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チュートリアル 10

 クラウスならきっと図書館にいると断言したアルバートと一緒に皆で移動する。

 アルフレッドは、少し落ち着いたみたいね。

 けど、いつもはぴんと立っている猫耳が、今はへたりとふせられているのが心配だわ。

 ワタシ、自分のことで手一杯で、周りが見えていなかったのね。

 自己嫌悪でどうにかなりそう。

 ワタシはもっと友人達を気遣うべきだった。

 アルフレッドはもちろん、アルバートもリオンも、そして、クラウスもね。

 とても心配をかけた。

 ちゃんと、謝らないといけないわね。


 学園の図書館はこの島で最も規模の大きい図書館だ。

 重厚な扉を開くと、カウンターの後ろの掲示板に目が留まった。

 アンデッド、変換期、浄化魔法関係の貸し出しが多いわね。

 出遅れた感じがして落ち着かない。

 いいえ、そうじゃない。

 問題が発生したときに対処しようとすぐに行動できる人は、貴重な人材よ。

 羨む暇があったら、自分も行動するのよ。


「変換期関連の書籍はほとんど借りられちゃってるよ」

 そういえばクラウスは図書委員長だったわね。アルバートとリオンも図書委員だわ。

 このパーティーの図書委員率の高さは一体なに?

 ちなみにアルフレッドは生徒会で、ワタシは保健委員よ。

「ちょうど休憩しようと思っていたんだ。付き合ってよ」

「ああ、テラスでいいか」

「ならお茶と菓子を頼んでこよう。小腹が空いた」

 手慣れているわね、図書委員達よ。

 

 この世界に、緑茶と和菓子があるのは何故だろう。

 うん、この件に関して深く考えるのはやめましょう。美味しいし。

 クラウスはアルバートの刺繍を見て、また腕を上げたなとかいって唸ってる。

「ダンジョンにアンデッドが増えてるらしいな」

「うん、変換期に入ったのは確実だね。錬金術ギルドは撤収の準備で大騒ぎだよ」

「まさか転移装置を回収して、徒歩で戻るのか?」

「流石にそれはないよ。安全第一でね、装置のことは諦める事にしたよ」

 クラウスはここで声を潜めて唇の前に人差し指を立てて見せた。

「ただ、転移装置に問題が発生しているんだ。どういうわけか、1階層分の移動しか出来ないんだよ。それで、時間がかかってる」

 みな一様に難しい顔をしている。無理もないわ。

 普段なら一気に1階層に戻ることが出来るのに、1階層分だけ小刻みに転送するとなると時間もコストも厳しくなる。そして、2階層に転送装置がない為、3階層からは歩いて戻らなければいけない。幸いセーフゾーンは上階への階段のそばにあるので、普段なら、さほど問題ではないでしょう。

 そう、普段なら。

「ねぇ、セーフゾーンにアンデッドが進入したって報告はあるの?」

「今のところはない、だが時間の問題だろう」

 変換期のダンジョンのセーフゾーンは、決して安全ではないわ。ダンジョン内で溢れたアンデッドの群れが、大挙して押し寄せてくるからよ。

 移動する人は少ない方がいいのに、移動の間セーフゾーンを守る人員が必要。悩ましいわね。

 そして、上層階になるほど状況は厳しくなる。

 しかも、普段戦闘中に攻撃を主体としない治癒師が、今回メインで戦うことになる。

 浄化魔法を使う魔法使いがいないわけではないのだけれど、系統が違うせいかほとんどの魔法使いは高ランクの浄化魔法を苦手としているわ。

 おそらく魔法使いは足止めなどをメインに、治癒師のサポートにまわるはず。


 第二王妃殿下は治癒師で、ノエルお兄様と共に最下層に向かい、撤退を援護した後、ダンジョンの入り口で封鎖の準備をすることが決まっている。親友の息子とパーティーを組むなんて感慨深い、なんてのんきな事仰ってたけれど、お母様大丈夫かしら?

 ワタシとリオンは3階層のローテーションに入っているわ。治癒師と魔法使いは魔力を消耗すると一旦下がって回復し、様子を見てまた前線に戻るの。


 クラウスが左のブレスレットを外し、手にとって宝石を指でなぞった。黒く光り輝くつるりとした宝石のアミュレットだった。

「ユーリとリオンは、撤退のサポートに行くんだよね」

「ああ」

「10年前の変換期、ボクの父さんもダンジョンに行ったんだ。帰ってきたときには、宝石になってたけど。トマス先生が、連れ帰ってくれたんだ」

 そういうと、クラウスは決まり悪そうに苦笑した。

「ごめん。こんな時に話す内容じゃないね。ただ、不安だったんだ。この前スケルトンが出たとき、君達に何かあったらと思うと気が気じゃなくてさ。一瞬父さんのことが過ったよ。だから、無事に帰ってきたのを見て、すごく、ホッとした」

「だから、その、みんな、無事に帰ってきてくれてありがとう」

 照れくさそうに言ったクラウスの言葉に胸がいっぱいになったわ。

「こちらこそ、ワタシ達を信じて待っていてくれて、ありがとう」

 クラウスはアミュレットを両手で握り締めると、ワタシとリオンを見つめた。

「うん、信じているよ。だから今度も、必ず無事で戻ってきて」

「ああ、当然だ」

 リオンが不敵に笑った。







 

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