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霜月始めの土曜、今日は秋祭り。この山を囲う村々がそれぞれ大太鼓や小太鼓、屋根や提灯、そして今年の神田で採れた稲の束を持ち寄って作り上げた山車が早朝から神社の駐車場を出発した。すっかり着飾って山車となった軽トラの屋根に腰掛け太鼓に合わせて体を揺らす。
山車は村の第一集会所で停り、乗っていた余興団が爆竹に火を点けて空に放り投げた。耳をつんざく音と揺れる空気、その後はいつも通りに集会所に集まっていた村人から酒やつまみ、祝儀を受け取り次の場所へ。これを繰り返して祭りの始まりを知らせて回る。
山車の屋根に用意されたあたりめを摘みながらお囃子の笛を口ずさむ。祭りは大好きだ。
もう一つ、と手を伸ばした途端供え用の升が引っ込められてしまった。
「ほ、減っとるな」
「今年も若神様が一緒に回って下さっとるな」
山車から太鼓爺達の声、周りからは若衆が覗き込んでいる。
「カラスに食われたんじゃね?」
「さっき風が吹いたもんで飛ばされたんだろ」
それを聞いて爺等は小馬鹿にしたように笑った
「ほほ、そんな事言っとるようではまだ迎え太鼓は叩けんな」
「飴っこ入れてやるかな?」
「そりゃえい、甘いんもお好きだと神官様が言っとった」
再び供えられた升の中には苺と乳の飴とチョコレイトが増えていた。どちらも好きだ!
山車は山を一回りした後神社へ戻り、余興団は皆で酒を飲みつつ爆竹を飛ばし始めた。
少しづつ人が集まりだしたのを背に山頂へ向かう。
鳥居をくぐり本殿へと飛び込み博恵達が綺麗に掃き清めた境内へ、父と話しているのは祖父だ。
「じじ様!よく参られました!!」
「おお、坊。相も変わらず元気そうじゃな」
父とよく似た祖父は別の山を治めているためあまり会うことはないが、祭りの日にはこうやって様子を見にきてくれたりもする。父は一人前の山神として少し思う所があるらしいけど坊は会えるのが嬉しいからいいと思う。
「うん、元気じゃ!さっきは山車と一緒に山をぐるりしてきた!!」
「はっは、じじの喋りを真似るのも相変わらずじゃな」
祖父に抱き上げられくん、と嗅ぐと他の山の匂いがした。