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Blades and Shadows 〜業を切り裂く刃と闇を射落とす影〜  作者: さじき
Blade meets shadow?
2/17

ブレイド ミーツ シャドー その2

 どこにでもいる男子高校生、茶和田駿

 彼の平穏な日常は突如終わりを迎えた。


 しかし、日常の終わりがいつだって悲劇に繋がるとは限らない。

 人間の歴史だってそうだ。代わり映えのない日常を突き破って新たな時代が切り開かれてきた。そこには絶望もあっただろう。あるいは悲しみや後悔もあっただろう。

 だがそれだけではなかったはずだ。少しでもいい未来を掴もうと足掻く人々の姿がそこにはあったはずなのだ。

 そして彼の場合は……



「はぁはぁ……」


 自分があの男のような不思議な能力に目覚めてしまうとは……

 手を見る、そこには刀が握られていた。ああそうか、無意識のうちに動いていたから分からなかったが自分は刀を使って先程の攻撃を防いだのか。茶和田は震えが止まらなかった。


 いや無理だろ、勝てるわけがない。というか事情がまず飲み込めない、本当に俺が戦うのか?


 だが彼はその言葉を飲み飲んだ。勝たなければ最悪自分の死は確定するのだ。生き残るためには戦い、そして勝つしかない。後ろ向きな理由だが充分だ。

 彼の心には芽生えたばかりの闘志が燃えていた。事情は知らないが女の子を追いかけ回して大怪我させて、そして通行人の俺を口封じに殺そうとする悪党に負けるわけにはいかない。




「能力者だったか、あるいは今能力に覚醒したか。どちらでもいいな」


 掃除機の男はひとまずプラグを引っ込めてから舌打ちをした。少年を睨むその目には先程までの余裕はない。


 めんどくさいな、そう男は思った。

 能力は強い感情によって急に上の段階へ覚醒することがある。恐らくこの少年は『あの夜』に能力に目覚め、10年もの間眠っていた力を今呼び起こしたのだろう。

 まだ死ねないという強い思いで。


「諦めていれば、もう抗うことを止めてれば、能力が覚醒することは無かったというのに」


 そう男は面倒くさそうに言った。だがまだ声には余裕が感じられる。


 当然覚醒してすぐのまだ能力を使いこなせてない人間に負けるはずはない。

 しかし相手の能力が分からない以上何も言えないのだ。世界には様々な能力がある。自分に相性の悪い能力だって当然あるし、こういう仕事をしている以上初見殺しの能力だって遭遇したこともある。そこで男は揺さぶりをかけることにした。



「なぁお前、あの女と金輪際関わらないって言うんだったら逃がしてやってもいいぜ」


 突然の提案に茶和田は驚いた。

 この提案は彼にとって最高のはずだ。見ず知らずの女の子一人を捨てれば自分の命は助けて貰えるというのだから。

 自分は変な能力に目覚めたがそれでもなおこの男との実力差は歴然だ。何せ刀とプラグはリーチが違う。それに相手の能力に当たったらこっちは即死なのだ。



「いや……でも」


 茶和田の中で感情が揺れ動く。だが素直にハイとは言えなかった。



「妙だな、あの女とは何にも関わりの無いはずだ。どうして庇おうとする、もしかしてあれかあの女に惚れたか? それか能力に目覚めて俺に勝てると自惚れているのか?」


 ハハハと下品な笑いをする男を見て茶和田は手をパンと叩いて言った。


「分かった、お前の言う通り立ち去るわ」


 そう言い、茶和田はクルッと背中を向けて歩き出した。



 間抜けめと男は思った。そして茶和田の後ろ姿を憐れみを込めた目で見た。

 自分が闇の仕事をしてきて最も痛感したのが人を信じてはいけないということだ。敵はもちろん味方や依頼主もだ。

 全て全て全て疑わなくては生き残れない。特に能力を使って戦う世界では。


 だからこそ信頼だとか馴れ合いだとかそういった言葉は嫌いだった。事実、彼は数日前入ったばかりの能力者で構成された組織をわずか二日で脱退している。

 そこの連中に自分の能力を掃除機みたいだと馬鹿にされたからだという理由もあったが、仲間という概念を彼が受け入れられなかったのも大きい。


 世界の厳しさを教えてあげますか。そう呟きながら男はプラグを投げる。茶和田の頭に向かって。


「残念ながらここは甘ちゃんが生き残れるような優しい世界じゃないんだよ、お前がどういう能力なのかは分からないが死ね」



 しかし茶和田の行動は意外なものだった。彼がプラグを投げたわずかに後、突然立ち止まったのだ。そして彼は振り返った。


「なっ……」


 始末屋のプラグ男は動揺を隠せずにいた。


「一つ言い忘れてたぜ」


 茶和田は言い聞かせるように言った。まるでマナーの悪い子供をしつける親のように。


「人のスマホを取ったまま返さなかったらドロボウだってことをなぁーーーーーーーーー」


 そうスマホ中毒の彼が、ツイッターや本格派カードゲームに物凄い時間心血を注いできた彼がスマホを返してもらってもないのに手放すなんてありえない。引き継ぎも出来てないし。

 それはそうと茶和田は刀を構えた。そして飛んでくるプラグを迎撃する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 刀とプラグがぶつかる。先に折れたら負けな真剣勝負だ。彼は必死に歯を食いしばりプラグを刀で受け止め続ける。刀とプラグの間に火花が散る、茶和田は押されてジリジリと後退していく。

 だがついに、彼の奮闘の甲斐あってプラグは弾かれ、軌道がズレて近くのブロック塀に突き刺さった。



「ちっ……」


 男は舌打ちをした。

 能力の発現による身体的ステータスの上昇はよっぽど特別な能力を除いてほとんど全ての能力者に起こることだ。あいつの場合は動体視力や筋力の増加が起きているのか?

