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Blades and Shadows 〜業を切り裂く刃と闇を射落とす影〜  作者: さじき
Blade meets shadow?
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パラサイトアイ その2

 茶和田は欺かれたのだった。狡猾な能力者達が幾重にも張り巡らした罠に。


 パラサイトアイ、それは彼女茅場愛紗の持つ能力の名前だった。

 能力は目を合わせた人間を一定時間コントロールする能力、単純かつ強力な能力だったが一つ欠点があった。彼女に操られた人の記憶が消せないこと、特に操られる直前目を合わせた時の記憶は鮮明に残る。

 また、能力を使った人間を消そうにも人間の最も根源の欲求である生存欲はこの能力では犯せない。具体的には自殺させることはできないのだ。

 つまり一度操った人間から能力についての情報を秘匿することは不可能、それに加えて彼女の身体能力の低さから同じ人間を2度目にコントロールすることは不可能と言ってもよかった。


 だから彼女は人に頼った。組織で出会い今では恋人となった柏木翔馬のことを。彼の能力は自分の能力と非常に相性がよかった。初めはお互い知らない仲だったのだが相性のいい能力だとボスに見抜かれタッグを組むようになって以来二人は恋仲に発展していた。


 彼の能力、サタデーナイト・ラバーズは自分と自分が愛する人間の姿を入れ替える幻覚系能力。匂いや声、足音などは誤魔化せないお粗末な能力だがそれでも彼女の補佐には充分すぎる能力だ。

 能力を知るものに彼女は翔馬の姿を借りて警戒させずに接近してコントロールしたり、あるいは先程のように柏木翔馬の姿で相手に能力を使い、その後で能力を解除して本来の姿で無警戒なところを襲ったりと組織の中でもこの2人のタッグは評判は高かった。

 なにせ、通行人を駒に仕立てられるのだ。こちらは手をくださないため組織の存在を確実に秘匿できる。そんなこともあってかライメイを倒した実力未知数の能力者を倒すために派遣された。

 

 二人は自分の実力が高く認められたのだと喜んでいたのだが、この二人は知らない。なぜ茶和田のもとに自分たちが派遣されたのか本当の理由を。




「茶和田さん正気に戻って」


「茶和田くん気をしっかり持つんだ」


 二人の必死な呼びかけに茶和田は答えない。完全に意識を消失していてぼんやりとした顔で棒立ちをしている。そんな茶和田に茅場は語りかける。ねっとりとした声で。



「さあ2人を捕らえなさい、その刀で痛めつけて」


 フラフラとおぼつかない足取りで歩き出す茶和田、当然その目に光はなかった。もはや意思の無い殺人装置といえよう。今の彼の意識を取り戻せるのはもはや近所にある名門店 油の科学が作った特製油そばくらいしかない。


 だがそんな彼を見た警官は茶和田の前に立ち塞がった。体はボロボロでおまけに茶和田は凶器を持っている。だがそれでもだ。それでも彼を流れる正義の血が彼に逃げることを許さなかった。決して勇敢な彼を殺人鬼にしてはいけない。



「茶和田くん、もう一度言う。目を覚ましてくれ」


 邪魔臭く前に立ちふさがる警官に対して舌打ちをしながらも茅場はさらに前進するように命令を出し、二人の呼びかけにも目を覚まさない茶和田は次第次第に前進してきた。


 それを見てから警官はアリスに言った。


「すまない、彼を少し傷つけることになるかもしれない」


「え……」


 アリスは突然のことに戸惑い何も言い返せなかった。だが警官の目は真剣そのものだった。


「何を言ってるの、無能力者が能力者に勝てるとでも? やりなさい」


 茅場の声を聞いた茶和田はうおおおおと雄叫びを上げ、大きく手を振り上げた状態で突進してくる。だがしかしその手には刀は無かった。



 もう一度言おうその手には刀が無かった。



「なっなぜ……」


 茅場は驚きを隠せなかった。操られている人間が自分の意思で能力を停止させたというのか。いやそんなことできるはずはない。それに自分の能力は能力者に能力を使うようにコントロールさせることができる。仮にもし僅かな時間身体の主導権を取り戻して刀を消したとしても、すぐに刀を再出現させるはずだ。なのに今現在彼の手には刀が無かった。


「確かに私は君たちみたいに不思議な力は持っていない、けれど」


 警官はそう言って飛びかかると、茶和田はあっという間に取り押さえられた。手錠も嵌められ、もし刀を出現したとしてももはや振ることは出来ないだろう。拘束された彼は必死に離せと叫んでいるが声のトーンからこれも彼の意思ではないことは明確だった。


「武術がある。人を守るために苦労して身につけた武術がね。お前達に不思議な力があろうとそれが良からぬものなら私は負けはしない。さて次はお前だ」


 そこからはあっという間に片付いた。彼は負傷していると言うのに目を閉じながら茅場に接近し、さして苦労もせず取り押さえたのだった。そして警官は倒れている柏木も含め二人の能力者をすぐさま手錠をかけパトカーに乗せた。そして、愛里寿に礼をするとすぐさま警察署へ引き返していったのだった。





