幕間(2) 「大魔導師」
むぅ……。
いくら考えても、師匠にどう説明して良いか分からん。マントを買いに出かけたのに、どうして俺は今、子供用の服屋を探しているのか。
さっき聞いたおばさんの話だと、この辺りなんだが。
ソランは呑気に眠っているし。
満腹して、良い気分になっているんだろうな。やっぱ、ポーションンのせいかね。さすがに、あれだけの量を食えるとは、それ以外、説明が付かない。
ようは、内臓機能が向上したということだろうね。
(1)RaC:H&E
(2)LvP:6
(3)SkL:3
(4)MgP:82/104
ちょっ! さっき、Lv3じゃなかったっけ?
魔力容量も、77だったよな。覚えやすい数字だったから、間違いないはずだ。魔力容量って、ポーション飲んだら増えるんか?
んなわきゃねぇって。ポーション作る時に、俺自身、何度も味見してる。俺にとっては魔力容量はあまり意味がないから、一々チェックしたことはなかったけど、こんな分かりやすく増えてれば、さすがに気付くっしょ。
人とエルフのハーフみたいだし、種族特性か、それとも今までよっぽど栄養不足で成長が抑制されていたか。
あまり考えても意味はないか。低スペックには違いないしね。もっとも、ただの小間使いだ。馬鹿でない頭と、ノロマでない運動神経があれば、それで十分だけどね。
お? ここか。
アラトでも、王都となると、子供用の靴や服が一式揃う店があるんだよな。
まぁ、別に恥ずかしがることでもないか。こいつのシャツの下がすっぽんぽんだとしても、子供だしな。適当なサイズの靴と服を買ったら、とっとと店を出よう。
「いらっしゃいませ!」
くそ、やっぱ、子供服店の主は女だったか。30代後半ってとこか。
ここは店主が若い女の子じゃなくて、良かったとすべきか。
「すみません、この子の靴を二足、下着を5セット、服も適当なのを何着か選んでくれませんか?」
「おや、妹さんは、おねむですか?」
「妹ではないんですがね。ちょっと疲れたみたいで。出来れば、起こさずに頼めますか? 途中で起きたら、それはそれで構いませんので」
「よござんしょ。私も人の親。覚えはあります。最高に可愛い服を選ばせて頂きますわ」
何か、いろいろと察してくれたんかな。可愛くなくても、実用的なら、それで良いんだけどね。
おや、このブーツはカッコ良いな。
「あの、靴は一足はこれでお願いします。もう一足も、旅に履かせるんで、出来れば丈夫なものをお願いします。」
カッコ良いブーツが目についたので、一足目はこいつで良いだろう。金具が白くてワンポイントになってる。子供用のハーフブーツとしては、洒落てるし、可愛い。
「そのブーツは、6000セラしますが、大丈夫でしょうか?」
日本円の感覚だと、6万くらいか。そんなもんだろ。高いちゃ高いけど、工業製品じゃないからな。手作りなら、むしろ安いくらいだ。庶民の子供は、もっと薄い革の靴を履いてたな。靴と言うより、袋っぽいと言うか。材料費や加工のしやすさが違うんだろう。
「構いません」
子供用の革製ブーツにしては、丈夫そうで、野暮ったくもない。ソランには、ちょっとサイズが大きいかな。でも、これくらいなら、靴下と中敷で調整できるだろ。あれだけ食ってりゃ、すぐに成長もするだろうし。
「一応、参考までに、予算はいかほどで?」
確か、俺が師匠に一式揃えてもらった時が、30万くらいだったよな。子供服は高いらしいし、なら、同じくらいで良いか。
「全部で、3万セラくらいでお願いします」
「か、畏まりましたっ!!」
それからは、あっという間だった。3万セラは奮発しすぎだったらしい。まぁ、でも、子供服が高いのは、日本でもそうだったしな。それに、師匠が認めてくれれば、『大魔導師』と旅を同じくするわけだ。みっともない格好は、師匠に恥をかかせるだけだろう。
革製ハーフブーツ(6000セラ=約6万円)
スウェード靴(5000セラ=約5万円)
厚手の靴下×5(1000セラ=約1万円)
下着セット×5(2500セラ=約2万5千円)
シャツ×3(3600セラ=約3万6千円)
