいろ。
ウエストポーチに入る量じゃないわね。このポーチも、例によって錬金術ギルドの作った、たくさんものが収納できる道具。これのおかげで、ダンジョンに数日滞在することが可能になったの。それまでは、ポーターという専門の職業の人が、パーティーに同行していたそうよ。
ワタシ達が今使っているウエストポーチは、学園の初等部に入学したときに、支給されたものなの。
一般的に学生証と呼ばれている、冒険者ギルド仮登録証と、制服も一緒に受け取るのだけど、これらを身に着けた時の誇らしい気持ちは、今でもよく覚えているわ。
ちなみに、ワタシが今装備している、もさっとしたローブは制服ではありません。念の為。
この世界の学園のシステムは、各国共通で、初等部、中等部、高等部があって、6歳で初等部に入学すると、学園寮に入るの。
初等部は座学中心の授業で、中等部は、いろんな職業の体験学習や、適正テストを受けて、進路を決めていくの。高等部は、進路にあわせた科に分かれていて、実践的な授業が増えてくるわ。高等部からは単位制で、18歳で卒業なのだけど、早めに卒業に必要な単位を取得した生徒は、各ギルドに見習いとして、所属するの。
錬金術師見習いのクラウスや、戦士見習いのアルバートは学園でも有名な、優秀な生徒なのよ。
もっともクラウスの場合、研究に夢中で人前に出てこないから、顔はあんまり知られていないのよね。
錬金術ギルドの仕事は多岐にわたるわ。昔は、ポーションの作成がメインで、商業系のギルドのひとつだったんだけど、研究の分野が広がりすぎて、運営が錬金術ギルドだけでは、難しくなったの。
貿易用の航海技術に、日用品、通信装置に、ダンジョン用の装備や施設、もちろんポーション類の作成など、ワタシ達の生活になくてはならない存在だわ。
その分、他のギルドとの連携をとるための人員が必要となったのだけれど、錬金術ギルドだけでは運用するのが、難しかったの。そちらに人手を割いて研究が滞るのは、問題だってね。
そこで、管理者ギルドがその運用をすることになったの。
管理者ギルドっていうのは、一言で言うと雑用係ね。
この世界のダンジョンには管理者がいて、管理者ギルドを運営して、ダンジョン関係の運用をしているの。
ダンジョンを中心にした島が幾つかあって、管理者は王と呼ばれ、島の名前を冠しているわ。
このラピス島なら、ラピス王。
そう、ワタシのお父様ね。
このパーティーのメンバーがやたら優秀なのは、多分ワタシが王族だから。
ワタシには兄がいるわ。お兄様は、卒業してお父様の補佐をしているんだけど、仕事が忙しくて、パーティーを組んでダンジョンの探索なんて出来ないの。
でも、口さがない人達は、次期国王であることをいいことに、危険なダンジョンの探索を避けているのだろうって、言うの。
だから、せめて王族のワタシが、探索に出なければ。
お兄様に対する批判が、根も葉もない噂に過ぎないと、この身でもって証明するために。
だいたい、お兄様はワタシが中等部の頃は、魔法使い見習いとしてダンジョン巡回してたのよ。
ホント、気分悪いわ。
「さて、準備は良いかな」
トマス先生が声をかけてきた。
パーティーを組む際に、斥候が出来る子がいなくて、急遽、引率という形で先生がメンバーに入ってくれたの。
トマス先生は、一見目立たない感じの中年男性なんだけど、実は、斥候ギルド長だったりするわ。
ギルド長が何故学園の教師に?って思うかもしれないけど、高等部の授業では、ギルド長が講師としてやってくることが良くあるの。
前衛にトマス先生、アルバート。中衛にアルフレッド。後衛にワタシとリオンという隊列で巡回することになった。
アルフレッドは戦士科の生徒なのだけれど、トマス先生とパーティーを組んで、斥候に興味が出たらしいの。トマス先生も、アルフレッドには斥候の才能が有りそうだと言って、いろいろ説明しているわ。
高等部に進んでからは、治癒師科以外の講義って受ける機会がなかったのよね。
歩き方とか、索敵の仕方とか。
治癒師科の授業ではきかない内容ばかりだわ。
周囲の様子に気を配りながら、先生の講義に耳を澄ませましょうか。