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始まりのダンジョン 16

 これは、もしかしなくても手抜きではないかしら?

 ログハウス風のこじゃれたロッジの中で、ワタシはこめかみを押さえていた。


 シンプルな玄関扉を開くとそこは、温かみのある可愛らしいインテリアでまとめられたリビングだった。

 小さな暖炉が室内を暖め、時おりパチパチと小さな音を響かせている。

 このロッジの中で音を立てているものはこの暖炉と、リビングとダイニングキッチンの間にあるアンティークな壁掛け時計くらいだ。

 ピンクの花柄のカーテンのかかったリビングの大きな窓からは、外の様子が一望できた。

 ここからならあの巨大カピバラさんも可愛らしく感じられるわね。

 そしてリビングとダイニングキッチンの間には、葡萄の木の彫刻がされた支柱の螺旋階段があった。

 手摺にまで葡萄の葉をかたどった装飾がなされていて、とても素敵だわ。

 そして螺旋階段を上ると同じ部屋に出た。

 そう、まったく同じ内装の部屋よ。

 唯一違っているのは窓の外。

 巨大カピバラが巨大アルパカになっていた。

 外を確認しようと扉を開けると、たまたま近くにいたらしいアルパカが威嚇してきた為、急いで室内に避難した。

 危なかったわ。

 次の階は巨大ヤギ、次は巨大ヒツジ、その次は巨大ニワトリ。

 全て同じつくりの部屋で窓の外だけが違う。

 

 手抜きというか、ボーナスステージというか……。

 聞いたことがあるわ。

 ダンジョンには大量にドロップアイテムを入手できる、モンスターハウスがあるということを。

 大きさはともかく、牧場で見かける彼らをモンスターと呼ぶことに若干の抵抗を感じるけれども……。

 いずれここは、冒険者の方の人気の階層になるのでしょうね。


 巨大乳牛。

 巨大ウマ。

 巨大ブタ。

 巨大ウシ。


 海辺をランニングしていたときによく見かけたわ。尤も、サイズが違うのだけれど。

 このモンスターたちはダンジョンの恵みよ。

 ワタシ達この世界の住人の大切な糧。

 彼らを倒してアイテムを得ることに抵抗を感じた自分を、ワタシは酷く恥じた。

 ワタシはその辛い行為を人に強いる立場にいる。

 普段食卓に並べられる肉や魚、それらは、誰かがその辛い作業を行った証なのだから。


 狩ろう。

 今は、どれだけ対価を支払ったところで、代わりにやってくれる人なんていないのだから。

 それに、食料を得るチャンスを逃すわけにはいかないもの。


 やる事はいつもと変わらない。

 落とし穴を作ってモンスターの動きを封じ、倒す。

 危なくなったらすぐにセーフゾーンに逃げ込めるようにしておく。

 今回はモンスターが大きいから落とし穴も深めに作るわ。

 クロスボウを装備するのが、何だか久しぶりな気がするわね。

 手前の巨大ウシに照準を定める。

 ウシの戦闘能力を甘く見てはいけない。

 あの立派な角を生やした巨体が突進してくるのだ。

 対応を誤ればただでは済まない。

 ワタシは深呼吸をすると、息を止め、引き金を引いた。

 矢は狙い通りに巨大ウシの首筋に当たった。そう、当たっただけ。致命傷になっていないわね。

 巨大ウシは首の矢を気にした様子も無く、こちらを振り返る。

 そして、ワタシ達を見付けるとゆっくりとこちらへやって来る。

 まるで品定めするような視線に気圧されそうだ。

 徐々にスピードを上げて近づいてきた巨大ウシが、フッと視界から消えた。

 空を飛んだとか瞬間移動したとかではないわよ。

 計画通り、落とし穴に転がり落ちたの。

 ただ、ここまで見事に嵌るとは思っていなかったのだけれども……。

 巨大ウシは仰向けになって落とし穴に嵌っていた。ご丁寧にも角が落とし穴の底に突き刺さった状態でだ。

 急所が狙い放題だわ。

 ワタシはクロスボウを構えると、巨大ウシに止めを刺した。


『ユーリ!キラキラのお肉とおっきな魔法石だよー』

 ミントが落とし穴からドロップアイテムを拾ってきてくれたわ。

 そう、前回の失敗に懲りて落とし穴を改良したのよ。

 まあ、今回は改良した魔法を使う機会が無かったけれどね。

 高ランクのお肉が泥沼に落ちた悲しみは、きっと一生忘れない。


 ちなみにドロップした高級牛肉はステーキにしてワタシとミントが美味しくいただきました。



 

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