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3.成婚祝賀パーティーにて

評価やブックマーク、感想をありがとうございます。

うっかりネタバレしそうなので、感想の返信は後で纏めて致します。




 数年後。

 王太子殿下の成婚ともなれば、いつものように代理人に出席してもらうというわけにもいかず、ジェラルド様と私は久しぶりに王都を訪れていた。

 自然豊かな田舎で伸び伸びと暮らしながらジェラルド様に愛される日々は、とても幸せで充実していた。

 実は、まだ私が8歳の頃に、ジェラルド様は王宮で私を見初めていて、王太子妃になる方だから当時は諦めるしかなかったと、結婚した後になって教えてくれた。

 どうやら王太子妃教育が辛くて、庭の隅で泣いていたところを見られてしまったらしくて、話を聞かされた時は恥ずかしくて堪らなかったけれど、その頃からずっと想い続けていたのだと聞かされればとても嬉しかった。

 ジェラルド様とは歳が離れているから、8歳の子供の頃に見初められたとなれば、そういったご趣味があるのかとも思ってしまったけれど、私の容姿ではなく、辛さを吐き出すように人知れず泣き、それでも周囲に心配をかけないように心を配っている様子に惹かれたのだと教えてくださった。

 このまま成長すればどれほど素晴らしい女性になるのだろうと、成長が楽しみになると同時に、決して手が届かない人なのだと諦めるしかなかったことがとても辛かったと告白されて、私はますますジェラルド様のことを好きになった。


 今の私は、王都にいた頃よりもずっと表情が豊かになっているはずだ。

 久しぶりに逢った家族や友人達には、とても美しくなったと褒められた。

 


「着飾ったティアを見るのは久しぶりだが、本当に美しいな。夫としてエスコートできるのが、とても誇らしいよ」



 久しぶりにきつくコルセットを締めて、きっちりと化粧を施した。

 以前と違い、少し露出の多い大人びたドレス姿が照れくさくて、ジェラルド様に見られるのが恥ずかしい。

 未婚の頃は清楚な娘らしいドレスが好まれるけど、結婚した後もそのようなドレスを纏うのは恥ずかしいこととされているので、少し胸元の空いたドレスにしたけれど、久しぶりのコルセットで胸の豊かさが強調されてしまっていた。

 王都にいた頃はがりがりに痩せていたので、胸はあまり目立たなかったけれど、結婚後、コルセットをしない健康的な生活のおかげか、胸元は女性らしくかなり豊かになった。

 以前とは別人のようにメリハリのある体つきになったと思う。

 ジェラルド様は私の変化をとても喜んでくださっていて、新婚の頃と変わらずどころか、新婚の頃よりも遥かに情熱的に愛してくださる。

 身も心も常に満たされていて、とても幸せだ。



「ジェラルド様も、とても素敵……。正装姿は、滅多に見られないのですから、目に焼き付けておかなければなりませんわね」



 顔を上げると、きっちりと髪を整えられ、逞しい体にぴったりと合うように仕立てられた夜会服を身にまとったジェラルド様がいて、うっとりと見惚れてしまう。

 王都によくいる線の細い男性とは違って、野性的でとても素敵で、誰にも見せたくないと思った。

 心のままにジェラルド様の腕に抱きつき、甘えるように身を寄せた。

 いつもみたいに擦り寄りたいけれど、せっかくメイドが整えてくれた髪が乱れたり、化粧が落ちたりすると困るので、これ以上は何もできない。



「可愛いな、ティア。でも、あまり甘えられると、寝室に連れ込みたくなるから、俺の理性を試すのはやめてくれ」



 私を軽く抱き寄せながら、ジェラルド様がいつもの冗談を口にする。

 


「ジェラルド様の理性は、毎日強化されているから大丈夫ですわ。あまり遅くなるといけませんから、出かけましょう。今夜は久しぶりに逢うお友達に、ジェラルド様を紹介できるのを楽しみにしていますの」



 いつものように返しながら、ジェラルド様を促して馬車へ向かった。

 急な結婚で王都を離れてしまったから、それっきり疎遠になってしまった人もいるけれど、中には今も手紙のやり取りをしている人もいる。

 王太子殿下の婚約者でなくなったら、離れていく人も多いかと思っていたけれど、疎遠になったのはほんの一部で、私は友人に恵まれていたのだと知ることができた。

 ずっと王都にくる機会がなかったので、手紙のやり取りばかりだったけれど、友人達のおかげで、辺境にいながら王都の出来事なども詳しく知ることができていた。


 今夜はフロスト殿下の成婚を祝う夜会だけど、殿下の相手はリリーではない。

 私の予測していた通り、リリーは厳しいお妃教育に耐えられず、王太子妃になることはできなかった。

 厳しいお妃教育だけではなく、暴漢に襲われかけたり、毒殺未遂があったりと、苦難の連続だったらしい。

 味方をしてくれるのはフロスト殿下だけで、リリーの家族でさえも、公爵家の令嬢から王太子妃の座を奪うなど申し訳ないと、リリーを責めたそうだ。

 娘が権力を持つことになれば、驕り高ぶる親族も多いけれど、リリーの両親は真っ当な感覚の持ち主であったようで、リリーが王太子妃候補となってからは、領地に引き籠ってしまった。

