チュートリアル 14
『母なる光。そして、彼女を内包する海。異なる存在である筈の彼らを、君は関連付けた』
『実に興味深い』
『この世界があまりに人間にとって都合よく出来ていることに、君は疑問を持ったことはないかい?』
『マーテルにおいで?君に贈り物をしよう』
あなたは誰?いったい何の話をしているの?
心地よいまどろみの中、誰かが話しかけてくる。
誰だろう?
知らない人のはず。
けど、とても懐かしい。
『マーテルにおいで』
あなたは誰?いったい何の話をしているの?
なにか、訊ねられた気が、するのだけれど、よく、聞こえないの。
ワタシは、いま、とても眠くて、ダメ、だわ、もう……
夢をみていたのだろうか。
爽やかな風が髪をくすぐる。レースのカーテンが窓辺で揺れていた。
糊のきいたシーツに、柔らかいふとん。
見慣れた家具。
ここ、ワタシの部屋だわ。
テーブルの上にはチューリップが飾られていて、その傍らでは金髪の女性が椅子に腰掛けて読書している。長い髪を結い上げて本のページをめくる姿が、とても優雅だわ。
「お母様?」
ひどく、かすれた声がでた。
「ユーリ君?気が付いたのね。もう三日も眠っていたのよ?」
パタパタと足音を立ててこちらにやってくると、お母様はお水を飲ませてくれた。
なんだか子供の頃に戻ったみたい。
……えっ?三日?
「ワタシ、そんなに眠っていたのですか?」
「そうよ?無茶苦茶な魔法の使い方して倒れたの。ビックリしたのよ?ダンジョンの前につくっていた仮の治療所に、リオン君があなたを運んできたの。覚えているかしら?」
知らなかったわ。ワタシを抱えて1階層まで運んでくれていたのは、分かったけれど。
「彼、すごく心配していたわ?あとでちゃんとお礼言うのよ?」
「はい、もちろんです。それでダンジョンは?」
「ノエル君が頑張って封印してくれたわ。ダンジョンはいま、立ち入り禁止になっているわよ?」
「そうですか。良かった」
ノエルお兄様なら問題ないはずね。
「ユーリ君」
「はい」
「いえ、ユーリ・ラピス。この度のダンジョンでの采配、見事でした」
突然、普段のふわっとした口調を改めたお母様は、凛とした表情をした。
「学生の身でありながら、出すぎた真似を致しました。申し訳ありません」
ワタシの言葉にお母様はふっと溜め息を付くと、困ったように笑った。
「怒っている訳ではないのよ?ユーリ君の指示でみんな無事に帰ってこれたって、トマス君、言ってたもの。よく頑張ったわねぇ?偉かったわよ。お父様も褒めてらしたわ」
王妃モードからお母様モードに切り替わったわ。
ええ、でも、嬉しいわね。自分のしたことを評価していただけるのは。
「ありがとうございます」
「あ、でも、ノエル君は怒っているからね?目が覚めたらお説教だって、言ってたわよ?」
ええっと、きき間違えかしら?お兄様が怒っていらっしゃる?
「元気になったら、魔力調整の特訓だって言ってたわぁ」
ああ、ノエルお兄様に魔力を調整せずに魔法を使ったの、ばれているわね。
「ユーリ君?」
「……はい」
「逃げちゃ、ダメよ?」
にっこりと微笑まれるお母様に、自分の運命を悟った。
目を閉じて心に誓う。
リオンも巻き込もう。きっと、喜ぶから。