 いや違う、それだけじゃない。こいつは俺が不意打ちをすることを完全に予想していたのだ。


 男は頭の中で自分の攻撃が読まれた理由を必死に探った。理由など本来どうでもいいことだが自分の唯一の武器を弾き返されたショックから無駄に考えてしまった。そしてそれにより次の行動に支障が出る、プラグを手元に戻すのをわずか数秒遅れたのだった。


 その数秒の遅れが命取りとなった。茶和田は男に向かって刀を投げ付けた。


「おらァァァァァァァァァ」


 自分を守ってくれる唯一の武器を手放し、当たるか分からないのに相手に向かって投げつける。これは尋常なる人間には思いつくはずもない。そういう意味では茶和田は元から戦闘のセンスはあったのだ。



「な……に……!!」


 予想外の行動に慌ててプラグを戻そうとする。だが遅い、プラグを巻き取るスピードよりも刀が飛んでくるスピードの方が速くガードはしきれない。そう詰みだ。




 グサリと音を立て刀が胸に突き刺さる。鮮血が吹き出す、体温が下がっていく。

 そうかこれか。これが死か。新鮮なようでそれでいて懐かしいような感覚。これが今まで自分が殺してきた相手が感じていた感覚か。ついに自分がそれを味わう側へ来たのか。不思議と絶望はない。だが……

 ああ、こんなところで。誰の温かさにも触れることもなく死ぬのか…… 寂しさはある。

 だがそんな男の意識は途絶えた。思考も感情もその全てが放棄され暗闇に投げ出された。





 しばらくして茶和田は男の死体に駆け寄った。


「やった……のか」


 男の心の音は確かに停止している。ついに倒したのだ。これで自分が殺られることはない。安心から崩れ落ちてしまった。



 深呼吸した茶和田は落ち着いて立ち上がる。しかしそれと同時に心配になってきた。


「殺してしまった。人を……」


 敵の能力者を殺してしまったことに罪悪感は無かった。だって相手から殺しにかかってきたのだ。殺らなきゃ殺られていた。正当防衛だ。


 しかしそれを司法に、警察に訴えることが出来るのか。それが彼の心配だった。

 何しろこちらは刀を使って殺害したのに対して相手は掃除機のプラグだ。プラグで襲ってきたんです、殺されそうだったんですと言っても狂人扱いされるのが関の山だろう。


 そんな心配を頭に浮かべていると突如男の体が炭化し始めた。



「何が起きてるんだ!?」


 そして炭化した死体は風に吹かれて散っていった。地面に散った血もだ。残ったのは自分のスマートフォンと刀のみだった。

 なるほど能力者は死んだら炭化するのか。いや科学的におかしいのは分かる。仮にも茶和田は物理化学を選択してる理系高校生だからだ。

 だがそれを言ったら能力もそうだろう。今は流れに身を任せるしかない。そういうものがあるんだと思っておこう。


 しばらくすると刀も光の粒子に包まれ消えた。スマートフォンを回収した茶和田はスリープモードを解除する。特に弄られた形跡はないようだ。そしてその足でゲームを起動し引き継ぎコードを発行した。


「ああ心配した。もしあいつにスマートフォンが破壊されてしまったらと思うと心が凍ったみたいだったぜ」



 ホット胸を下ろした茶和田は彼女のことを思い出した。


 疑問は沢山ある、飲み込めない事情も沢山ある。だがあの子は今もあの場所で倒れているはずだ。何よりも急いで戻らなくては。ゲームの引き継ぎコードを優先した彼が何を言ってるんだと思うかもしれないがあれはノーカウントだ。






 少女が目を覚ますとそこは見知らぬ洋室だった。

 部屋には舶来品と思しき高級な家具や絵画や彫刻が置かれている。自分が寝っ転がっているベッドもふかふかだ。


 何故ここにいるのか、記憶を辿ってみてもあの男に襲われて屋根から落ちるところで終わっている。



「やったーー、目が覚めたみたいだ」


 周りに一人の少年が立っていて駆け寄ってくる。見知らぬ顔だ。


「あなたは……何者?」


 その質問に少年は答えた。


「俺の名前は茶和田駿、どこにでもいるただの高校生だった者だよ」


「だった……!?」


「ああ能力に目覚めちゃったみたいで、んでもって能力者も一人倒した。なんか掃除機みたいなやつ」


「えっえーーーーーーーー」


 部屋に少女の驚いた声が響き渡った。






Data File


能力者名 ライ・メイ


好きな物 煮干し、ワニ皮


嫌いな物 他人、自分を掃除機みたいと呼ばれること


能力名 ダイソン・ビック・フック


能力詳細


 右の手のひらから掃除機のプラグを出すことが出来る。プラグはある程度自由に操作ができ最大10mまで伸びる。最大速度は時速10km。

 固体に触れるとプラグは停止し、まるでコンセントに刺さったかのようにピッタリとハマる。

 これだけでも遠くにあるものを引っ掛けて持ってこれたり壁に引っ掛けて登ったりと応用の効く便利能力だが、この能力の本質はそこではない。

 プラグの刺さった固体からライメイの意思により力を吸収できるのだ。力を完全に吸われた固体は萎びて崩壊する。また力を吸われてる際抵抗してもプラグを抜くことは出来ない。

 茶和田の刀は能力によって作られたものであるため唯一プラグに干渉し弾くことが出来た。


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