革製ロングベスト×1(1万セラ=約10万円)
ワンピース×1(3000セラ=約3万円)
キュロットパンツ×2(3000セラ=約3万円)
全部で、3万4100セラ、日本円にして、34万1000円ってところか。
確かに革製ロングベストは可愛いし、カッコ良いが、特に魔術的付与もないのに10万もするとは……。やっぱ、材料費かね。何の革使ってんだろ。
革製ロングベストの金具は、暇な時にでも、ブーツに合わせて白いのに変えてやるか。土魔術を使えば、そう難しくもあるまい。
「あと、これらが全て入る袋をお願いします」
「袋は、こちらで宜しいでしょうか? この帽子とリボン、ハンカチはサービスさせて頂きますわ。全部で3万4千セラでございます」
ソランはまだ寝ている。
子供の寝顔は可愛いもんだな。
俺は金貨を4枚出し、お釣りを受け取って店を出た。店を出たら、すぐに袋ごと、マギバッグにつっこんだ。
ボラれたわけじゃないだろうけど、そこまでニコニコされると、逆に気味が悪いぞ、店主よ。
さて、こいつはぐっすり眠っているから良いとして、問題は師匠だな。
もう、日没も近いし、宿に帰るしかない。
マントは今日は諦めるしかないだろう。
何と言って、許しを請うか。
拾ったもんは仕方が無いし、今更捨てるわけにも行かん。
最悪、師匠とは別行動になるかも知れんな。
くそ、こういう時に限って、宿までの道が速い。
もう、宿が見えてきやがった。
「202号室ですが、連れはもう帰ってますか?」
「はい、先ほど」
くそ、もう帰ってたか。
冷静に考えたら、どう考えてもおかしい。
俺自身、師匠に拾ってもらったようなもんだ。そんな俺が分を弁えず、乞食の子を拾って来ただと?
あり得ん。
まっすぐ行くしかないか。
師匠には結界の索敵がある。俺が帰ったことにはとっくに気付いているはずだ。
階段の下でぐずぐずしていても仕方が無い。
「師匠、ただいま帰りました」
「おぅ、ヒロト――、何というか、随分変わったマントじゃな」
ソランは俺の首にしがみつくように抱きついている。
「途中で拾ったんですが、マントを買う手間が省けましたよ。ははは」
「『飼う』手間は増えそうじゃがな、ふほほほ」
「さすが師匠、ジョークもキレキレですね」
「うむ、詳しく話を聞こうかの」
結論から言おう。
師匠は、許してくれた――というより、特に問題にはしなかった。
「まぁ、お主ほどの魔術師なら、弟子の一人や二人おっても、不思議はない。一流の魔術師に育ててやりなさい」
何ともありがたい師匠のお言葉。
だが、師匠がソランを認めたのは、俺が「お主ほどの魔術師」だからではないだろう。
師匠の目が、完全におじいちゃんの目になっていたのがその証拠だ。ソランがハーフエルフだというのも、理由かも知れない。
「ほら、ソラン、起きろ」
「あぁ……、良い匂いが気もちよかったので、ねむってしまいました。すみません、神様」
「神様はよせと言ったろ。えと、こちらが俺の師匠で、『大魔導師』エンゾ・シュバイツ様だ。挨拶しろ」
さっきも神様言ってたな。何だよ、神様て。
死にそうなところを拾ってやったからか?
「神様か。なかなか良い名で呼ばせておるのぅ」
「こ、こちらが、神様以上の神様、『だいまどうし』さま…」
こいつは何を言ってるんだ?
ぷるぷる震えとる。
良く分からんが、ソランは『大魔導師』を何か、凄いものと勘違いしているらしいな。いや、師匠は実際、凄いし、『大魔導師』も凄いけどさ。何か違うよ!
妙な勘違いさせるようなことは、言ってないはずだがな。
「いかにも。目指すは魔道の極み、わしが『大魔導師』エンゾ・シュバイツじゃ」
ソランは、片膝をつき、両手を握って、お祈りのポーズをする。
師匠が俺を見る。
いや、俺は何も仕込んでないぞ。
何だ、この状況。
「目ざすは魔どうのきわみ、ヒロトが弟子、ソランともうします。『だいまどうし』さま、よろしくおねがいします」
いやはや、立派な宣誓だ。
この子、意外と頭は良いのかもね。
俺も鼻が高いよ。
つか、いつ、俺の弟子になったんだよ。
弟子の弟子で、師匠にとっては孫弟子か?
