チュートリアル 16
ノエルお兄様ふたり占め作戦は失敗したわ。
魔法使いギルドの鍛錬所の使用申請手続き中、学園の魔法科の先生に捉まってしまったの。
魔力調整の講義を学園でして欲しい、ということらしい。
先日のダンジョンの件で、ノエルお兄様の魔法の実力について噂になっているらしいわ。もちろん、良い意味でね。
大勢の生徒からお兄様の講義を受けたいと、希望があったそうなの。
そんな時にワタシとリオンがノエルお兄様の特別授業を受ける、なんて話が聞こえてきたと。
恐縮しながらも引く気はなさそうね、この先生。
ところでお兄様の特訓って何をするのかしら?
いつもは家の庭で練習しているのだけれど。
何故、魔法使いギルドの鍛錬所で特訓なのかしら?
「ごめんねふたりとも。後日学園で実技訓練をするから、そのとき一緒にやろうか。お気に入りのグラスを用意してきてくれるかい?ああ、真っ直ぐなデザインだといい。ユーリ、お小遣いをあげる。俺の分を買ってきてくれるかな?」
一息に言うとお兄様はコインを数枚渡してくれた。高価なものは買うな、ということかしらね?
お兄様と先生は授業内容の打ち合わせをするらしいわ。
「ユーリ、買い物に行く前にクラウスたちに会っていかないか?」
そうね、みんなとは一度お見舞いに来てくれたときに少し話しただけだったから、ちょうどいいわ。
改めてお礼も言いたかったし。
何故だかみんな示し合わせたかのように、百合の花を持ってきてくれたの。
おかげでワタシの部屋、とってもいい香りよ。
三人は図書館の例のテラスでお茶していたわ。
「みんな、お見舞いありがとう。その、心配かけてごめんね」
ワタシが声をかけると、みんな嬉しそうな顔をしてくれたわ。
「ユーリ!元気になったんだ?良かった」
アルフレッドがそう言って抱きついてきた。
アルバートが無言でワタシの頭をがしっと掴むと、わしゃわしゃと撫でてくれた。
「心配したよ。けど、約束守ってくれてありがとう」
クラウスはそういって抱きしめてくれたあと、あっと呟いた。
「ひゃうっ」
変な声が出たわ。
頭の上にひんやりしてぬるっとした、それなりに重量のある何かが貼りついたのよ!
「ミケも喜んでいるね!」
ミケの正体はクラウスのペットのスライムよ。
何故名前がミケなのかは、誰も知らない。
ちなみにこれは攻撃ではなくて、じゃれているらしいわ。
気を付けて、油断していると鼻と口を塞いでくるのよ。
そろそろ苦しくなってきたから、離れてくれると嬉しいんだけれど。
「ユーリ、息できてないんじゃないか?」
「あ、そうだね。ミケ戻って」
クラウスがいつも腰に吊るしている丸底フラスコに、ミケはニュルンッと帰っていった。
何故あの小さなフラスコにスライムが入るのか、迂闊に訊いてはいけない。浄化魔法ランク1。
「どうやって、その中にスライム入れてるんですか?」
アルフレッド、好奇心旺盛なのは良い事よ?多分。
「リオン、あなたには随分迷惑かけてしまったわね。ごめんなさい。それと、ワタシに付き合ってくれて、ありがとう」
リオンはふっと笑って、いつもの様にワタシの頭をべしっと叩いた。
さて、クラウス先生の講義を受けつつ、お茶を頂きましょうか。




