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始まりのダンジョン 15

 ……。

 …………。

 ………………。

 おかしいわね?

 来ないに越したことは無いのだけれど、ゾンビが来ないわ。

 そっとくぐり戸を開けて廊下の様子を窺う。

 数体のゾンビがウロウロしているけれど、こちらに来る様子は無い。

 扉をしっかりと閉めて考える。

 もしかして……。

 階段を覗き込むと下の階にはゾンビがみっしりと詰まっている。

 空になったビンを投げつけると当たったゾンビがこちらを見上げてくる。

 けれど階段を上ろうとする気配は微塵も無い。

 ここってセーフゾーンなのかしら?

 しかし、どうしたものかしらね。

 ここがセーフゾーンだとして、上層階への階段はここにはない。

 恐らくは住宅街の何処かにあるのだろう。

 だとしても、あのゾンビの群れの中を探索するのは無謀。

 夜が明けるのを待つべきでしょうね。

 尤も、夜が明けるなら、だけれどね。

 ただ、夜が明けてゾンビが消える可能性は高いと思うわ。

 ゾンビが出現したのはあの放送のすぐ後。

 もしこの階層が私の知っているゲームの影響を受けているのなら、あの放送がゾンビの出現に関係しているはずよ。そして、その考えが正しければ、朝にチャイムが鳴ると同時に彼等は消えるはず。

 あくまでゲームの設定では、なのだけれど……。

 ワタシはポーチから簡易トイレとバスタブを取り出すと、階段と防火扉の前に置いた。

 気休め程度のバリケードだけれど無いよりはいいわよね?

 とりあえず今出来る事は、休息をとり体調を整えること。

 缶詰で簡単な夕食を済ませる。

 簡単にとはいってもアルバートのお薦めだけあってとっても美味しいわ。

 問題は、階下とその扉の向こうにゾンビが徘徊する中で、眠れるか、ね。

 いえ、ここで眠るしかないのだけれども。

 冷たいリノリウムの床の上に寝床を用意する。

 防火扉の向こうにふかふかのベッドがあることなんて気にしないわ。

 思いのほか疲れていたらしいワタシは寝袋の中でミントに寄り添うと同時に、眠りに落ちた。




『私の後輩は随分と無茶をするね』


『まあ、多少危ないことをしても私がフォローするから構わないけれど』


『ところで君、今、困っていることがあるだろう?』

 

『図書館においで。フックンが君に必要なことを教えてくれるから』


『……それと、もう少し周りをよく調べてご…………




『町内の皆さんおはようございます!本日は資源回収日です。8時までに指定の場所に資源ゴミを出してください』

『町内の皆さんおはようございます!本日は資源回収日です。8時までに指定の場所に資源ゴミを出してください』

 いけないっ!まだ新聞をまとめていなかったわ!

 ……。

 …………。

 いえ、ここはダンジョンの中だったわね。

 あれだけいたゾンビは跡形も無く消えていた。

 それが夜明けか放送かどちらのタイミングかは、この状況で熟睡してしまっていたワタシには分からないけれど……。

 自分の緊張感の無さに戦慄する。

 いえ、ワタシ達ね。

 割と勢いよく起き上がったワタシの側にいたにもかかわらず、ミントは気持ちよさそうにぐっすりと眠っている。起こすのが可哀そうなくらい。

 さて、朝ご飯にしましょう。

 今朝は何だか和食が食べたい気分なの。

 味噌とみりんで味をつけた魚の切り身を焼いて、ワカメのお味噌汁を作る。

 後はトマトをカットして、ポーチからおにぎりと温泉玉子を取り出せば完成よ。

 やっぱり葉物野菜が欲しいわね。

 朝食の支度をする音で目が覚めたらしいミントが伸びをしている。

 ん?

「おはようミント。あなた、もしかして、大きくなったかしら?」

『おはよーユーリ。うん?あ、ホントーだ。ボク大きくなってるー』

 自覚していなかったの?

 もう子猫とは呼べないわね。

 どこか頼りなさげだった手足はすらりと伸び、広げた翼は優美でありながらも力強さを感じる。

『ユーリがいっぱい魔法を使ってくれたおかげだねー』

 そう、ミントは幻獣のような存在でありワタシが魔法を使用することで成長するの。

 いつも食べているご飯は、ミントにとっては嗜好品なのよ。

 ミントが本来必要の無い食事をしているのは、ワタシの我侭の所為。

 たったひとりで食事をとるのは寂しいもの。

 そんなワタシに、当たり前のようにミントもフックンも付き合ってくれている。

 それは、ワタシにとってなによりも幸福なことだった。

 それに、用意した料理を美味しそうに食べてくれるのは純粋に嬉しいの。

 今もカットしたトマトを美味しそうに食べてくれているわ。


 学校の廊下にあった非常ベル。

 火災報知機、あの赤くて丸いお馴染みのデザイン。

 あれに似たものが何故かエレベーターの横についていた。

 そして、赤い丸の中心に日本語で『強く押す』と書かれたボタンがある。

 正直に言うと、好奇心を抑えられなかった。

 そう、ワタシは誘惑に抗いきれずに、ボタンを押してしまったの。

 結果、当たり前だけれどもエレベーターが到着した。

 いえ、ここはダンジョンなのだからそういうギミックが稼動したというべきかしら?

 いろいろと腑に落ちない部分もあるのだけれど、深く考えてはいけないところかしらね。

 それにしてもこのギミック、私の知識が無い冒険者の方はどうやって気が付くのだろう?

 恐る恐るエレベーターに乗り込んだワタシ達は、そのまま『???階』へと運ばれていった。


 さて、エレベーターで『???階層』に到着したワタシ達は、土産物屋さんの中にいた。

 ここも日本の観光地が影響したのかしら?

 可愛らしいぬいぐるみや置物が陳列された店内を抜け外に出ると、そこにはカピバラの群れがいた。

 広い草原に、川が静かに流れている。

 暖かいというよりは暑いくらいの気温。

 そして、数十頭のカピバラの群れがのんびり草を食んでいる。

 そうね、お店の中にやたらカピバラのぬいぐるみや装飾品があったからいるとは思っていたわ。

 ただね、サイズが問題よ?

 ワタシの身長の倍はあるかしら。

 日本で人気の温泉に浸かるカピバラさんはただひたすら可愛らしいのだけれども、さすがにここまで大きいと迫力があるわね。

 身の危険を感じるくらいよ。

 それに、この数でいっせいに巨大な草を食むとなればそれなりに大きな音が響くというわけで、何が言いたいかというと少し怖い。いえ、大分怖い。

 幸い草原に建物があるのが見えるので、巨大カピバラに気付かれないように気をつけて移動するだけなら問題は無いはず。

 背の高い細い草は思いのほか薄くて、不用意に触れると手を切ってしまいそう。

 草いきれの中慎重に歩いていく。

 ローブの中がじっとりと汗ばんでくる。

 少し息苦しくなってきたわ。

 熱中症に気をつけなければ。

 昨日採集したミネラルウォーターを呷る。

 温度を低めに設定した風魔法を身に纏うと、治癒魔法と浄化魔法を発動する。

 これで快適になったわ。

 ええ、初めからこうしていればよかったわね。

 さて、気を取り直して進みましょう。

 

 

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