 茶和田が目を覚ますと朝になっていた。朝の8時20分、今日は日曜日だから学校はないもののいつもなら学校に行くためとっくに起きている時間だ。



「あれアリス? 俺は確か女に操られて……」



 目の前にはアリスが心配そうに彼のことを見つめていた。


「やっと目が覚めましたね」


「あーうん、俺は大丈夫だ。なんか体の節々が痛いけど。あの後何があったんだ」


 愛里寿は何があったのか語り出した。茶和田の手に持っていた刀が突然消えたこと、警官が茶和田を柔術で拘束したこと、そして敵の能力者の2人は手錠で繋がれて目隠しを付けられて状態でパトカーが連れていったこと。


「あの警官の方は茂木さんというらしくて、今度お礼したいですね」


「俺が寝ている間にそんな事があったのか。みんな怪我なくてよかった」


 自分の刀は消えていたというのが引っかかる。少なくともあの時は刀を消そうと考える時間すら無かったのだから。


「本当にもう大丈夫なんですか?」


「大丈夫だってヘーキヘーキ。ただ少し床に叩きつけられた時の痛みは残ってるけど」


 まあ死んでなくてよかった。下手したらあれで全面の可能性もあったからだ。


 能力者、それも自分みたいな単純な能力じゃなくて初見殺しの精神操作能力の恐ろしさはよく分かった。しかも彼らは長年能力であるから自分の能力の弱点をよく理解している。それを補う戦術や仲間を編み出しているわけだ。


 これからもこう言う奴らに狙われることを考えると自分にも仲間が必要なのかもしれない。茂木さんは同じ異能力関係の事件に巻き込まれた者同士これからも協力してくれるだろう。もしかしたら警官という立場から俺たちをサポートしてくれるかもしれない。そういう意味では得られたものは大きかった。



「さて気を取り直してゲームしようぜ」


「またですか……」


 そしてテレビを付けた瞬間、ニュースがやっていた。


「今日未明、東京都荒川区月暮里にて1台のパトカーが川の中に突っ込んでいるのが発見されました」


 アナウンサーは淡々と読み上げる。


「うちから近いですね」


「そうだな、物騒な世の中だ」


 まあ良くあるニュースだ。だが少し引っかかる。


「もう少し聞こうぜ」


 アナウンサーが続きを読み上げた。


「パトカーに乗っていた月暮里署の巡査 茂木顕彰さん34歳は意識不明の重症。無線からの連絡によると彼は暴力事件を起こしていた二人の容疑者を警察署に移送中だったとのことです。移送中だった容疑者の2人は見つかってないことから容疑者が何らかの手段で拘束を解き、パトカーを川に沈没させたものと見られます」


 空気が凍る。


「なっ……」


 嘘だろ? 茂木さんが!? あの俺たちを助けてくれた親切な警察官さんが……


「こっこんなの酷すぎる」


 自分も愛里寿も何も言う事は出来なかった。だが間違えなくテレビに出てくる顔写真は自分達の知ってる人の顔だった。


「きっと口封じだ……組織が口封じに彼を始末しようとしたんだ」


 そう言う茶和田の表情からは怒りと悲しみが混じっていた。本人は淡々とできる限り感情を殺して言おうとしていたつもりだったのにそれはできなかった。


 彼女は心配していた。自分を守ってくれた勇敢な巡査の命を。



 この時茶和田は心に決めた。能力を持たない人達を気軽に巻き込んではいけないと。この世界はもはや今まで自分がいた世界とは違う。人の命の重さが軽くて能力を持たない人間、持っていたとしても弱い人間はコロコロと殺されていく、そんな世界なのだ。もはや仲間として頼れるのは同じ能力者だけなのかもしれない。

 後にとあることにより考えを改めることになるのだがそれまではずっとこう考えてしまうほど、この事件の二人に与えた影響は大きかった。


 かくして茶和田と愛里寿二人の、仲間の能力者を探すための探索が始まった。








 一方その頃、茂木が入院している警察病院に周りの雰囲気から外れた奇妙な格好をした2人の人間が到着していた。


 一人は巫女装束に身を包み、髪を腰まで伸ばした女だ。女は売店で買ったアイスを舐めながら言った。


 「本当にここに能力者絡みの案件で入院している人がいるの? せっかくの休日に出勤させて無駄足だったら僕も許さないからね」


「それはない安心しろ。あとお前、遊び気分で来ているだろう。ボスは目立たない格好で来いと言ったのだが」


 隣にいた男がそれに口を挟む。だがそう言う男は一見普通の格好をしていたが、一つ問題があった。致命的にダサいのだ。大きな犬の顔と意味が通らない英語がプリントされたピンクのTシャツに、ポケットが人の口になっているズボン。顔が良いのが救いだが、もしイカつい人間なら通報されていただろう。


