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山に戻り皆で塩むすびを食べた。
母が何かを言いたそうにこちらを見ている。
先程、神域から出た時に気づいた。もう、坊は十分に育っている。本性は未だ定まらず、ぐるぐると内で渦巻いてはいるものの、外から揺らぐ事は無い。
昔なら、それこそ父の時代ならば鬼退治等理由に事欠かなかったろうが、乱れの無いこの時代、一体何と言って出ればいいのだろうか。
「父様、母様」
切り出すと、父はまっすぐにこちらを見据えた。
「……行くのか?」
「はい」
対照的に、母はこちらを見ようとしなかった。
「そんなに急がなくても……」
「今の世では機会など来ません。今日気付いたので今日発ちます」
「せめて何か……」
「いえ、何も要りません。では、今までお世話になりました」
ここにあるのは全て父の物だ。父の社、父の山、父の神使、父の神官、父の民、父の村。
身、一つでそこを後にした。
名残を惜しむ木々を背に本殿を抜け、鳥居をくぐり、山を降り、神官の吉村家の傍を通り、一石村を縦断する。
ここから先は知らない土地だ。
「さて、ここから何かに会うまでずうっとまっすぐ行ってみるか」
思いの外軽い一歩を踏み出して、さくさくと進んで行く。
これから先どうしようか?
気に入った地に山を造るも良し、ふらふら当てもなく歩き続けるも良し、四半分は人であるからして人に混じってみるのも面白い。退魔師とやらもすこうし気になっている。
「何に会うかで決めよう。どうにもなるだろう。坊は……」
未だ名は無いが、もう坊では無い。
「我は、父と母の子だからな!」