師匠も、ソランに乗せられて、妙なノリになってるな。
「うむ、ヒロトの弟子ソランよ。立派な心掛けじゃ。目指すは同じ、魔道の極み。お主も『大魔導師』を目指し、励むが良い」
何だ、こりゃ?
どういうコントだ?
「はいっ!」
何か、目がキラキラしているし。
だめだ、さすがにこのノリには付いて行けん。
俺はマギバッグから服屋の袋を取り出すと、ソランに手渡す。
「お前は寝ていたから、靴と服を買っておいたぞ。まぁ、あれだ、選んだのは俺じゃなくて、店主だからな。好みじゃなくても、俺に文句は言うなよ」
「ヒロトさま、こ、これをわたしに……?」
袋ごと抱きしめるか。
うむ、テンプレ通りの良い喜びっぷりだ。
感極まったのか、涙まで浮かべとる。
こいつ、おっさんの喜びそうなポイントはきっちり押えてくるな。
ソランがまた膝をつきそうだったので、俺は慌てて制す。
妙な世界に俺を巻き込むな。
「いらん、いらん、俺はそういうのはいらんぞ。ありがとうの一言あれば十分だ。嬉しいなら、服を着て見せてくれれば良い。下着も入っているから、ちゃんと着けるんだぞ」
「ありがとうございます、神っ、ヒロトさま」
それからはもう、大騒ぎだった。
特に師匠が。
それほど多くの服を買ったわけではないけど、まぁ、あれだ。
お約束の着せ替え人形ってやつだな。
ああ、確かに可愛いかったよ。
店主のセンスはなかなかのもんだ。
今は、上は青いシャツ、下はベージュのキュロットパンツをはいている。その上から、革のロングベスト。足元の、俺が選んだハーフブーツが、実に似合っている。
まだ子供だし、将来、美人に育つかどうかは分からんけど、子供らしい明るさと、元気さがあるな。元気な子供は良いもんだ。
風魔術で、鬱陶しい髪を切ってやったら、ソランも師匠も大喜びだった。
いわゆる、「ピクシーカット」ってやつだ。
ブレピーで画像を出して、見よう見真似で刈ってみたが、上手く行った。
女用のショートカットだな。
我ながら、仕上がりは悪くない。
少しずつ、様子を見ながら、短くしていったのが勝因だ。
あぁ、敗北が知りたい。
いや、別に、失敗を重ねて、最終的にピクシー・カットになったわけじゃないぞ。そういう髪型なんだ。
ソランはエルフの血が入っているが、耳は人族と大して変わらない。よく見れば、申し訳程度に、耳の上部が鋭角的、というレベルだ。
ショートカットはむしろ、似合っている。
それにしても、商業区の廃材置き場で初めて見た時とは、大違いだな。
満腹するだけで、これほど元気になるのかね。
拾った時はガリガリだったが、いくらか肉が付いたような気さえするほどだ。
何か、さっきから時々、師匠の腕輪や、俺の腕輪を見ているな。
気付かれないように、チラッチラッと控え目に観察している姿が可愛い。ジロジロ見るのは、失礼だと思っているのかな?
まぁ、気になるのだろうな。
俺はブレピーも合わせて二つだけど、師匠は両腕で四つも付けているからな。
ソランは魔術師を知らないだろうから、腕輪は魔術師の証のように思えるのかも知れん。
俺には大して綺麗には見えんけど、師匠は相当気に入ってるんだよな。アラト人のセンスでは、美しい宝飾品として感じられるのかも知れん。その辺りのセンスは、まだ身に付かないよ。
仕方が無い。
明日にでも、ソラン用に腕輪を作ってやるか。
4~5歳のガキが、『腕輪の魔術師』というわけには行かんが、格好だけでも、合わせてやるのも悪くない。
『大魔導師』を目指すというのなら、励みにもなるだろう。
ちなみにその日、ソランは師匠のベッドで寝ることになった。
師匠が「わしのベッドで寝かせる」と言って聞かなかったからだ。
完全におじいちゃんだな。