「いやーどうだろうね。君の方がよっぽど目立ってるように見えるけどね」


 そんな二人の前に一人の男が立ちふさがった。トレンチコートにスーツ、いかにも普通の格好だ。また年齢も若くまだ二十歳くらいにも見える。だがそんな男がこの二人の上司だった。


「二人とも休日に呼び出してすみません。ですが我々の存在はあくまで秘密事項なので目立たないようにお願いしますね」


 余裕溢れる話しぶりなのだが、この男の発言にはわずかな怒りが込められていた。それを二人は感じ取り謝罪した。


「「すみませーん、迅さん」」


 男は満足したように受付に向かう。その後に二人が付いてくる。


 受付の宇佐はその奇妙な集団を見つめていた。彼女はここでもう18年も働いている。仕事柄色んな人を見て来たため人を見る目には自信があった。だが、彼女はこの迅と言う男のようなタイプの人間は見たことがなかった。


 三人とも年齢は近しいように見えるが、その中でも彼だけは隠しきれない大物感があった。歩くときの所作や話しぶりで人の性格や今までの人生経験は滲み出る。だがそれを考えると彼の雰囲気はとても青年が出していいものではなかった。


(なんであの年齢であそこまで!?)


「私の顔に何かついてますか?」


 受付についた迅は宇佐に話しかけた。口調こそ丁寧だが、その裏には自分たちを詮索するなという強い警告が含まれていた。


「いえそんなことは……」


「分かりました。では近藤さんと代わってください」


「近藤ですか? 分かりました」


 宇佐は奥にいた近藤を呼んだ。そして、彼女の代わりに近藤が受付に立った。近藤は彼女がここに務める何年も前からここで働いている男だ。彼は何か事情を知っているのかもしれない。


「おやおや珍しいお客ですね、あなた方は一体どちらでしょうか?」


「この病院に入院している茂木巡査に用があって来たのですが」


「あなたは茂木巡査とどのようなご関係で?」


「はい、ではこちらを」


 迅はカードを取り出し近藤に見せる。すると、近藤の目つきが変わった。


「803号室です。そこに茂木巡査はいます」


 その言葉を聞いて、三人は礼を言うとゆらりとエレベーターの方へ引き返していった。




 三人が去った後、宇佐は近藤に小声で尋ねた。さすがに詮索してはいけないと言う内容なのはわかるのだが、このままでは気になってしょうがなかった。


「あれは一体何だったんですか」


 近藤は答えて言った。


「あなたには関係ないことです。と言ってもあなたは納得しないでしょうし、警察には一定以下の役職や一般人からは秘匿された部署がいくつもあるとだけ言っておきましょうか」



 さて一方、その頃三人は8階の通路を歩いていた。


「あの近藤って人は何だったの?」


 女の問いに迅は答えた。


「こういうところにも我々警視庁異能犯罪対策課の協力者はいるのですよ」


「ふーんそんなもんかー」


 彼女は納得したように呟く。その後は特に何もなく三人はしばらく歩き病室の前にたどり着いた。そして迅は言った。


「さてここからが本題です。我々は何としてでも彼を異能犯罪対策課のデスクへ運び、事情を聞く必要があります。彼は私の見立てによれば影の女王と接触している可能性が高いです」


「そんな大物と!?」


 女は驚き声を漏らした。


「でもどうやって運ぶんですか? あんなに周囲の目があるのに」


 迅は部下の男の質問にやれやれと言った表情で答えた。


「だから二人には目立たない格好でと言ったのですが、まあ仕方がありません。プランを変更して私の『能力』を使います」






 茂木がようやく意識を取り戻すとそこは知らない天井だった。


「ここは…… 確か俺は川から落ちて」


 だが周りを見渡してもとても病室には見えなかった。


 そんな動揺する茂木に一人の男が声をかけ言った。


「異能犯罪対策課へようこそ茂木巡査。我々はあなたを歓迎します」




DateFile


パラサイトアイ


茅場愛沙


 目を合わせた相手を洗脳、コントロールする能力。目を合わせる時間とコントロールできる時間は比例し1秒につきおよそ1分間である。目を合わせた人間が目線を逸らし目が合わなくなった瞬間に能力が発動するため、目を合わせ続けた状態で攻撃されることが意外な弱点でもある。

 またコントロールと言っても単純な命令を吹き込むことしか出来ず、また自殺することなど本能に反する命令は出来ない。



サタデーナイト・ラバーズ


柏木翔馬


 愛している人間と姿を入れ替える能力。入れ替えられるのは姿だけであり臭い、声、行動などによって簡単にバレてしまう。また入れ替わる対象とは一定距離(コンディション次第だが10数メートル)以内にいなくてはならない。姿を入れ替えるといっても幻覚的なものであり本当に姿を入れ替えている訳ではない。

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