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チュートリアル 12

 作戦開始。

 撤退援護パーティーは配置についた。

 下層階の探索パーティーはすでに撤退を始めている。

 お兄様とお母様のいるパーティーは、この3階層まで殿を務めたあと1階層で待機する。

 ワタシ達3階層の援護パーティーは4階層の撤退まで、このセーフゾーンを維持する。

 正確には、下層階から撤退してきたベテラン治癒師達に、引き継ぐまでよ。

 余裕のある方は3階層で休息をとりつつ、ワタシ達のローテーションに加わって頂くの。

 転送装置以外撤去してあるから、こことっても広いわ。

 治癒師科の生徒全員は入れるくらいね。


 このセーフゾーンは少し広めの通路に繋がっていて、その先がT字路になっているの。

 T字路にはリオンとトマス先生の張ったワイヤートラップがあって、トラップで転倒したゾンビを浄化する実技のテストをしているの。つまり、ゾンビを見て戦意喪失したり、浄化できなかったりしなかった生徒を、ここに配置すると言う訳。

 ビギナーだと分かりやすくする為に学園の生徒は制服着用。なのでワタシも今日はもさっとしたローブではありません。制服だと冒険者の方が気にかけて下さるから、ワタシ達生徒も心強いわね。……まぁ、舌打ちしていく人もいるけど。

 足が竦んで動けない生徒は撤退中の冒険者の方が運んでくれているわ。荷物みたいにね。

 生徒の3分の1くらいは残ったかしら?

 ところで、少しゾンビのやってくる間隔が短くなってきたようね?

 今はまだ、生徒だけで対処出来ているわ。ゾンビの数が増えても、このまま落ち着いてローテーションを維持できるといいのだけれど。

 

 それにしても、ゾンビってやっぱり臭うのね。クラウスが用意してくれた浄化魔法ランク4の効果のあるスカーフ、とても助かるわ。マジックポーションも沢山届けてくれたし、錬金術ギルドの皆さんには感謝しています。

『10階層撤退完了』

 順調ね、良かった。ただ気になるのは、撤退して来ている治癒師達の顔色が、あまり良くない事。

 気を失っている人もいるわね。

 もしかしたら、2階層に待機する治癒師はワタシが考えるより少ないかもしれないわね。

 学園の生徒達は4階層の冒険者パーティーと共に撤退する。ワタシやリオン、見習いの生徒達は残るけれど。2階層の撤退は苦戦するでしょうね。

 それなら今できることは、腹ごしらえね。ポーチからお握りを取り出して頬張る。おいしいわ。

「お前、良くこの状況で食べられるな」

 そういいつつ私のお弁当をつまみ食いするリオン。あぁ、ワタシのツナマヨお握りが。

 ワタシは、何故この世界に梅干やツナマヨのお握りがあるのか、ということは考えないことにしたの。

 おいしいんだから、それでいいじゃない!

 セーフゾーンで休憩していた他の生徒達が、ワタシ達をなぜか残念な人を見るような目で見ている。


 さて、そろそろ交代ね。

『腰から下を吹き飛ばしてやれば、動きが遅くなるぞ』

 撤退中の冒険者の方に教わったけど、つまり、腰から下を吹き飛ばしただけでは死なないのね?

 いえ、アンデッドだから死ぬというのはおかしいかしら?

 リオンとトマス先生がワイヤーを持って何か相談してるわね。

 左側の通路でリオン達がワイヤーを張っているので、ワタシとクラスメイトのジョアンがやって来るゾンビを浄化していく。

 ところでジョアン大丈夫かしら?

 治癒師科の実習で治療院にいったとき、重傷の方を見て倒れていたけれど。

 様子を見る為にワイヤーに張り付いたままのゾンビを見て青い顔しているけど。

 ワイヤーに捕まってるゾンビが後ろのゾンビ達に押されてバラバラに切れたけど。

 隣を見るとジョアンが吐いていた。

「大丈夫?ジョアン」

「うぁ、ご、ごめん」

 律儀に周りに浄化魔法をかけると、ジョアンは落ちたゾンビの腕をかじってるゾンビを見てしまい、また吐いた。

 あぁ、自分の吐瀉物の上に座り込んじゃったわね。浄化魔法ランク1。

「あの、ジョアン気分がわ「きゃひゃあああああああああああああああああ」」

 ジョアンは突然奇声を発すると、ワイヤーに詰まっているゾンビを一掃し、失神した。


「ユーリ様、代わりの治癒師は必要ありませんね?」

 様子を見に来た冒険者の方がジョアンを回収していく。

 まぁ、後ろに先生方や交代の生徒達がいるから、大丈夫だけれども?

 リオン達がワイヤーを張りなおしている。ゾンビが通路いっぱいに広がらないようにワイヤーで誘導するらしい。なるほど、一体だけを相手にするなら大分楽だわ。心理的にね。これがトラップ全集の英知!


 浄化魔法ランク5。

 レイク・カーティスの小説のはじめに、光の話があったわね。海の底に光が眠ってるって。

 ワタシは今まで何処かにある湖から光る水をすくい上げるイメージで、源に干渉してきたの。

 浄化魔法ランク5。

 けれど、この海の底に魔法の源があると彼は言っているわ。

 小説の中のお話だけれどね。

 浄化魔法ランク5。

 ただちょっと思ったの。魔法の源はワタシが思っているよりずっと、身近な存在なのかもって。

 浄化魔法ランク5。

 距離の話よ。物理的にも精神的にも。

 浄化魔法ランク5。

 魔法の源は、現実にこの足元に存在する。

 浄化魔法ランク5。

 浄化魔法ランク5。

「交代しましょう」

 先生の号令で後ろに下がる。

 

 セーフゾーンでマジックポーションを飲んで、軽くストレッチをする。

『5階層撤退完了』

「学園の生徒はセーフゾーンまで後退しなさい」

「生徒達は撤退を開始しなさい」

 冒険者の方々が通路で隊列を組む。ゾンビに混じって、スケルトンが現れはじめた。

 疲れきった顔のクラスメイト達が階段を上っていく。

「お先に……」

 気をつけて、外で待ってるぞ、と声をかけてくれる。あなた達も気をつけて。

「いやああああああああああああああああああああぁぁ」

 転送と同時にものすごい悲鳴を上げた治癒師の女性が、その場にいた冒険者に気絶させられ運ばれていく。お、驚いたわ。

 なるほど、通路にみっしりと詰まったアンデッドにパニックになったのね?

「今のところ、遠距離攻撃や魔法を使ってくるアンデッドはいませんね?」

 隣で撤退の指示をしていた先生に確認をする。

 スケルトンアーチャー、スケルトンメイジ、ゲームでおなじみのこのモンスターがこの世界にいるのか?それは分からないけれど、いるとするなら優先して倒さないといけない。

「報告にはありませんよ」

「ありがとうございます」

 なら、優先するのはスケルトンね。

「殿をお任せします」

 お兄様達のパーティーが階段を上っていく。

 ワタシ達も撤退しましょう。

 残っている生徒全員で通路のアンデッドを浄化すると、2階層へと移動を始めた。

 

 





 

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