チュートリアル 17
さて、そろそろお買い物に行きましょう。
この島はダンジョンを囲むようにして、幾つかのエリアに分かれているのよ。
では時計回りに。
まずは、ワタシ達の学園や寮のある学園区。
治療院など公共の施設のある管理区。
各ギルドの施設のあるギルド区。
職人街や商店街のある商業区。
住宅街のある居住区。
これらが島の内周のエリアよ。
外周は大別して二つのエリアに分かれるわ。
農業区と港区よ。
港区は商業区と街道でつながっていて、倉庫街などもあるわね。
農業区は島のほとんどを占めているわ。
この農業区で、島全体の食料をまかなっているの。
ちなみに、この世界の海に生き物はいないわ。魚はおろかモンスターでさえね。
それに、あまり塩辛くもないのよ。
それなら何故、ツナマヨが存在するのか?
それは、ダンジョンの中に川や湖があったり、魚をドロップするモンスターがいたりするからなの。
ああ、暫くは魚が高騰しそうだわ。
ラピス島のダンジョンの特産品は鉱物ね。
だからこの島は鍛冶や鋳物が盛んなの。
商店街も金属製品のお店が多いわ。
さてと、食器を取り扱っているお店はどこかしら?
「あの店はどうだろう?」
アルバートが指差したのは可愛らしいガラス細工のお店。
ひとりで入るのに少し勇気のいる、ファンシーな小物がディスプレイされているお店だわ。
ちなみに、お値段がお兄様に頂いたお小遣いの十倍するわね。
「実技の授業には使いにくいよそれは。あ、あの店、ボクたまに使うんだ」
そうね、そうでしょうね。
試験管やフラスコ、ビーカー。ちょっと違うわ。
それにしても、こういった実験器具って高いのね。
「あ、あそこガラスの置物ありますよ」
アルフレッドが指差した先には、ガラスで出来た達磨がいた。
達磨の頭上では、金魚の形をした風鈴が涼やかな音を奏でているわ。
ノスタルジックな気分に浸りつつ、込み上げてくる疑問を押し殺す。気にしたら負けよワタシ。
「奥にグラスがあるな」
ワタシの葛藤をよそに、リオン達はお店の中に入っていく。
「ノエル様の仰った真っ直ぐなデザインって、こういうタイプのものだろうね」
クラウスが円筒形のグラスを持ち上げる。
シンプルなデザインだと思ったら、底に絵が入ってるわ。花や小鳥、蝶や蜻蛉、可愛らしいわね。
お値段も、お小遣いで買える範囲内だわ。
これにしようかしら?
お兄様には、蝶の絵、ワタシには鈴蘭の絵が入っているのにしましょう。
お昼ごはんは商店街にあるファストフード店でとることにした。
この世界に何故、ファストフード店があるのかは気にしないわ。
ハンバーガーをリオンがナイフとフォークで優雅に食べていることくらい、気にしてはいけないことよ。おいしいんだから良いじゃない?
「ところでアルバート、この辺りで武器の修理って出来ないかしら?」
「修理って、ショートソードか?」
「いいえ、杖よ」
ポーチからヒビの入った杖を取り出す。
「なんか、割れる寸前って感じですね」
「ユーリ、君何やったの?」
「スケルトンを殴っていたな」
口元をナプキンでおさえながらリオンが簡単に説明してくれたわ。
「杖でか」
「でもこれ、打撃用の杖じゃないですよね」
「君、治癒師になるんじゃなかったのかい?」
そんなに呆れた顔しなくたっていいじゃないの!
「ああ、あの時は僕も驚いた」
ええ、確かにあの時はスケルトンを殴ったし蹴ったわよ。
けれど、緊急事態だったの。
魔力が限界だったのよ。
そんな時、鈍器があったら使うでしょう?
「不可抗力だったのよっ!」
だから、そんな気の毒そうな目で見ないで?
アルバートのお勧めの武器屋さんで杖を見ていただいたのだけれど、修理は無理そうだったわ。
モンスターを殴ったら割れたというアルバートの簡潔な説明に、店主のおじ様は鈍器をお薦めして下さいました。
「いっそ拳で戦うというのはどうでしょう?」
アルフレッド、そのナックルどうするつもりかしら?
「槍とかどうだ」
アルバート、それ前衛向けの武器だからね?
「薙刀なんてどうかな」
クラウス、薙刀は……え、薙刀がこの世界にあったの?
「杖がいいってんなら、金属製のやつか、中に金属を仕込んだのがお薦めだ」
積極的に殴りにいく治癒師って……。
店主のおじ様が見せてくださった仕込杖は、とっても素敵だったのだけれども、ワタシに手が出せるお値段ではないのよ。
「よ、予算の都合で……暫くはショートソードだけで頑張ろうかしら」
杖がなくても魔法を使うのに支障は出ないしね。
ただ、この杖、お兄様に頂いたものだったから直したかったの。
「なんだい治癒師の兄ちゃん、ショートソード使えんのかい?」
「ああ、こいつ武器は一通り扱える」
「ほう、そいつぁすげえな!」
凄くはないわね。そこそこは出来るのよ、そこそこは。自分の強みに出来るものが無いだけで……。
「凄いな、ミスター器用貧乏」
リオン、ボソッと呟いたの聞こえてるわよ?