 リリーは心を病み、婚約を解消して、領地にいる家族の元で静養しているらしい。

 多分こうなるだろうとわかっていたから、友人たちの手紙で事の顛末を知った時も、驚きはしなかった。


 それに、リリーだけが特別辛い目にあっていたわけではない。

 私が殿下の婚約者だった時代も、毒には常に備えていたし、外に出るときは必ず護衛をつけていた。

 ちょっとした嫌がらせ程度は、いちいち騒ぎ立てたりしなかっただけでよくあることだったし、私を王太子殿下の婚約者の座から引きずり下ろしたい、重臣たちの嫌味も珍しくはなかった。

 お妃教育が始まったばかりの幼い頃、辛くて泣きごとを口にしたこともあったけど、それくらいのことは毅然として対処できなければ、一国の王の妃などとても務まらないと、厳しく叱責された。

 泣き言など口にして自ら弱みを晒すなど、愚か者のすることだと、より厳しい教育を課せられた。

 両親ならば絶対に私の味方をしてくれるとわかっていたけれど、でも、両親に泣きつけば心配をかけてしまうからと、必死に我慢した。

 それでもどうしても我慢できないときは、王宮の庭園にある東屋でこっそり泣いたものだ。

 まさかそれをジェラルド様に見られていたとは、思いもしなかったけれど。

 今になって考えてみれば、王家に望まれて婚約者になったにしては酷い扱いだったと思う。でも、あの辛い日々があったからこそ今の私があるのだから、悪いことばかりでもなかった。

 こんな風に思えるのも、今は幸せだからだろうか。





 久しぶりにお逢いしたフロスト殿下は、未来の国王に相応しい落ち着きを持った男性に成長していた。

 愛する人との別れや、それに至るまでの苦悩が殿下の成長を促したのだろう。

 王太子妃として殿下の隣に立っているのは、まだ16歳の宰相の末の令嬢だった。

 フロスト殿下とは少し年が離れているけれど、きちんと教育を受けた令嬢のようなので問題はないだろう。

 今も、元婚約者である私に対して、変に対抗意識を燃やすこともなく、淑女らしく対応している。


 ジェラルド様に付き添い、型通りの成婚のお祝いを述べただけで、すぐに殿下の元を離れた。

 元婚約者との対面を見守る、悪趣味な周囲の視線に気づいていたので、挨拶以上のことを口にしようとは思わなかった。

 今の私はジェラルド様の妻で、ただの臣下だ。

 王族と親し気に話をするような立場ではない。

 それに、ジェラルド様がやきもちを焼いているのか、ほんの少しピリピリしているのを感じたので、ジェラルド様を宥めるのを優先したい。

 


「ジェラルド様、少しテラスで休みませんか? 久しぶりの夜会で、気疲れしてしまったようですわ」



 いつものようにジェラルド様の腕を軽く引いて、背伸びをしながら話しかけると、ジェラルド様の表情が甘く崩れる。

 愛されているのだと、その表情や向けられる視線だけで伝わってきて、私も自然に微笑んでしまう。

 私の幸せは、ジェラルド様のもとにある。

 幸せを感じるたび、ジェラルド様を愛しいと思うたび、あの時、婚約解消されてよかったと、心から思うのだ。



「一刻も早く帰りたくなるから、あまり可愛い顔をしないでくれ」



 テラスへと私をエスコートしながら、ジェラルド様がいつもと同じ言葉を口にする。

 私の微笑み一つで理性を飛ばしてくださるジェラルド様が大好きなのだと伝えたいけれど、伝えてしまったら問答無用で連れ帰られるだろうから、今は我慢しよう。

 今日を逃せば、友人達にジェラルド様を紹介する機会を失ってしまうから。

 長年婚約者だった殿下のことは、どうでもよかった。

 私の心はジェラルド様でいっぱいで、殿下に心を揺らされることはないのだと再実感できただけでも、久しぶりに王都にやって来た意味はあったのかもしれないと思った。




あとは王太子視点のみで完結です。

アリーティアはこの時点で2児の母です。

妊娠、出産、子育てで忙しかったので、ずっと領地に籠っていました。

この後、『次は女の子が欲しいですわ』の一言で、ジェラルド氏陥落。

溺愛に更に拍車がかかる事でしょう。



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